第3話 亡命

俺は目を覚ますとソファーに寝かされていた。建物の外からは何人もの人が騒いでいるのが聞こえる。少し頭を上げて周りを見ると何かの応接間の様だった。家具の配置がいつも御接待に行っていた事務所と同じだった。何か決まりでもあるのだろうか。

「目が覚めましたか」

頭の方から声がして私は一度頭を下げて目を上にやったが、すぐによろよろと起き上がってソファーに座ろうとした。

「初めまして、カザフスタン大使館一等書記官のパーベル ヴェレミエンコです。まだ横になっていても大丈夫ですよ」

その一等書記官は板垣退助のような髭を生やして肌が白くがたいのいい外国人だった。日本語はきれいだが、鼻から抜けるような話し方でいかにも外国人らしかった。

俺は一等書記官の声に安心してこのまま横になっていようかとも考えたが、すぐに体を起こして自分のよこになっていたソファーに腰かけた。ソファーは私が座るとぐっと奥まで沈み込んで自分の思うような姿勢になるのに時間がかかった。

「もう大丈夫です。ありがとうございます」

「それはよかった」

その後、私たちは少し沈黙しあった。私は建物の外からざわざわと声が聞こえるのに気が付いて、立ち上がった。窓に近づきかかっていた縦型のブラインドカーテンを触ろうとすると一等書記官が俺に話しかけてきた。

「テレビ局などが集まってるんです」

私は一等書記官の彼に話しかけられるとカーテンを触ろうとしていた手がすぐんで、手を引っ込めてしまった。

「本国はあなたの亡命を認めるつもりだそうです」

俺はその時、自分が亡命したのだと思い出した。だがなぜ認められたのだろう。俺は今、テレビで爆弾魔されていて、なおかつ警察に追われてきたというのに。もしかしたらこれは俺を逮捕する罠かもしれない。

「その顔ですと、なぜ亡命できたか不思議そうですね」

「ええ、いやだって……」

「我々も最初は亡命を認めないつもりでした。ですがね」

一等書記官の彼は私の言葉を遮り話し始めた。

「日本のマフィアが買収しようとしてきたんですよ。金はあるから亡命を許すなって、我々も日本の警察と日本のマフィアの関係はある程度まで知っていますからね、我々はあなたが潔白であると踏んで亡命を認める方向で動き始めたんですよ」

驚きだ。どこかも知らない国が俺の為に裏でこんなに動いてたなんて。

「我々は日本人が好きです。ですが日本の政府とマフィアは嫌いです」

「煙石さん、最終確認です。我が国に亡命しますか?」

どこで俺の名をっと思ったがおそらくニュースで晒されているのだろう。

「そういえば、ここはどこの国の大使館なのですか」

「それも知らずに亡命してきたんですが」

一等書記官の彼は少し微笑んでそう言ってくれたが、まずいと思った。

「すいません、そういうつもりでは」

「いやいいんです。アジアの端の国ですからね。覚えてなくて当然です。マフィアの連中は我々を中東から来たと思ってましたし」

「それで、あなたは来るのですか?カザフスタンに」

カザフスタン、俺は聞きなれない名前の国だ。だがその時の俺は一切の不安を忘れてこの国に身を預けたくなった。この黄色い太陽の水色の国旗に、俺はかけてみようと思う。

「はい。お願いします」

Здоровоそれは良かった!煙石、大使に報告してきます」

そういうと彼は颯爽と得屋を出て行った。これで一安心。そう思った。だがこの後あんなに壮絶なことになるとはこの時は考えていなかった。カザフスタンという辺境の地に胸躍らせていただけだった。

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テスカトリポカ 若宮 夢路 @wakamiya_yumezi

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