「白狼無知で反逆戦線」

低迷アクション

第1話

白狼無知で反逆戦線 



まれにではあるが、狼の中に白い毛並みのモノが生まれる事がある。

いわゆる“白狼”の事だ。白き狼は、その毛色の珍しさゆえに、仲間からは忌み嫌われ、

挙句、猟師に希少な獲物として、常に狙われ続けていく。


 同族にも嫌われ、狩人達に狙われる存在は、そのほとんどが死に至る。生き残った者は

強さと深い孤独を纏い、あてのない戦いを続け、今日も“居場所”を求めて、

さまよい続ける…



 戦いは完全にこちら側に“有利な展開”として進んでいた。“白狼(はくろう)”は

ボロボロの戦闘衣と、自身の手、戦闘のために膨れ上がった手に伸び切った3本爪を

見比べた後、周りを進む“異形のモノ達”と変わり果てた市街を突き進んでいく。


「クソッ、この化け物共がぁっ」


ひしゃげたパトカーの中から這い出してきた警官が、

ボロボロの手に構えたM37リボルバーを向けてくる。

時々、現れるのは、彼等のような交番勤務の警官や、首都防衛に配備された

自衛隊員の生き残り…


89式小銃や短銃装備、もしくは機動隊連中の持つ、

自動拳銃にMP5SMGが常な“通常の敵”は怖くない。


「邪魔!」


呟き、発射された9ミリ弾をすべて片爪で叩き落とし、あまった方の爪で警官の全身を

掬うように抱え、まだガラスの割れてない商店に放ってやる。


本来なら、核爆発を防ぐとも言われるチョバムプレートでさえ、簡単に

切断する自身の爪だが、勝敗が決し、敗残兵となった彼等を虐殺するために使いたくはない。


これは白狼が抱く武人としての信念であり、曲げない生き方でもある。

隣に並んだ“カニ頭の同僚”が不思議そうに尋ねた。


「何故?殺さないんだぁ?狼の兄ちゃん?」


「勝敗は決している。これ以上殺しちゃダメだ。そこの奴等もな!」


叫び、爪を広げ、飛びかかる。彼が飛び込んだ先には、同僚達の中でも“下級兵士”に

属する戦闘員達が、逃げ遅れた市民達に対し、組織から支給された専用のレーザー銃を

向けていた。


彼等の近くにあったコンクリート片に爪を刺し、威嚇をしてみせる。怯えたように下がる

戦闘員達の後に残されたのは、こちらを不安げに見つめる女、子供に老人。


半年前までは自分達に対し、蔑みの目、今は哀れみ、懇願、恐怖…全く“人間”ってのは

本当に都合がいい…超むかつく!


「行け!」


爪を翻し、安全な後方を示す。怯えたように何度もこちらを見つめた彼等が走り出す。

その前にカマキリタイプの同僚が空中から降り立つ。

本来のカマキリを等身大に大きくした顔と顎を楽しそうに揺らし、こちらに話しかけてくる。


「キシシ、全く狼ちゃんは甘々でいけねぇ。殺し合いってのは、

こうしなくちゃいけないのよ~。」


「止せ!」


白狼の静止を聞かず、カマキリが1メートルはある、自身の両手の鎌を振り上げた。

人間達の悲鳴が上がる。くそっ、間に合わない。


「スピアレント!(技名)」


いらだつ白狼の杞憂は、凛とした女性の声と、カマキリの胸に刺さった光の槍によって

解消した。青いボディースーツに身を包み、光るを槍を携えた少女が、カマキリの後方から

現れる。


「凄い“ガールズランス”だ!やった!やったぞ!」


「皆さん、もう大丈夫です。早く非難を。」


人々の歓喜を受け、片腕を上げる彼女。そのままこちらに進んでくるのを見て、白狼は

“通常じゃない敵”の登場に少し興奮し、頬を紅潮させた…



 この戦いが始まったのは、いつの時代からか?突き出される槍を躱し、こちらの爪撃を

繰り出しながら、白狼は思う。答えは簡単か…闇と光が存在した時から、あらゆる場所、

時代を経て、戦いは続いてきたのだ。


闇となる勢力は、呪法や魔術、最新のテクノロジーをふんだんに盛り込んだ組織を形成し、

テロ、戦争、犯罪といったあらゆる“悪”に関わり、世界と光の正しい存在達の転覆を

画策する。


それに対し光は、いくつもの神秘、奇跡に魔法、そして希望と、正義の心とやらを胸に、

何度も世界滅亡の危機を乗り越えてきた。


(だが、それも今日までの話だ。)


