海に溶ける
暗藤 来河
海に溶ける
一人で浜辺を歩く。辺りには誰もいない。冬の夜の海なんてそんなものだ。
波の音を独り占めして、当てもなくただ歩く。
ここは人口二百人程度の小さな島。携帯どころかテレビも映らない、情報源はラジオしかないような打ち捨てられた島だ。
観光名所もなく、当然客もいない。一歩ずつ死に向かうだけの処刑台みたいなものだ。
この場所を離れたくて、でも船も飛行機も来なくて、ただただ日々を消化してきた。
だが、それも今日で終わりだ。今ここで、終わらせる。
一歩だけ海に入る。かなり冷たくて立ち止まった。せっかく固めた決意まで凍りついてしまいそうな冷たさだった。
負けないように、一歩、また一歩と進む。
膝まで浸かった。家族は心配しているだろうか。
腰まで浸かった。友人は悲しむだろうか。
胸まで浸かった。この島中に伝わるだろうか。
肩まで浸かった。この島の外では何か変わるのだろうか。
とうとう足が着かなくなった。今までの人生を思い返す。走馬燈は見えなかった。案外そんなものなのかもしれない。
少しずつ沈んでいく。このままどこかに流れていけば、次はもっと違う場所に生まれられるだろうか。
徐々に意識が遠のいていく。もう何も考えられない。
ただ景色が綺麗だった。それだけ思いながら、海に溶けていった。
海に溶ける 暗藤 来河 @999-666
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます