第80話 呪い

「そういえばこいつらはどうするんだ?」


 俺は横たわるエルフ兵に指を差す。

 スラは一人のエルフ兵の襟を掴み、そして一気に後ろに引っ張り、肩に担ぐ。


「私とこのフーサンの鬼がこの人達を運びますよ」

「待って下さい、私は将官ですよ?もう少し私の扱いを良くして欲しいのですが………」


 だがスラはアオイの発言を無視をする。

 俺は少しアオイが可哀想に感じ、スラに聞いてみる。


「スラ、もう少しアオイの話を聞いてみれば………」


 するとスラはすぐに俺に対して睨み付ける。


「私が先程申し上げたように、この内戦は戦争とは違って戦時国際法が適用されません。だから捕虜として扱うことは出来ません」

「いや、そうじゃなくて人として、人道的に扱うべきだという事で」


 スラは呆れたような顔をしながら俺の発言に頭を傾げる。


「人道的に……と言われましても私はガイノイドですし人ではありません。それにそういう事は戦時国際法―――」

「戦時国際法、戦時国際法って、いい加減にしろ!内戦では戦時国際法が通用しないからって敵だって俺達と同じだ!!」


 するとスラは俺を再び睨み付ける。


「それならば貴方は敵に殴られたり、殺されそうになってもその敵が捕虜になった時、貴方は人道的に助けるのですか?」

「フン、当たり前……………」


 すると俺の頭にはこの世界にやって来てすぐの頃にレナと協力して殺した兵士が頭をよぎる。

 スラは俺の反応を見ると鼻で笑う。


「………口ごもるという事はやはり、違うのですね。それならばカズト様は私の指示で行わせて頂きます」


 クソッ、カッコ悪すぎるぞ俺………。

 い、いや待てよ、あの時の兵士は戦闘中だし、俺に銃を向けてきたから問題はない!

 それにそいつは捕虜でも無かった!!


「待てッ!俺は……それでも助ける。戦っているときは自分も相手も等しく人を殺す権利を持っている。つまり仕方無いことだ!」

「………何が言いたい?」

「だからアオイは囚人ではない、先程まで戦った勇敢な戦士だ!それ相応の対応をするべきである!!」


 どうだ、これなら問題はないだろ?

 するとスラは手に顎を乗せ、考えるポーズをする。


「………仕方無いですね、それならばカズト様が捕虜の管理を任せます。ただし、倒れている捕虜はこの鬼のモノノフに運ばせてもらいますよ」


 ………これは俺がアオイ達の管理を認められたという事か?


「という事だアオイ、これからよろしくな!」

「はい!よろしくお願いしますカズト様!!」


 アオイはさっきの深刻そうな顔はどこに行ったのかと思うほどの可愛らしい笑顔を見せる。

 するとヴァイスはほっぺを膨らませながら、アオイに対して嫉妬する。


「他の女の子と話し過ぎなのです。私とも話をして欲しいのです………」

「話って………うーん、そうだな………」


 ヴァイスの無茶振りに、俺は少しだけ動揺したが倒れているエルフ兵士を見て思いつく。


「そ、そういえばヴァイスに聞きたいんだが、何でこいつらはここで倒れてるんだ?俺はこの時の記憶がハッキリとは思い出せないんだ」


 するとヴァイスはニヤッと微笑みながら説明を始める。


「フフーン!私がちゃんと教えるのです!!それはカズト様が『カタラ』を使ったからなのですよ!」


 ヴァイスがそう答える。

 だが俺はその単語を知らない。

 カタラ?何だそれ?

 俺はそれをヴァイスに聞いてみる。


「か、カタラって?」

「カタラというのは呪いという意味の魔法なのです。魔族はよく使う魔法で、頭痛、吐き気、立ち眩みなどが起きて戦闘不能にさせるのです」


 ………つまり、俺は魔法が使えるのか!?

 く、くぅ~、やっと俺にも異世界っぽい事が出来るんだな!!


「ですが、身体にも悪影響を与えるので要注意が必要なのです」

「悪影響って?」

「例えば、先程『カタラ』が発動した時はカズト様は記憶が飛んだり、暴走したりしたのですが、最悪、このまま誰も止めなかった場合はカズト様は『カタラ』に取り込まれ暴走が続き、解除されても長い時間身体が動かない、目が見えなくなるなど様々な症状が出るのです」

「なるほど、じゃあ使うべきではない能力だな」


 残念だな、折角異世界っぽい感じなものが楽しめると思ったのに………。

 ………ん?

 待てよ、何でヴァイスはこんな事をスラスラと答えれたんだ?

 記憶喪失じゃなかったっけ?


「ヴァイス?お前記憶喪失じゃなかったっけ?」

「はい、そうなのです」

「じゃあさっきの『カタラ』はどうやって説明出来たんだ?」


 俺がそう言うと、ヴァイスはこちらを笑顔で見ながら答える。


「ただ、その話の記憶が戻っただけです」

「怪しい………」


 するとヴァイスはすぐにスラの所に向かう。


「私も彼らを運ぶのを手伝うのです!」

「これはこれはありがとうございます、ヴァイス様」


 するとマルクスが俺の所に来る。


「ご主人様も働いて下さい、一応こいつらの意識失わせたのはご主人様だからな!」

「俺は皇帝だぞ?」

「フン!知らないよ、だからどうしたってんだ!!」


 えぇ………まあ、手伝う予定はあったが、俺が皇帝だから止めてくれると思っていたのに、そんな事は無かったな。

 よし、じゃあ誰か一人を運んでみるかな。

 俺はそう考えると、近くに横たわっていた兵士をすぐに背負う。

 レナを運んだ時も思っていたが、意外にもエルフって体重が軽いんだよな。

 エルフってやっぱり森の中を素早く動ける様な体型や重量なんだろうな………。

 するとアオイとスラは両腕に二人のエルフを担ぎ、ヴァイスは一人のエルフを背負っている。

 マルクスは……まあ、身体が小さいから仕方無いのかな。

 するとマルクスは俺の視線に気づいたのか、睨みつけながら吠える。


「何だよこっちをジロジロ見やがって、俺はご主人様を護衛をするんだからご主人様が何を言っても俺はこいつらを運ばないからなっ!」


 そう言ってマルクスは馬車のある方に先導する。


「当たり前だよな、マルクスは小さいから運べないし、悪かったよ………」


 するとマルクスは耳をピクッと動かし、無言でこちらの方に振り向く。


「………やってやろうじゃねぇかよ、この野郎!」


 そういきなり俺に怒鳴ると、ヴァイスの方に振り向く。


「ヴァイスさん、俺にその兵士を運ばせて欲しいのですが………」

「はい、構わないのですよ」

「ありがとう、それでは自分の背中に乗せますね」


 ムッ、俺に対しては偉そうな態度を取るのにヴァイスに対して優しいのは納得いかないな………。

 ヴァイスは背中からエルフ兵を下ろし、それをマルクスが担ぐ。

 マルクスはそのエルフ兵を担ぐと、マルクスはこちらを見てドヤ顔を見せつける。


「どうだ!俺でも運べる事が分かっただろう?」


 そう自信満々に言ってるが、マルクスの背は低く、エルフ兵の足が地面につき、マルクスが歩くと爪先部分が地面をガリガリとしながらエルフ兵を引きずる。


「………まあいいか、ゆっくり運べよ?」


 俺は………考えるのを諦めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転移転生者が嫌われる異世界で君主に成り上がる俺 ヨッシー @Yoshi4041

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