絵本やメディアを通して語られる戦いは“正義”が勝つ。

しかし、実際そう上手くはいかない…



「いやぁ、助けてぇっ。」


後方に避難した市民達から悲鳴が上がる。その声にガールズランスは反応し、慌てて

こちらに背を向け、走りだす。本来なら、戦いの最中に背を向けるなど考えられない事だ。


だが、彼女達にはそれが出来ない。人々を守る、戦う正義の味方は、制約が多すぎる。

比べて悪にはそれがない。壊したいだけ、壊し、殺したいだけ、殺す。

欲望の赴くままに動く。全てが自由だ。


戦いの勝敗は誰が見ても、明らかだ。


「でも、こっちが勝った事がないから、アイツ等は凄いよな…」


ボディラインがハッキリわかるスーツの彼女を見つめ、白狼は呟く。それが合図のように、

ビルの一部が壊れ、マントを羽織った筋肉質の男性が現れ、叫ぶ。


「ランス、皆は私に任せて、君は怪人達を倒せ。」


「ありがとう。マンオブジャスティス!」


返答を返した彼女がこちらに振り向き、戦闘を再開してくる。タイミングの良すぎる登場だ。

示し合わせた訳ではない。


あの男だって、町の中で人々を救うために走り回り、たまたまここに駆け付ける事が出来たのだろう。この“たまたま”が彼等にはあるのだ。希望か、奇跡かはわからない。恐らく

正しい事をしようとする者にのみ、与えられる特権であろう。


これに悪は何度も破れ、いつも、世界はすんでの所で滅亡を免れているのだ。


(だが、今回は違う。)


本日2度目の感慨を抱く白狼は、ランスの槍を両の爪で受け止め、投げ飛ばす。

ギリギリまで体を近づけてわかったが、スーツのあちこちから、

肌が露出し、満身創痍のご様子だ。


まぁ、市街のほとんどに白狼の同僚である“悪”が展開し、火災に倒壊の最終戦争ばりの

光景を作り出せていれば、どういう事が起こったかはわかるだろう。今からそれを再度

お披露目と行こう。


白狼は両の手に取り付けた器具のスイッチを入れた。装置を押すのではなく、神経に直接

設置し、念じる事によって起動させる代物だ。


“ランスな彼女”が驚いた顔でこちらを見つめる。普段なら、この表情は自分達が

するモノだが、今日は逆だ。白熱した自身の爪は、彼女の槍をいとも容易く折り曲げていく。


こちらを見つめる少女に悔しさと涙が滲む。その表情に思わず


「ゴ、ゴメン。」

と声が出るが、もう遅い。体は自然に動く。いつの間にか

白狼は、両の爪を勢いよく前に出していた。


「あああああああーっ」


悲鳴を上げた彼女が吹き飛ぶ、地面に転がる。遠くで起こった爆発は、先程のマント男が

瓦礫に沈み、白狼と同じように体を光らせた同僚達が群がっている。


「本当に凄いな…」


呟く白狼は、自身に装着されたARMS“アームス”

(Anti Ryrical Magic Strikes アンチ・リリカル・マジック・ストライクス

対叙情的魔法(こちらは萌えや漫画的に捉えているらしい)強襲ユニット)


を見つめた…



  「我等の勝ちだ。白!(白狼の呼び名)」


騎士形の同僚、というより、自身を拾ってくれた恩人“ガイスト”が

語りかけてきた。先程のランス娘、マント男達は拘束され、戦闘員達に連行されていく。

同じような光景が、町のあちらこちらで繰り広げられている。


今日は“悪”が“正義”に勝った日だ。白狼は瓦礫の町を見つめながら、考える。

思えば長い日々を過ごしてきものだ。


白狼として群れが疎まれ、猟師に追われ一匹、山をさ迷った日々。

やがて、妖力を得た自分は、人間達から崇められる信仰の対象にもなった。


しかし、それはごく短き事。時代が繁栄している時は敬われ、祭り上げられた身も、

飢饉や不作が続く時代に入れば、憎しみの対象となる。


人間の都合によって用意された刺客は陰陽道を礎とした少女…


つまり、正義の味方だ。白狼は戦い、敗れた。

自身が求め、憧れた存在、居場所に行けると思った…しかし、それは叶わず、

狩られ、再びの孤独に落とされる。絶望と暗闇に堕ちた自分に手を差し伸べてくれたのは

ガイストだった。


闇に堕ちたモノに“国境はない”と告げ

(山で育った白狼に国境という言葉はよくわからなかったが)


「お互い、正義の守り手になれなかった身、居場所を作るために戦わないか?」


と仲間に誘ってくれた。以後、現代にいたるまで、あらゆる場所で戦ってきた。

時代が変わる内に、悪も組織化されていく。闇に堕ちるだけが、悪になる手段ではなく、

改造手術を受け、人外の力を手にする“元人間達”や外宇宙、別次元からの仲間も増え、


その分だけ、敵も増えた。しかし、ここに来て戦局は一気に傾く。ある集団がもたらした

“新兵器”によって…



「あいつ等はどうするの?」


白狼は目の前を鎖に繋がれ、華やかな衣装を煤だらけ、破れだらけにして、連行される

“魔法少女”の一群を指さす。悲壮感や不安を讃えた彼女達の表情は、負け続けの自分達

としては、悪くない。


「とりあえず、能力等を調べ、その後は普通の人間に戻して、解放だな?

