第9話

「とまあこういった感じで我々が目を離した一瞬の間にエイン様がいなくなってしまったのです。」


俺はプルトさんと一緒に部屋に飛び込んできたメイドさん(どうでもいいがカノンさんというらしい)

にお姫さんが行方不明になった経緯を聞いていた。


それにしてもだ、


「秘密の抜け道、全然秘密じゃ無くね?」


「いえ、あれはれっきとした『秘密の抜け道』です。

 現にあの通路は私達メイドと王族の方々のみしか知らない通路ですので。」


君たちが知っているのが問題なのではないかと思ったが言うのをやめた

そんなことよりも大変な事件が起きちまったワケだからな


「今は姫様が消えてしまったことの方が先決です。

 状況から見るに姫様は何者かに連れ攫われたとみていいでしょう。

 また、あなた達の目を盗んで姫様を攫うということは下手人は相当の手練れがいる可能性がありますね。」


「お姫さんが殺されちまったってことはないのかい?」


俺の質問にプルトさんは首を振る


「いえ、その可能性は限りなく低いと思われます。

 今日姫様は町娘のお姿をしていましたから犯人は姫様をただの警戒心の薄い町娘と思った人さらいの一団かと。」


最近ではこの王都でもたびたび見られたらしいが、狙われていたのが身寄りのない孤児や浮浪者ばかりだったので騒がれなかったらしい。

それがいけなかったのかそいつらは味を占めて今度は普通の住人にも手を出そうとしたのか。


手練れの割にはオツムは良くないらしい。


「人さらいの一団とすると、姫様は今何処かの建物に閉じ込められている可能性がありますね。

 どうしますか?姫様が誘拐された付近の建物を一軒一軒・・・」


「いえ、ここは出来るだけ世間を騒がせないようにしましょう。

 城内にいるすべての班を招集してください。憲兵がマークしている王都内の全ての盗賊、人さらいの拠点を強襲します。」


おーおー、話が物騒だな


「あー、作戦会議中に申し訳ないんだが。要はお姫さんを見つければいいんだろ?

 ならできるぞ。」


ただし、と言う前にプルトさんが俺の言葉を遮った


「・・・何が欲しいのですか?」


話が早い。

丁度いい


「さっきも言ったように俺はこの国を信用してないんだわ

 ・・・この国から何もお咎めナシで出れるような権利が欲しい。あ、通行証でもイイヨ?」


こんなこと言っているが別に今すぐここから抜け出そうってワケではない。

ただ、もしも本当に戦争や争いに『戦力』として送り込まれたらたまったもんじゃないからな。そう言った状況になったら国外に汚名なく逃げたい。


「なるほど、別にこちらとしては国外に出ることは許可があれば可能なのですが・・・。

 分かりました。では姫様の発見の報酬としてそういった権利を手に入れるを致します。流石に私の力ではそれが精一杯です。」



手助けか・・・、まあいいだろう。



「分かったそれでいい。それじゃあこの首輪を外してくれ、そろそろ首が痒くなってきた。」


かなり蒸れるのよこれ















俺とプルトさんはカノンさんの案内で彼女が最後にお姫さんを見たという場所まで来た。

そこは俺が閉じ込められていた建物から歩いて五分程の位置であった。

・・・ここ歓楽街のど真ん中だぞ?なんでこんな場所わざわざナンで歩いていたんだ?



「姫様は竜崎様のことが本当にお好きになってしまったんですね・・・」


俺の心の声が聞こえたのか定かではないがプルトさんがボソッと呟いた。


「と、言いますと?」


「・・・この付近には宿が多く点在しているということですよ。」


「いや、答えになってないでしょ。分かるんならちゃんと言っとくれよ。」


意味が分からん。宿が多いからどうしたというのだ


「クシナ様。あなたひょっとしてバ・・・。いえ、そんなことよりも姫様の捜索の方をお願いします。」


なんだかよく分からないがしょうがない。

俺は肩から掛けてた籠の蓋を開くと中から一匹の虫を取り出した。

この籠は平賀ヒラガミナトという俺と同学年で魔道具とかいうみょうちきりんな物を材料があれば自在に作ることができる才能を持った奴に作ってもらった。

コイツはなんと限度はあるが色々な物や生き物を中に入れておくことできるという優れモノだ。


「・・・『メオトアゲハ』ですか?」


「その通り。」


アゲハと言っても俺はこの虫は枝なんかにとまっている時翅を開いているから蛾だと思うんだがな

まあ見た目は少し青が混じったようなアゲハ蝶って感じだし蝶でいいか。


この蝶はきれいな水辺とか草花が生い茂った場所で見かけ、俺もこいつは城下町の近くにある湖のほとりで捕まえてきた。

こいつらの凄いところはなんと言っても


「メオトアゲハの番を探す習性を利用して姫様を探そうということですか?」


プルトさんが呆れたように言った

・・・まあその通りだな。結構図鑑でも迷信っぽい書き方だったし

だが


「いいですか?今は緊急事態なんです。

 そんな虫を使って姫様が見つけられるようなら誰も困らないんです。

 あなたの冗談には付き合えません」


「俺はマジで言ってるぞ!!

 現に俺達の世界ではガのいくつかの種類のメスは匂いでオスを引き寄せるんだ。

 ・・・詳しいことは俺もよく分からないがとりあえずこのメオトアゲハは確かに番で行動するし、メスをオスから見えないように隠すとオスはメスの通った後を辿って見つけるのを実際にこの目で見たんだ!!」


多分誘引フェロモンとか何かが関わっているに違いないが、俺も詳しい事は知らん。


「ハァ・・・。本当に探せるんでしょうね?

 カノン、あなたは今いる者たちで付近を捜索してください。クシナ様の方は私が担当します。」


・・・信用されてないのかな?でも、もしも俺が見つけられなかった時の保険を掛けるのは賢明な判断だと思う。


「メスの方は俺が箒置き場で隠れているときにお姫さんに付けておいた。行くぞ」


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万能勇者様とその相棒 夏男 @kao-summer-season

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