第79話 ガイノイド

 マルクスは小さい子供とは思えない、まるで歴戦の兵士の様に慣れた手つきでボルトアクションの銃の薬莢を排出し、次弾を装填、そして構える。


「貴方獣人ね。小さいのに鎖閂式ささんしきの銃を持つ年頃ではないでしょうに………」


 アオイはマルクスに対して睨みつけながらそう言うと、マルクスは溜め息を吐いて答える。


「これでも俺はガキじゃねぇよ、俺はある人を護る為に小さい頃から訓練していた。ここに居るご主人様の護衛は只のオマケみたいなものだ」

「お、オマケって………」


 それは俺に対して余りにも酷すぎないか………。

 まあいい、それにしても護る為に訓練していたという事はまさか、あのシルヴィがまさかの有名人という事なのか!?

 なんか俺はシルヴィに対して失礼な態度を何度も取っていたような………。


「さあ、扶桑フーサンの軍人!今すぐにそいつらと一緒に投降しろ!命はここに居るご主人様が保証してやる!!」


  するとマルクスはアオイに銃を向けながら、降参するよう諭す。

 アオイは俺をジーッと凝視し、腕を組みながら何かを考え、そして溜め息を吐く。


「降伏しない。と言いたい所だが、扶桑自体はエステルライヒ帝国とは戦争をしていないし、カズト様が私の命を保証するのであればそれで良い。それに私はもうあの国に居るのは疲れたし………」


 あの国って敵対してるバーベンベルク王国の事か。

 一体、何があったんだ?

 するとアオイはそう言って構えていた金棒を地面に置き、そして両手を上げる。

 その行動を見たマルクスはゆっくりとアオイに対して銃を向けながら近づき、アオイの手をロープで縛る。

 そしてマルクスは金棒の前に向かうと、持っていた銃を肩に掛け、両手で金棒を持ち上げようとする。

 だが金棒が重すぎるのか、マルクスは顔を赤くするが持ち上げることが出来ない。


「重ッ!?何だこの棒は!!」

「ふん!この金棒は特注で貴方達が数人で持てるような重さよ、持ち上げれるもんなら持ち上げなさい?持ち上げれないのなら、仕方無い………私は降参を撤回するしかないわね。こんな奴等にカズト様の安全は守れないわ!ハッハッハ!」


 一方、スラは飛んでいった自身の頭を探し見つけ、それを拾い上げて彼女の首に取り付ける。

 首にくっつけた瞬間、目をパチリと開け、状況をすぐさま確認する。

 そしてアオイの態度を見て何を思ったのか、スラはマルクスに近づき、彼の左肩をポンと軽く叩く。


「マルクスさん、私に任して下さいませ」

「は、はい、あ、ありがとうございます」


 マルクスは金棒から離れ、スラが持ち上げようとする。

 アオイはニヤニヤしながらスラが持ち上げようとする所を見る。

 だが、スラは表情を一切変えず、その重たい金棒を軽々と持ち上げる。


「へぇー、この金棒は本当に重いですね………約660パンドくらいですか?」


 スラが金棒を軽々と持ち上げると、アオイは目を丸くしている。


「頸も取れたり、細い体なのに80貫ほどの重量もある私の金砕棒を持ったり、貴女まさか、あやかしなのか?」


 するとスラは理解が出来なかったのか、頭を傾げる。


「アヤカシ……という物は私は知りませんが、私はロボタ族のガイノイドという種族でございます」


 ガイノイド?

 ガイノイドって一体なんだ?

 なんかポ○モンの名前みたいな感じがするな。

 俺がそんなくだらない事を考えていると、アオイは目を丸くする。


「が、ガイノイドって中央欧羅ちゅうおうユーラにあるボヘミア王国に居ると言われるココロナシと呼ばれるカラクリ人形ですか………?」


 ココロナシ?

 そういえば、宮殿内の兵士もスラに対してそう呼んでたな。

 するとスラは表情を変えず、アオイの方に近づく。


「ココロナシは我々ロボタ族に対する蔑視表現です、もしココロナシともう一度呼べば、貴女の腕をここで折らせていただきます」


 ちょ待てよ!じゃあ王宮内の衛兵は『ココロナシ』と言って良いのか?

 それはおかしいんじゃないのか?

 するとアオイはスラの発言に激怒する。


「捕虜に対する暴力はユーラでは壽府ヂネブラ条約に違反ではないか!?」


 するとスラは溜め息を吐き、アオイに説明を行う。


「この戦いは戦争ではなく内戦です。全ての戦時国際法はこの戦いでは適用されません。つまり我々は捕虜に関して焼くなり食うなり好きに出来るのです。それを知らないでこの内戦に参加する貴女に呆れます」


 スラがそう説明するとアオイは歯を食いしばり睨みつける。

 するとスラはゆっくりと俺に近づく。


「カズト様、お怪我はありませんか?」

「あ、ああ、俺もヴァイスにも怪我は無いよ。それにしてもスラは機械だったんだな」


 するとスラは落ち込み、少し悲しそうな顔をする。


「我々ロボタ族のアンドロイドやガイノイドは心の無い種族として忌み嫌われます。カズト様もやはり私のような心の無い種族は苦手ですか………?」

「そんな事は無い!俺はロボットとかはカッコいいと思っているぞ!!だからそんなに気を落とすな、スラ」


 するとスラはゆっくりと立ち上がり、少しだけ笑顔を見せる。


「………そうですか、それはありがとうございます。それでは貴方を守るという仕事を開始させて頂きます」


 そうスラは言って、ポケットからヘアゴムを取り出し、髪を纏め、ポニーテールにする。

 そういえばポニーテール女子って可愛いよなぁ………。

 なんかあの名前の通り、ぴょんとした尻尾みたいな髪の毛が可愛らしいんだよなぁ………。


「カズト様、マジマジと私のことを見ないで下さい」

「ご、ごめん!」


 俺はスラに即座に謝り、目を逸らす。

 するとヴァイスは無言で怒り、後頭部を押さえながら頬を丸く膨らまし、アオイはジト目でこちらを見ている。


「ど、どうした?」

「「何でも無いですっ!!」」


 ヴァイスとアオイの二人は怒りながら顔をプイッと違う方向に向く。

 どこに怒る要素があったんだよ。

 やっぱり女子の気持ちを読み取るの難しいな………。

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