お前の故郷でもある島国は、正義の中心とも言える戦力が集中していたようでな。


さっきのマント男は海外からの応援組らしい。それほどまでに、

今回の戦いに全てをかけてたんだろうな。」


勝利の余韻に浸るガイストの口調は軽い。それに少し安心する。


普通の人に戻してか…先程のランスの悔しそうな顔が浮かぶ。自分が待ち望んでいた瞬間、正義に…正しい世界に選ばれ、奇跡にも守られ、そこでぬくぬくと生きていた奴等に

勝てた瞬間。の筈なのに…何故か、心が浮かない。もう一度ガイストを見て、尋ねる。


「本当に殺さない?」


「ん?まぁ、連中の指導者の何人かは見せしめ的な意味で処分するかもしれないが、

オイ、どうした?その顔は?泣きそうか?安心しろ。上の連中は人間の不安や恐怖を

媒介にして生きる闇だぞ?滅亡ってのは光を、正義を元にした文明社会をだ。


これから闇が跳梁跋扈する世界、それに怯え、絶望する、負のポジションを保つ人間が

いなきゃダメだ。結局、我々もアイツ等無しじゃ、生きれないからさ。大丈夫だ。」


ガイストの鋼鉄の手が、自身の大きい獣耳付きの頭に優しく載せられた。白狼が困った時や、泣きそうな時にこうやって慰めてくれるのが、ガイストの常だ。彼の言葉が続く。


「それに、我等が勝つ要因ともなった“アームス”は人間が作ったもんだ。

作り手がいないと、こっちが困るだろ?海外連中の反乱鎮圧とか、

まだまだ戦いは続くんだからな。」


白狼の手につけられたリング状デバイスをいじりながら、ガイストは語る。

こちら側の勢力に突如支給されたこの装置は、一瞬にして、戦局を変えた。


正義側が持つ、魔法や能力、そして、タイミングが良すぎる奇跡すらも“無効”にする

装備だ。その効果は目の前に広がる廃墟と、鎖に繋がれたボロボロの彼女達を見れば、

わかるだろう。


(どうやったら、こんな装備が作れるのか?)


当然、悪の幹部と技術者達は“提供者”にそう尋ねた。

しかし、返ってきた答えは


「俺達は、あらゆる世界を体験してきた。」


とハッキリしないモノ。とりあえず、効果が抜群なのは、証明されているので良し

という事になった。そうして現在に至る。


頭を撫でたガイストが、自身の手をどけた。甲冑の奥は暗闇で顔は見えない。

どんな時でも、素顔を見せてくれた事はないが、無骨ながらも見せる優しさに何度も

救われてきた。


「だから、そんな顔をするな。せっかくの勝利の日が台無しになってしまうぞ。」


「うん。」


「私はこれから、臨時に出来た本部に行かなければならない。あのやたらとデカいタワー

だが、1人で平気か?白。」


「大丈夫。子供じゃない。」


「ハハ、そうだな、すまない。それでは、後でな。」


騎士のローブを翻し、瓦礫に中に消えるガイスト。白狼も反対に踵を返す。他の同僚達が

不必要に人間を殺さないよう監視するためだ。


心に浮かんだ不安な気持ちはガイストのおかげで、だいぶ楽になったとは言え、

完全に拭えた訳ではなかった…



 「何をやっている?」


ハサミに挟んだ“人の頭”を頬張るカニ頭の同僚に、白狼は怒りを露わにした。

傍では人間達が地べたに、犬のように這いつくばり、殺される時を待っている。

彼等の傍には闘争防止の監視役として、トカゲ頭とコウモリ頭の姿もあった。


「よう、狼の兄ちゃん、見りゃわかるだろ?奴隷共の躾さ。これから誰が飼い主になるか、

見せしめも兼ねて、教えてやってんのさ。」


「その人間共は、僕達が生きるためにも、必要だろ?そんな事もわからないのか?」


「わかってるよ。よーくわかってる。だけど、この世界に何人、人間がいると思ってんだよ?

たくさんだ。少しは間引いたって問題ない。俺達の中には人喰いもいるからよ。」


「改造人間風情が!お前等のエネルギー源は人食じゃなくても、問題ないように

出来ていると聞いたぞ?妖魔の連中なら、いざ知らず、

只の殺人衝動に駆られた殺戮など、断じて許さない。」


頬を真っ赤にして怒る白狼に、同僚達が“やれやれ”と言った風に肩を竦める。


カニ頭がボソッと呟く。


「西洋騎士の飼い犬風情が調子づきやがって…」


「何だとっ!?」


「ハイハイ、そこまでー、それくらいにしときましょうや。」


呑気な声と一緒に消音銃の低音が連続して響き、同僚達の頭が砕け散っていく。

改造人間達、白狼にも通常弾は効かない筈…それが効いている。どうゆう事?


