第4話 きのう、失恋した
俺は警察署前で倒れていたらしい。
救急車で運ばれたのはうっすらと記憶がある。
病室で目を覚ますと、田舎の母さんが駆けつけて来ていて、泣いていた。
極度の衰弱状態だったらしい。
山田と浜田も見舞いに来てくれた。家族も友達もありがたいな。
退院して部屋に戻ると、もう宇宙船は無かった。
いつかこうなると分かっていたのに。
取り残されてしまったような寂しさに襲われた。
今日は山田と浜田が泊まりに来る。
念願のたこ焼きパーティー&ゲーム大会をするんだ。買い物袋を持ちながら満天の星空を眺める。
あの中のどれかに居るのかな、と思いながら。
視線を下げると、木の陰に誰か居た。
駆け寄ると、俺と身長が同じぐらいのナメクジだった。仕草で誰か分かる。
「こんばんは、ピロピノス」
「こんばんは、タケシ」
彼女は、ぺこりと頭を下げる。
「タケシのおかげで、宇宙船、直った」
「それは良かった」
「ワタシたち、好きな人とキスすると、いっぱい元気出る」
「そうだったんだ」
「あのね、これから星に戻る。いっぱい元気が必要」
言いたいことは分かった。
ずっと気になっていた疑問も解けた。
だったら、最後にする事は、一つしかない。
「大好きだよ、ピロピノス」
抱きしめて、自分からキスをした。
どこが口なのか分からなかったけど、とりあえずこの辺だろうという部分に当てた。
彼女は恥ずかしそうに、触覚を震わせる。
「ありがとう、大好き。ワタシ忘れない。元気でね」
彼女は隠していた宇宙船に乗り、星に帰っていった。
きのう、失恋した。
だけど、幸せな恋だった。
後日、近所に宇宙船が落下したのを見かけて駆けつけたところ、巨大ムカデ型だった。
俺は背筋が凍り、一目散に逃げ出した。
宇宙人彼女はキスしないと死ぬらしい 秋雨千尋 @akisamechihiro
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