第8話 肉吸いという鬼
「じ、人造人間? 彼女がですか?」
しばらく呆けたままだった長町達夫は、そんなありきたりな疑問を口にした。
確かに、声の抑揚がなかったり、妙な行動を取っていた彼女ではあったが、その様子はまるで普通の人間と同じであって、とても化物と渡り合えるとは思えない。人造人間など、ゾンビよりよほど現実味がなさそうな話に感じられた。
「ただの人造人間ではないぞ。儂の技術の粋を結集して作り上げた、最高傑作の一つ。自己増幅や維持機能を持った完全なる自然生命の創造、まさに神の所行といっても過言ではない」
「・・・・・・にわかには信じられませんが」
「ふむ。それも仕方有るまい。貴様の常識の埒外の存在だからな。おキヨは」
しかし、と磤馭慮は続ける。
「今の貴様のように、暴れる人間の一人や二人おキヨは簡単に押さえ込めるのも事実。貴様自身助けてもらえれば、それが誰であろうと気にはせんじゃろう?」
「・・・・・・それは、そうですが。本当に大丈夫なんでしょうか?」
自分で助けを求めておきながら、達夫は今更ながら少し不安になった。
命あっての物種。護衛料が100万だろうが、命が助かるならば惜しくはない。しかし、それは確実に助かるならばの話である。
そんな時、外から悲鳴が聞こえてきた。
達夫達は部屋に付いた窓へと近づき、カーテンの隙間からそっと外の様子を窺った。丁度アパートの近くを通っていたと思われる年配の婦人が怪物に襲われていたところだった。達夫は恐怖した。今まさに人を襲っている返り血だらけの怪物は、コンビニ店員を襲っていたあの女だったからだ。
もしや自分を追ってここまで追いかけてきたのかという思いが、達夫の中に生まれ恐怖の感情がまたふつふつとわき上がってくる。
「ざまぁない。 ありゃ、ゾンビではないぞ」
「・・・・・・ぇ?」
磤馭慮の言葉に、達夫は再度、外の怪物へと注意を向けた。
まさに店員を襲った時のように、人に食らい付いている。辺り一面血が飛び散っていて、顔を背けたくなる様子だった。
しかし、襲われて絶命したらしい婦人の変化に達夫は気が付いた。
ふくよかだった婦人の身体は、骨と皮だけを残したミイラのようなものになっていたのである。
「あれは、肉吸いかもしれんな」
「肉吸い?」
聞き覚えのない言葉に思わず達夫は聞き返す。
「うむ、紀州のあたりに現れたとか言う妖怪の類いじゃな。今は女の様な姿をしているが、もともとの話に実際は二丈の化物であるとされとる」
尺貫法には明るくない達夫だったが、今でも織物を扱う和服、呉服屋では使われており達夫も耳にしたことくらいはある。うろ覚えながらも達夫はそれが、6メートル以上もの長さである事に思い至り、ますます恐怖することになった。
「そんな化物倒せるんですか?」
「まあ、任せておれ。おキヨ、遠慮はいらんぞ。やってしまえ!」
「ハイ。御主人サマ」
キヨは身をかがめると、効率よく外へ向かうためにボロアパートの壁やドアを突き破って、外へと向かっていった。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・あの、本当に大丈夫なんですかね」
今しがたの出来事に、もはやどうにでもなれという気持ちが強くなった達夫だったが、自宅を半壊させられた磤馭慮にはそれどころではないらしい。
「・・・・・・コラァ!!」
張り裂けんばかりの絶叫をあげて、磤馭慮はキヨを追いかけて外へと向かう。達夫もそれに続いた。あれだけのことができるならば、彼女が人造人間である事や怪物を倒すことなども夢物語ではないのかもしれないという思いが達夫から、いくらか怪物に対する恐怖を取り除いた。
かわりに、磤馭慮やキヨに対して恐怖を抱くことになってしまったが。
「遠慮するなとは言ったが、家を壊していく奴がどこにおる!」
「ゴメンナサイ。御主人サマ」
怪物に対峙するキヨは、磤馭慮に対して申し訳なさそうな態度をとった。少なくても達夫にはそのように感じられた。人造人間などと聞いて、心のない操り人形の様なものを想像していた達夫にとっては意外なものであった。
しかし、もしかするとそういった態度も、あくまで擬態のようなもので達夫の感じた印象とは異なるものなのかもしれない。コンビニ店員を襲った怪物も心配して駆け寄った店員をだまし討ちで襲っていたではないか。磤馭慮達もそうなのではないだろうか、と達夫は少し離れたところで、そんな事を考えながら、いつでも逃げられるように様子を窺った。
と、一同混沌とした様相を呈してきた頃に、磤馭慮達に声がかけられた。
美しい、透き通るような声であった。
「お待ちください。原住民の皆様方、我々に敵対の意思はありません」
その声は返り血まみれの女の姿をした、怪物から発せられたものだった。
魔法使いと人造人間 瓦偶人 @gaguujinn
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