第6話

 あの時のシャボンの液とストローは、まだ僕の手元にあった。僕はシャボン玉を大きく大きく膨らませてみた。僕の身体は飛ばなかった。その代わりに、夕暮れの遊園地で一人ベンチに腰を下ろし、泣いていたあの女性の姿が見えた。

 何故、泣いていたのだろう? あのすてきな恋人と、結婚できるのに・・・。


 ――このまま、ずっと飛んでいられたらいいのにね。

 シャボンの中で、女の人が小さく呟いた。

 ――これは、夢なの。小さな子供の夢。現実を思い出すと、消えてしまうのよ。

 悲しそうに、あの女性が言う。僕にはわからない。だって、僕は大人になりたいから。子供に見られたくないから。いつか大人になる夢を、いつも見ていたから。

 もう、小さな子供ではいられないの・・・。

 僕は、あの女性をなぐさめたかった。飛んでいって、走っていって・・・。シャボン玉はパチンと弾けた。

 テーブルの上の新聞紙が、風に吹かれて、パラパラと小さな音を立てた。

 おしまい。

 

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シャボン玉 ある☆ふぁるど @ryuetto23

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