自身の爪を出すタイミングを逃した白狼の目の前に、

消音装置付き突撃銃を構えたガスマスクの兵士達が現れていく。


半分潰されかかったカニ頭がハサミを“降参”のように上げるが、武装集団の最後に立った金髪頭+ベレー帽の少女がハサミごと全てを吹き飛ばす。


「カニ道楽が、調子のんな。」


そうやって笑い、こちらを振り向いた少女こそ、普通の人間でありながら、闇側につき、

白狼達にアームスをもたらした張本人、片目眼帯がトレードマーク、名前(偽名)も

そのまんまの“ガンタイ”だった…



 「皆、大層、はしゃいじゃって、困ったモンだね。白ちゃん」


笑いながら、喋る彼女に人間達が近づく。それを冷たく銃であしらい、追っ払う。


(都合がいい奴等は大嫌いでね。)


と話した彼女に白狼自身、通ずるものがあり、それで会話をする仲になった。

ガイスト以外の者と親しくなったのも、正直、初めての経験だと言える。

だが、胡散臭いのは否めないし、これだけは言っておかなくてはならない。


「状況はわかるけど、味方を殺すなんて。」


「ええ~っ、白ちゃんだって、同じ事するでしょ?これは“やりすぎじゃない?”

ってさぁ?」


「でも、勝ったのは僕達の方だし…むぅーっ?」


ガンタイが喋る白狼の唇を、ひとさし指で押さえる。


「ハイハイ、そこまでだよぉ~。自分を偽らなくて大丈夫~

さっきのコイツ等との会話まる聞こえ~、

ホント、“悪”と言うより“武人”タイプだよね~?白ちゃんはぁ~」


ガンタイより数百歳年上の白狼だが、背が小さい事もあり、子供扱いをされていた。

不思議と悪い気はしないが、何か“むーっ”な感じはある。

そんな気持ちを代弁するように頬を膨らませてみせた白狼に、ガンタイの言葉は続く。


「まぁ、そもそもの話…こんな事は周りで起きまくりだし、

連れていかれた正義側サイドの子達もこれから、似たような感じになる訳だしぃ~」


彼女の言葉に自分の耳がピクンと動く。ガンタイが「ヤダ、可愛い!」と叫ぶが、

構わずに、尋ね返す。


「それ、どうゆう意味?殺さないで、普通の人間に戻すって、ガイスト言ってたよ?」


「うん、まぁ、能力は使えなくするわな。抵抗されちゃぁ、めんどくさいし。

勿論、殺さないよ。殺すの勿体ない。


代わりに“生き地獄”を味わい続けるのさ。彼等、彼女等は…」


「地獄?」


「うん、いや、白ちゃんだって見てきたでしょ?戦いの後、負けた方が

“どーゆう目に遭うのか”を…


俺達より戦歴長いんだからさ~?(女性なのに、男みたいな言い方をする)」


「?……あの…その、僕は戦いが終わると、いつもガイストが…

“後はこっちでやっておくから”って…それに、あんまり勝った事ないし。

いつも正義の連中に負けてたし…」


「ん?そうだね。そっかぁ、するってぇと…あれだね。わかった、ウン!オイッ、誰かぁ!!

タブレット持ってこぉぉい!!」


「ハイ、班長!」


意気揚々とガスマスクが答え、四角い物体を二人の前に差し出す。受け取ったガンタイが、画面を操作しながら、白狼に見せる。やがて画面に2文字の漢字が映し出されていく。


「同人?あ、これ、ガンタイのベレー帽についているヤツと一緒?」


「うん、そうそう!そんでね。これがね。こうなってね。」


ガンタイが指を動かし、画面を切り替えていく。魔法少女風の女の子達、

戦うのは白狼達側のような悪の姿。やがて正義が敗北し…現在の自分達と同じ状況だ。

連行される少女達。案内されたのは地下牢、そして…


「な、何これ…」


次々に変わる画像に驚愕の言葉が止まらない。


「な、何で、この子達、皆、裸なの?それに首輪とか、鎖とか、こんな酷い、

酷い、酷すぎるよ!!」


あまりに非情な映像に、体がガチガチ震えてくる。ヒドイ、数百年間見た事がない光景だ。

戦いに負けた側は、皆、こんな目に遭うの?


自分もかつては追われた身だけど、ここまでじゃぁ…こんな事はされなかった。


「ガ、ガンタァ~イィィ~ッ」


フルフル震え、涙目、体プルプルの白狼が、哀願の声を向けた、何でもいいから、慰めとか、抱擁とか、こんな時にガイストがいれば…しかし、当のガンタイはと言えば…


「やっべ、あの子、マジで温室育ちの未開発ぅ。闇なのに、穢れねぇ超希少価値ぃぃ!!

なぁ、オイッ5分くれよ。5分!ねぇ、5分でいいからさ。5分とちょっと個室あれば、

全部、事が済んでのバージンブレイクだからさぁっ!!」


「いや、班長、不味いですって、隊長にも言われてますし、やりすぎと介入は

良くないっすよ。」


ガスマスクとガンタイの会話は全くの意味不明。だけど、今は、今はぁっ…


「ガンタァイ~」


ようやく気付いた彼女が、こっちに素早くかけより、顔全体を覆うように抱きしめる。


「あっ、オッケー、オッケー、ゴメンねぇ、白ちゃん!ガンタイ!ちょっとハイ☆ボクゥ!!

