死活パーティに招かれざるソイツ
ちびまるフォイ
限りなく死活パーティ
私の名前は田中権左衛門。
齢55歳にして人生に絶望した。
ストレスばかりの仕事を繰り返すだけの毎日。
自分を偽り人を観察する日常になんの価値があるのか。
未来に希望が見えなくなったことから私は『死活パーティ』に参加した。
「それでは参加者のみなさん、
テーブルの上のプロフィールカードを記入してください」
「君、このぷろふーるかーどというのはなにかね?」
「こちら自己紹介や話すきっかけづくりに使われるカードです。
あなたと一緒に死んでもいいと思える人が見つかるように
ご自身のお名前やキャッチフレーズなどをご記入ください」
『名前:田中権左衛門』
『あだな:とくになし』
『長所:とくになし』
『短所:とくになし』
『最近の思い出:とくになし』
『備考:とくになし』
「これでよいな」
「あ、あのぅ……なんていうか、その……趣旨、わかってます?」
「無論だ。死活パーティはひとりで死ぬのは寂しいので、
お互いに一緒に死ぬパートナーを探す場所だろう」
「ええ、ですからもう少しとっつきやすいことを書いたほうが……」
「君は個人情報という言葉を知らんのかね」
「何しに来たんですか」
死活パーティが始まると異性の前に代わる代わる移動して話をする。
「私は田中権左衛門です」
「よろしくお願いします。ヒトミっていいます。
ご趣味はなにかあるんですか?」
「そんなものあったら趣味に没頭して死にたいとは思わない」
「ソ、ソウデスカーー……」
『時間になりました。次のテーブルに移ってください』
「私は田中権左衛門です。
ひと読んで……田中権左衛門といます」
「え、ええ……」
「今のボケはわかりにくかったかな。
今のは、あえて同じことを2回言うという大爆笑の――」
『時間になりました。次のテーブルに移ってください』
すべてのテーブルにスライド移動し終わると、
最初のテーブルに戻ってデスマッチングカードが配られた。
「では、デスマッチングカードに一緒に死にたいと思った人の番号を書いてください。
見事マッチングした人は、備え付けの死亡ルームでしっぽり旅立てます」
「どきどきするなぁ」
記入し終わったカードはスタッフが回収し、死亡ペアが発表される。
「1番さんと23番さん、おめでとうございます」
「2番さんと5番さん、おめでとうございます」
「42番さんと43番さん、おめでとうございます」…
「君、君。すべて発表し終わったようだが私が呼ばれていないぞ」
「え? あ、それは……残念ながらデスマッチングできなかったみたいですね」
「こっちは参加費を払って、遺書も書いて、会社に届け出も出したのに
"死ねませんでした笑"と手ぶらで帰れというのか!?」
「知らないですよ! 需要なかったんでしょう!?」
「そんな馬鹿な!」
誰ともデスマッチングできなかった。
こんなにも追い込まれている人たちが集まっている場所でも
「少なくとも最後の瞬間はコイツとは居たくない」と思われたのだろうか。
「ぐぬぬ……人生に疲れて絶望して解放されたいと思ってここに来たのに
なぜなお絶望の底に頭を押し付けられなければならんのだ……」
「そういう考え方がよくないのでは?
デスマッチングされた方の共通点として、
相手のことを優先して考えている人が多い気がしますよ」
「あんな数分話しただけで私の良さがわかるか!!
ちゃんと話せば私の魅力に気づく人がいるはずだ!!」
「でしたら、こちらのデスバスツアーはいかがでしょうか。
これは死亡希望者でバスツアーをしてその道中の自殺スポットで落ちていくんですよ」
「君ね、そういうことは先に言いたまえよ」
「そういうとこ、私もあなたとは死にたくないです」
デスバスツアーに参加すると、様々なロケーションを巡って
道中にちょいちょい発表されるデスマッチングで合った人と死んでいくものらしい。
参加者が徐々に減っていくので、後半になるにつれマッチング率は増えていく。
「ツアーなら時間制限に急かされることなく私、男権左衛門の魅力が出せるな」
バスツアーは断崖絶壁の場所にいったり、樹海に入ったり
休憩をはさみながら死亡希望者たちでさまざまな旅行を満喫する。
中継点ごとにデスマッチングが行われて死んでいくも、
いっこうに自分の番号は呼ばれることなくツアーは進行した。
「えーー……残り参加者が2名となりましたが、
本ツアーは最後のロケーションへと向かいたいと思います」
ガイドさんがきまずそうにアナウンスする。
バスには私と、同年代の女性が座るだけだった。
「それでは最後のロケーション。こちらが身投げの滝となります。
かつて若い男女が身投げしたことから地元でも有名な自殺スポットとなっています。
ここで死んだ人は来世は龍になるとされています」
「そんな説明はいいから早くデスマッチングの発表をしてくれたまえ。
といっても、もう2人しかいないがな。ははは」
抱腹絶倒の大爆笑ジョークをぶちかましたところで、
スタッフは2名のですマッチングカードを開いた。
「さあ、マドモワゼル。辛いことばかりの人生から解放されましょう」
「マッチングの結果を発表します。
……残念ですが、今回はマッチングしませんでした」
私は女性に伸ばした手をひっこめた。
「マッチングしなかった!? 馬鹿な!?
だって、残り2人しかいないんだぞ!?」
言いながらハッと気がついた。
「ま、まさか貴様! 最初から私を意図的にマッチングしないように……!?
ずっとおかしいと思っていたのだ。そういうからくりだったのか!!」
女性の書いたとおぼしきカードを強引に奪って開封すると、
中には他の選択肢がないので私の場所に○が刻まれていた。
「やっぱりだ! 私はマッチングしているじゃないか!!
どういうつ権限でデスマッチングさせなかったんだ! 説明しろ!!」
スタッフは困った顔で答えた。
「ここで社長が死んだら、うちの社員がみんな死んじゃうんですよ社長!」
死活パーティに招かれざるソイツ ちびまるフォイ @firestorage
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