一杯、いかがですか?

羊草

第1話

私はカフェの店員。今年で齢、60。


そろそろ、店をたたもうかと考えている。


だけど、私は若者にもっと、ここの珈琲を味わって貰いたい。


私の珈琲は絶品だと自負している。


カラン,カランッ。


キーーッ,ガチャ。


「マスター、珈琲、一杯、いつもので!」


この青年は私の常連、若者の中で唯一、ここの珈琲を気に入ってくれている。


「はいよっ。」


「マスターの珈琲はいつも、美味しい!」


「マスターが、手間暇かけて選別した豆に、引いてくれた香りが漂うこの空間、俺の好みそのままだ!」


「それは、嬉しいことを言ってくれるね。」


「そうだろ!俺はマスターのことを尊敬してるから、言って欲しいこともわかるんだよ。」


「マスター、今、悩んでんだろ?」


「やはり、君にはわかってしまうか…。お手上げだよ。」


「じゃあ、言うぞ。」


「後継者が欲しいんだろ、マスター!」


「少し違うが、あながち、間違えでもない。」


「私はね、君みたいな、若者のお客様にも私の珈琲の味を知ってもらいたんだ。しかし、私はそろそろ、引退を考えている。しかし、野望は叶えたい。だから、後継者がいたら、とは考えてるんだ。だけど、後継者なんてなってくれる人がいて成り立つ話だろ!」


「だから、俺がなるよ。マスターの後継者に!俺、一番の常連だろ!」


「本当か?」


「ああ、そうしたいねっ!」


「引退前に俺に教えてくれよ!」


「するからには、みっちり叩き込もう!」


「じゃっ、今日のところは失礼するわっ!」


カラン,カランッ。






カラン,カランッ。


「エプロン、自前で、持ってきたぞ!」


「君は本当に行動力があるね!まっ、その心意気は買った!」


「じゃあ、早速、してみようか。」


「案外、難しいんだな、豆引き。」


「君なら出来るよ!根性は人一倍だしね。」


来日も来日も青年は練習した。






ついに青年はやり遂げた。


「君は優秀だね!君がここを引き継いだら、安心出来るよ!君の言葉も随分、丁寧になったよね!」



「マスター、本当に、引退しちゃうんですか!?」


「ああ、言ったからには、そうさせて、もらうよ!」


「今日はお前に一杯、珈琲のお祝い!」


「ありがとうございます。これで、マスターの珈琲が最後になるんですね!」


「心配せんでも、君には、店にいる間、引退間際まで、入れるから!」


「今日も1日頑張りましょう。」





カラン,カランッ。



「「珈琲、一杯、いかがですか?」」








今日も引退前のマスターと青年はあのカフェでお客様を待っています。




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