な感じになっちゃったねぇ~。ゴメン、こっちも知らなかったよ。


そっか、するとあれだね~、ガイストはだいぶ、君に何も見せずに努力してきたんだねぇ。

今回の事も含めてさ。」


「知らなかった。全然、知らなかった。こんな事が起きるなんて、僕はただ、

アイツ等みたいになれなかったから、その仕返しに…」


「わかる、わかる。あの子達は眩しいからねぇ。でもね。ガンタイが言うのもなんだけど、

君と同じくらいの“苦労”をしてるんだよ、彼女達も。」


「苦労?」


「正義の味方って、見た目華やかだし、奇跡とか幸運に守られてる存在に見えるけど、

実際はかなり大変でね。最初から能力がある奴等は、その力ゆえに迫害されるし、

平和な時代においては、無用。忌み嫌われ、追われる存在だよ。昔の白ちゃんみたいにね。


更に言えば能力がない子はもっと大変。戦う力を得るために、代償を払う。

つまり自分の体だよ。戦いの最中、もしくは終わった後、

精神や肉体を欠損する子が多いって聞くよ。


そのほとんどが未成年、まだ年端もいかない娘に、子供達。

これから、いっぱい希望に満ち溢れた若い子達が、人々を守るために命を捨てる覚悟で


自分の両親と同じくらいの年恰好の異形に、小山程の怪物、機動兵器みたいな

恐ろしい存在に立ち向かう。その精神が、誰がために…っていう“勇気”が

奇跡や幸運の加護を受けるんだよ。


白ちゃんだって、一度はそれになった事があるんでしょ?

タイミングとか、色々悪くて、闇に染まったけど、崇高な精神は、お気に入りの騎士さんが

守ってくれたみたいじゃん。


君だって立派な“光”になってるんだよ。


正義だけで救いきれないモノ達を光で照らし、助ける存在。

裏から世界を支える“ダークヒーロー”としての精神をね。」


混乱する白狼、ダークヒーロー?自分は正義?優しい声で諭されてもわからない。

そもそも何で…


「ガンタイは…」


「?」


「何で、そんなに詳しいの?ガンタイもだーくひーろーなの?」


白狼の言葉に彼女は笑顔で首を横に振り、とても怖いというか、凄い笑顔に切り替え、

言葉を返す。


「残念、俺達は“同人”なもんでなぁ…?フフフフ」…



 「えーっと、ガンタイ…さん、この服装は…な、何?」


白狼は以前の戦闘衣を脱がされ、というよりひん剥かれ…目の前で

ニヤニヤ笑いと凶暴な視線を向ける“同人達”に戦慄した。


この服装になるまで、数分間、同人についてガンタイが語った内容は、白狼にとって、

ほとんどが理解できない説明だったが、“様々な世界を旅してきた”らしい事だけは、

どうにかわかった。


これまた不明な台詞を原文ままに言えば


「あらゆる世界の始まりと、そこで暮らす者達と日々を過ごし、やがてくる終わりと

新たに生まれる希望の多くに触れ、共に学んできた。だから、正義がもたらす奇跡も展開も能力も全部わかる。それを無効にするあらゆる手段もね。」


だそうだ。この経験がアームスを作るのに、大きく役立つものとなったらしい。


「今回、白ちゃん達側についたのは、いわゆる先行投資でね。ここで上手く行けば

他にも役立つと投入してみたら、思ってた以上に効果があってねぇ~。

追加の試みも出来そうだしねぇ~。フフフッ…」


「よくわからないけど。この恰好がその試み?更に言うと、考えてみたら、さっきの…

その…画像に、僕着てる服と似たようなモノがあったんだけど…勘違いだよね?

信じて大丈夫だよね?」


「そうそう、大丈夫!問題ない(ガスマスクを含め、全員が頷く)」


「じゃあ、何でガンタイ鼻血出てるの?」


「バッカ、オメェ、こーゆう仕様…いや、違う。そうそう!大丈夫!問題ない!」


「問題ないって、これ何かスースーするし、露出多くて半端ないけど大丈夫?」


「バッカ、オメェ、そこに萌える…いや、違う。そうそう!大丈夫じゃないぜ!

