第3話 顔が可愛ければパーフェクト?

 更に疲れた俺は居眠りどころの騒ぎではなく、体育の時間にぶっ倒れた。

 保健の先生が笑いながら冷たいタオルをかけてくれる。


「目の下、クマで真っ黒よ。寝ないで何していたのかしら?」


 セクシーな事で有名な先生。ミニスカートから覗く太ももは男子なら必ず見てしまう。

 俺も例外なくファンだけれど。

 あれ、なんかおかしいな。いつもみたいにムラムラしない。

 ピロピノスの方が胸が大きくて、ウエストがくびれていたから? お尻もキュッとしていたし。

 触った感じは鉄だったけど。

 保健室のドアが開き、昨日一緒に遊んだ山田と浜田が入ってきた。


「大丈夫か?」

「一応、鞄持ってきたけど」


 心配そうに覗きこんでくる。優しさがしみる。二人に丁重に礼を言い、帰る事にした。


 ピロピノスに足りないものは、後は顔だけか。

 ふと、校庭で声援を受けている女子が目に入った。学校一の美人と名高い先輩だ。

 あんな顔だったらな……。

 写真があれば変身してくれるかもしれない。俺は隠し撮りしようと携帯を構えた。そして彼女のファンに捕まった。


 最悪だ。

 殴られるは、携帯を壊されるわ。

 土下座して許してもらうのも屈辱だった。

 何やってんだよ、もう。

 身も心もズタズタで、部屋に戻る。こんな俺をピロピノスが待っている。そうだ漫画雑誌のグラビアがあった。


「タケシ!?」

「ピロピノス、この子になれる?」


 予想通り、変身してくれた。白い肌に長い睫毛に大きな目。ピンク色の唇。

 これならいくらでもキス出来る!

 出来る、けど・・・。


「タケシ?」


 それは間違ってる気がする。

 なんていうか、その、浮気みたいな気がする。


 その時、背後から物音がした。しまった。鍵をかけ忘れていた!

 ナイフを持ち、目出し帽を被った男が玄関に立っている。こいつが噂の強盗犯か!


「金を出せ」


 恐怖で体が震えて声が出ない。

 どうしよう、刺される。殺される! 俺も、ピロピノスまで!


「ん、なんだそのベランダの女」


 強盗が覗こうとするのを、自分の体で隠した。見られたくない。それは恥ずかしいとかじゃなくて。

 俺の彼女だから見せたくないんだ!


「ピロピノス! こいつヤバイ奴だ! 逃げろ!」


 力の限り叫んだ。

 強盗がこっちに向かってくる。終わった。

 せめて成人するまで生きたかったし、ピロピノスの事、もっと知りたかった。


 彼女の触手がズドンと伸びて、俺の肩口をかすめて強盗をぶん殴る。

 玄関ドアを破壊して勢いよく廊下に叩きつけた。


 近くに見回りに来ていたお巡りさんが逮捕し、俺は事情聴取に行く事になった。

 帰り道、ピロピノスが木の陰から姿を現した。

 俺のリクエストそのままの姿をしている。

 そうだ、今日のキスがまだだった。


「ピロピノス。やっぱりその姿じゃなくていい」

「ヘン?」

「ううん、俺はさ、ありのままの君とキスがしたいんだ。元の姿に戻って」


 彼女は恥ずかしそうに両手を顔に当てる、いつもの仕草をしてから、発光した。

 そして銀のタコ型ボディに、ならなかった。


「……えっ?」


 現われたのは、体長三メートルぐらいの巨大なナメクジだった。

 言葉をなくして立ちすくむ。


「ワタシ、愛されたくて地球人がイメージする宇宙人のフリしてた」

「あ、カタコトも演出だったんだ」

「タケシ、好き」


 ナメクジが、ぬめぬめと地面を濡らしながら近づいてくる。

 まっいいか!

 別にナメクジだって!

 中身はピロピノスだもんな!


 俺は両手を広げて、彼女を受け入れた。

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