第2話 逃亡

目の前で燃える自分のアパートの残骸を見て、俺は手元の腕時計を見た。時間は3時18秒、不自然すぎる時間だった。俺は急いで立ち上がるとその場から逃げるように立ち去った。そして息が切れるまで走り続けた。


30分くらいは知った後俺は逃げた先の公園のベンチに座って今の状況に頭を悩ませていた。だが考えられる結論は一つ。あのUSBメモリーだ。警視総監の佐々木、暴力団組長の篠田、誰が俺のアパートを爆破するように仕向けたのか分からないが、俺はあのUSBメモリーが原因で命を狙われている事は分かった。俺はそのUSBメモリーを確認しようとポケットに手を突っ込んでポケットの中を手で探し回った。

無い。

USBメモリーが無いのである。まさか走っている間に落としたのか。最悪なことに今、俺は警察か暴力団に命を狙われ、その狙われるようになった原因を失ってしまったからだ。

俺がベンチから腰を上げたのは日が昇ってきてからだった。俺はその足で近くにあったカレー屋に入って朝食をとることにした。



3時間半前、東京 警視庁 警視総監執務室

「警視総監殿、例の工作は成功しました」

「メディアへの発表は?」

「問題ありません」

「よろしい下がってくれ、電話をする」

まったく困ったやつである。警視総監と大物ヤクザの会合の温泉を録音しようとしたなんて。彼は少し嘘が下手すぎる。彼は問題ないと安心しきっていたようだがUSBメモリーに音声レコーダーなんて考えればわかる事だ。安易なんだよ。

私は目の前の執務机の上の受話器を取ると早速、風神社の方に電話を入れた。社長は寝ているらしく少し電話に出るまで長かった。

「はい、風神社の神谷です」

「社長さんよ、今日、組に来た坊ちゃん、とんでもないやつだったよ」

「申し訳ありません、私の社員が失礼を……」

「いやもういいんだ。彼を家ごとすっ飛ばしたからね、君には事後報告だよ」

「煙石が家に帰っていたのですか?」

「どういうことだ神谷」

「いえ、煙石の方が会社を出たのが一時間前くらいだったので、家についているのかどうか」

何というこだ、こんな時間にも帰宅してないというのか!

「神谷!お前は労働環境を見直せ、ブラック企業が」

俺は受話器を耳から離し、電話のフックを素早く押すと部下に電話を掛けた。

「ターゲットが生きている可能性がある。今すぐ探せ」

おそらく彼はUSBを盾に自分を守ろうとするだろう。その時に殺せばいい。簡単なことだ。



3時間半後 東京 某カレー店

俺がカレーを食べ終わって店を出ようとするとき店の後ろの方にあったテレビを見るとニュースで俺のアパートが映し出されていた。アパートは未だに燃えていて消防車が何台か並んでいる。

「警察はこの爆発の原因が爆発元の部屋の住人を容疑者とし、都内の警察官に顔写真を配り捜査を進めてるとのことです」

その言葉を聞いた瞬間落ち着いてきた俺の心がまた不安定になっていた。

俺は都内は危険だと思い新幹線を使って田舎の方に逃げようと考えた。俺はカレー屋を出て歩いていく時に持っていたスマートフォンで新幹線の席を予約すると急いで東京駅に向かうことにした。

最寄りの駅に着くと地下鉄に乗って東京まで乗り換えをせず行くことにした。その方が電車にいる時間が長く警察と会いにくいからだ。地下鉄に乗っている間にいろいろなことを考えた。田舎に行ったらどこに隠れようとか、指名手配されないかとか。

ずっと同じことを考えていると、人身事故が原因で駅に電車が少し長く止まる事になった。俺は不安な気持ちになって向こうのホームを見てると、すこし怖くなるような光景を目撃した。駅員、もしくは車掌らしき人物と警察官3人が話している。一瞬、自分を捕まえに来たかと思ったのだが、おそらく人身事故関連だろう。そう思ってみていると警察官がこちらを見ると私と目が合った。お互い1秒ほど目を見あっていたが、警察官が走り出すとほぼ同時に俺も走り出した。俺はホームを死ぬような思いで走って行って改札機を飛び越えると階段を駆け上がって行って小さな地下鉄出口から外に出た。車道の向こう側に停車しているパトカーを見るとさっきの警察官が急いで助手製側に乗り込んでいる。

俺は目の前の道を本気で走って行った。10秒もしないうちにパトカーのサイレンの音が聞こえてきていた。だんだん音が近づいてくるが途中で少し止まったようだ。さっと後ろを振り返ると黒塗りの街宣車が大使館らしき場所に駐車していて、パトカーが足止めを食らっていた。大使館の国旗を見るあたりロシアの様だ。

少し安心したのもつかの間、後ろから警察官が走って二人こちらに向かってきていた。俺は急いで道をそれて路地に入っていった。路地を出ると一車線の道路が通っていて周りは小さいビルか事務所かが立ち並んでいた。俺は後ろから迫ってくる警察官を背に走って行った入り組んだ道で巻こうとしたが警察官の方が足が速い。俺は息が切れてもう体力的にも限界だった。

俺は走るうちに知らない国旗が揺れている建物を見つけた。建物は鉄柵で囲われていて返し槍がついていたが、ちょうど門の部分に返し槍がついてなく俺は備え付けの花壇に足をかけると藁をもすがる思いで門に食らいついた。門の上のふちが腹にあたって少し痛んだ。そのまま頭から門から落ちて、自分では門の内側か外側か分からなかった。

「捕まえたぞ!」

「待て!大使館だ!」

そんなやり取りが聞こえて、俺は安心した。どうやら体を強く打ったらしく自力で起き上がれない。大使館の中から白人の金髪の男性が出てきて私を驚いたように、だが心配そうに見ている。警察官が騒いでる声が聞こえる中、俺は必死に亡命したいと叫んだ。

「I go to exile... I go to exile......」

白人の男は一瞬警察官を見たが、すぐに横たわっている私をみて、いつの間にか建物から出てきていた若い女性に何か聞き取れない言語で声をかけると、女性は私を担いで建物の中へ入っていった。

白人の男は何やら警察と話している。その右上には水色に黄色い太陽の旗がカーテンの様にクシャっとポールに絡みついていた。

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