俺の魂が!ギブミー5ミニッツゥゥ!!(叫び、白狼に飛びかかる)」


「ニャー(犬系なのに思わず猫系な悲鳴を上げてしまう)


「班長、落ち着けえ!!」


ガスマスク達が白狼とガンタイを引き離し、気分を落ち着かせる事、さらに数分…

平静さをとりもどした彼女が、混乱と恐怖でパニック&プルプルの白狼に語りかける。


「ハァ、ハァ…(荒い息をどうにか沈め)まぁ、とにかくあれだ。

ここからは君次第だ、白ちゃん。こんな酷い事を許せない、それを知らなかった自分も

許せないと思う心があるなら、戦えばいい。


また1人、群れから外れる事を恐れる事はない。仲間と呼べるかどうかわからないが、俺達

“同人”がいる。同人は同じ志の集まり。君についてくよ。さっきのカニ道楽倒した弾も

そうだが、この世界の敵には、かなり詳しいからさ。俺達は、あらゆる世界を

以下略だからね。」


ガンタイの台詞を聞くまでもなく、意思は決まっている。断じて許す訳にはいかない。

勝者は倒した者達の事をしっかり考え、強制ではなく、共生を考える。

ガイストだってそう言っていた。もしかしたら、敵になるかもしれないガイストだが…


白狼の浮かぬ表情を“不安”と見たガンタイが言葉をかけてくる。


「大丈夫、君の着ているスーツは、アームスと合わせる事によって未知の力を生み出す

可能性がある。魔法少女や変身ヒロインの特性を持つスーツとそれを打ち消すアームス。


反対の力同士をぶつけた時“ゼロ=無”になると考えるのが普通だけど、逆を言えば、

ゼロから新しいモノを生み出す事が出来る。白ちゃんの真っ直ぐな理念があればね。」


ガンタイの言葉はわかるようで、わからない。敵の技術とそれを打ち消すモノを

一緒にすれば、意味がないのでは?それを変えるのは自分次第?…自分か…


かつて憧れた存在とそれを無効にする能力。両方の立場を(前者はほんの僅かだが)

知る自分なら、それを上手く扱える…のかもしれない。何よりこれ以上、誰かが傷つくのは

それが自分を排除した人間達であっても!


「絶対嫌だ!」


言葉と共にアームスを起動させた。全身に衝撃が走り、それを抑えようとする逆の衝動が、

痛みとなって全身を駆け巡る。両方の力が白狼の体でせめぎ合い、


今にも全身を砕かれそうだ。

だけど、ここで死ねない。死ぬわけにはいかない。絶対に諦めない。諦めるわけにはいかない。負けない、負けてたまるか。


「負けるもんかぁぁ!!」


狼としての本能を込めた咆哮が“何か”を繋げた。全身の痛みが暖かく強い力に変わる。


「上出来だ。白ちゃん。」


白狼の後ろから、ガンタイが嬉しそうな声を上げた…

 


「一気に突撃と行こうぜ!野郎共ぉ。」


ガンタイの一声と共に味方の本拠地となっている塔を目指し、重武装ヘリが飛び上がる。

地上を歩く同僚達はガンタイの部下達がヘリの入口に取り付けた

12.7ミリのドアガン(機銃)で蹴散らしていく。


取りこぼした敵は、地上に残った同人の仲間達が各自対処していくとの事だ。

ヘッドセットを装着し、あちこちに指示を送る彼女を見て、白狼は

思わず尋ねずにはいられない。


「最初から準備をしていたの?こうなる事を予測して。」


「勿論、全てこみこみだよぉ~。都内各所に怪人共を“殺せる装備を持った部下”を


配置している。正義サイドの連中も、何人かは既に確保しているし、


悪を完全撲滅とまではいかないけど、少なくとも負けにはならないよ。」


「そっか…なんていうか、ありがとう。礼を言うよ。」


自分は何も知らなかった。ただ、戦いに勝つ事だけを考えていた。その後に何が起こるかを考えもせずに…教えてくれたガンタイに感謝を示したつもりだ。


しかし、彼女はとても不快?愉快?と言った表情をする。

“何故?”疑問に思う白狼の顔が、少し強めに掴まれた。


「ガンタイ?…」


「白ちゃんは、本当に優しいね。それも、ガイストのおかげかな?大切な心を守りつづけて

もらったんだね。ヒーローの素質あるよ。絶対!とても大事な事だ。


でも、よくよく考えれば、わかる事だよぉ~?

そもそもアームスを支給しなければ、こーゆう事にはならなかったでしょう?


更に言えばアームスの後処理を二段構えで用意していた俺達は、君達を利用する

事満々のゲス野郎なんだよ。あくまでも傍観者、好きに介入し放題のゲス野郎だよ。」


徐々に声色をあげ、まくし立てるように喋るガンタイの言葉は、自分なりに噛み砕いて

解釈すれば、全て、彼女達の手の平で踊らされているようだ。


しかし、それでもガンタイは自分達を救い、協力してくれている。損得や、思惑入り乱れていても…今の自分はそれだけでいい!だから、言おう。今度はハッキリと!!


「ありがとう!」


ガンタイの片目が見開かれる。やばっ、怒ったかな?


「白ちゃんはさぁ…話聞いてたぁ?本当に。」


「ウン!だから言わせてもらった!ありがとうって!!

(この場で出来る最大級の笑顔を送る)」


「・・・・(しばらく黙ったガンタイが突然咆哮!)っしゃおらー!」


「わひゃぁっ!(勢いよく抱すくめられ、悲鳴を上げる白狼)」


息荒く、自分の上に乗っかったガンタイが、目を血走らせて叫ぶ。


「オイィィッ!操縦士ぃ!ポイント“ホテル”に目標を替えろぉぉ!!」


「何言ってんすか!班長!てか、ホテルって、そのために用意したん。

アカン!アカンからぁ!そして、口調変わってる。変わってるからぁぁ(汗)」


「黙れぇ!ワシャぁ、これから、この白耳獣っ子と良い事しまくり、

ワンワンプレイ決行に決まっとるやろうがぁ!


こんな可愛くて、無垢でイイ子を、良すぎる白狼ちゃんをぉお!!

汚さんでどうするよ?いや、てか汚そ?ヒドイ事一杯するしかないでしょ!


10分!10分でいいから。操縦士も皆で一緒に!」


「増えてる。ガンタイさん!増えてるよぉぉ~!!」


「目標到達!降下します!」


“付き合い切れん”と言った感じの、操縦士の声と共に、白狼とガンタイ達は悪の本拠地、

敵の真っただ中に、叩き落とされた…



 「敵襲!」


戦闘員が叫ぶ前に白狼が広げた爪で一閃する。勿論、殺さない。戦闘不能程度に

とどめている。後から続くガンタイ達に、周りの制圧を任し、自分は先に進む。


「新手の魔法少女か?」


「えっ、てか、白さん?」


「ゴメン!ゴッメェェェン!!」


元同僚達の悲鳴と驚愕に謝りながら、攻撃を繰り出し、上に続く通路を駆け上がる。

アームスを起動させる奴もいたが、今の白狼の敵ではない。


「白、どうした?その恰好!まさかぁ」


「いや、結構ありじゃね?俺、凄い興奮するよ。」


「ゴメ、ん?うーっ!馬鹿ぁ!!」


様々な感想を述べる仲間を蹴散らし、広い空間に出た。そこには様々な服装と装備の少女達が拘束されている。先程、戦ったガールズランスの姿も見える。


「助けにきた!じっとしてて。」


叫んだ後、一呼吸を整のえた後、爪を突き出し、一気に彼女達の間を駆け抜けた。

拘束が綺麗に解かれ、地面に座り込む少女達。ランスがこちらを見上げ、不思議そうな顔をする。


「君はさっきの…?」


「説明は後!ここは任せて。外の敵を頼む。」


短く告げ、走り抜ける。まだ、仲良く会話するほどの仲ではない。でも、いずれは…

白狼に礼を言う正義の味方達を通り抜け、最上階に上がった。


「待っていたぞ。白!」


そこに立つのはガイスト。いつもの優しい口調ではない。武器である大剣を抜き、

こちらに向けている。やっぱり、こうなるんだ。


「上の奴等は?」


「皆、撤退した。旗色が変わったのが、わかったからな。全く、ガンタイ共を信用したのが

間違いだったよ。」


「ガイスト…」


「私は軍勢を率いた責任がある。ここで敵を倒す使命を全うする。」


「やだよ…戦いたくない。」


「言うな。お前のその姿、望んでいた存在になれたではないか!かつての闇から這い上がったのだな。立派だ、友よ。だから、来い!悪を倒して、正義を証明しろ。」


「・・・・・」


「‥‥ならば、こちらから行くまで!」


ガイストの剣が白狼の頬を勢いよく掠める。それは戦いの開始を示していた…



 塔の最上階、無人のホールに鉄と鉄がぶつかる激しい音が響く。繰り出される

ガイストの大剣を、白狼の爪で薙ぎ払っていくが、やがて、その爪が剣先に捉えられ、

ギリギリと白狼の喉元に近づけていく。


「そんな弱腰で、何を守る?」


ガイストが叫び、剣に込める力を強くしていく。ここで立ち止まる訳には…

負ける訳にはいかない。でも、相手はガイスト。恩人。最高の戦友。だけど、

だけど…ガンタイ達が見せた画像が思い出される。あれをやらせない!絶対に!


(負ける訳にはいかない!!)


心の咆哮がアームスとスーツに直結する。全身から湧き上がる力が、大剣を押し戻す。

後方に飛びのくガイストが攻撃を繰り出すが、その動きもゆっくりに見えた。


剣撃を全て躱し、爪を引っ込めた協力な拳を繰り出す。戦闘時は倍以上に膨れ上がる拳だ。

これ自体が強力な一撃を放つ事が出来る。


甲冑の装甲が砕け、崩れ落ちるガイスト。


「見事だ…白…」


ガイストが、その場で立ち竦む白狼に弱々しい声をかけた。

慌てて駆け寄る。


「ガイスト。」


「やはりな、白…闇に堕ちても、染まり切らなかった。表では強がってはいたが、

その本質は変わっていなかった。完全な黒にはならない。いつか言っていたな。

“白い狼は孤独”誰とも交わらず、命を狙われ続ける。


だが、それだからこそ、虐げられた者、迫害された者達の心を理解し、助ける事が出来る。

見知らぬ誰かであろうと、損得があろうと、なかろうと、関係ない。

闇を歩き、光が照らし切れなかったモノに光をもたらす存在。


立派な正義だ。お前と過ごす日々、悪くはなかったよ。闇に堕ち切った自分が少しでも

明るくなれる、光の傍にいれたのだからな。」


「そんな事ない。ガイストだって、立派な正義だ。僕を守ってくれた。」


涙混じりの声になってしまう。ガイストがいつか言っていた。

“使命を果たせなかった騎士が取る道は一つ”静かに甲冑の手が動く。


「私は闇に堕ちる際に契約をした。自身が敗北を悟った時は、決して生き恥を晒さない。

自らでその身を焼く事をな。だが、これは恥の死ではない。名誉だ。

白、お前と言う最良の友の“新たな出発”を見届けた!だから、悔いはない。」


ガイストの騎士甲冑が熱を帯びてくる。抱きつこうとした白狼の体を、

暖かくなった手が押し戻す。嫌だ。こんなの嫌だ。


「さらばだ…白。」


「ガイストォォー!」


「ハイハイ、非常に素敵なシーンを見させて頂きましたぁ~。おかげで心のメモリーパック

容量一杯、だから、ここは“セーブ”という事でぇ~」


能天気な声と共に横から滑り込んだガンタイが、ガイストの腕にアームスと似た

デバイスを嵌めた。


「これは?」


驚いたような声を出すガイストの体から、急速に熱が引いていく。

白狼が泣き腫らした目を拭い、ガンタイを見上げる。

優しい表情の彼女がそこにいた。


「“退魔用”のアームス、これで、もう大丈夫。お涙頂戴、悲しいシチュって

あんまり好きじゃなくてね、俺。」…



 戦いは終わった。町の瓦礫と破壊は凄まじいが、死者はごく僅かとの事。

早速の復興が始まっていく。ガイストと白狼は、塔の最上階から、その光景を眺めている。


「これからどうする?」との言葉はいらない。もう行く道は決まっていた。

後はその確認だけだけど…なかなか切り出せない。でも言わなくちゃ、今度は自分から。


「あの、ガイスト…」


意を決した表情で話す白狼。それを静かにガイストの手が遮る。


「わかっている。敵は変われど、我等に変わりなどない。共に行くぞ。白。」


「………うん!ありがとう、ガイスト。」


歓喜の涙をなんとか誤魔化し、笑顔を向ける白狼。居場所はあった。望んでいたモノ以上の

場所が。それに気付かせてくれた、ガンタイ達…?…その姿が見えない。さっきまでここに

いたのに…


「白、あれを!」


ガイストの声に振り向けば、ヘリが飛び立っている。走り、手を振る。答えるように機体が

左右に揺れ、やがて小さくなり、空に消えた。


一体、彼等は何者だったのだろう?“同人”と名乗った以外、何もわからなかった。

あらゆる世界を旅してきたと言っていたが、彼等も居場所を探しているのだろうか?

それとも…


「ここじゃ駄目だったの?」


答える声はない。でも、またいつかどこかで、会う気がする。その時は、成長した自分と

変化した世界を見せよう。平和な時代、新たな戦い、どっちだっていい。


「行くか!白。」


「うん、ガイスト。」


決意を新たに笑顔として見せる。二人はそのまま市街に向けて降り立っていった…




 「班長?いいんすか?ここに残ってもよかったんすよ。」


手を振る白狼を見つめるガンタイに、ガスマスクの部下が声をかける。味方は順次撤退。

自分達が最後だ。


「なぁ~に、アームスの実戦評価と新たな可能性も生み出せた。万々歳さ。それに俺達は

同人屋。志共にしてくれる奴等がいるなら、そこが戦場、居場所になるだろ?」


ヒラヒラ、手を振るガンタイ。白狼の柔らかい獣毛の感触が蘇る。あのまま残っていれば、

ガチでギブミー5ミニッツだった。やべぇ、やべぇと内心冷や汗ものだった。実際の所…


そもそも同人屋が固定ジャンルなど持つものではない。


奇跡も素敵も凌辱も全て一緒くたの活動内容。一か所に留まれば、その全てが姿を現す。

それだけはイカンと思う。絶対に。だから、さまよい続けるのだ。


(健全ジャンルやってた奴がいきなり凌辱に手ぇ染めたら、

ファン泣くだろう?経験ない?でも、俺達は好きにやりたい。

世界をメチャクチャしたいのよ。)


理解不能な妄言を心で呟き、秘かに笑う。そんな彼女に部下が訪ねた。


「班長、次は何処に?」


口元が耳元まで裂けるように笑わせ、答える。歓喜と嬌声、狂気の戦場、さてお次は何だ?


「萌え…いや、銃声のする方だ…!」…(終)

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「白狼無知で反逆戦線」 低迷アクション @0516001a

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