第78話 闇

 スラの頭は近くの芝生に転がり、俺は見失う。

 そしてスラの頭をぶっ飛ばしたアオイはハッとして、すぐに冷静になる。

 そして一瞬黙りながらスラに対して頭を下げ、近くにいる兵士に命令を下す。


「半分は近くにいる狙撃兵と思われる兵士を殲滅しろ。残りの半分は私と一緒にカズト様を保護しろ」

「「了解!」」


 俺はその状況に困惑する。

 アオイにスラを殺害した罪悪感が感じられないし、周りも普遍的な考えを示す。

 ヴァイスはスラの死体をじっと眺めていた。

 ……ああ、戦争なら当たり前なのか。

 なら、俺はこいつらを殺しても良いよね?

 ……待て待て!お、俺は一体何を考えているんだ!?

 こ、殺す訳……いや、彼らは人を殺めた。

 彼らを罰する権利は俺にある。

 そうだ、俺にはあるんだよ!!


「か、カズト様、どうしたのです?」


 ヴァイスは俺を恐れるような顔をする。

 俺を恐れる事がどこにある?

 俺は今から彼女らを殺す正当性がある。


「ナゼ、コロシタ?」


 俺がそう言った途端、突然エルフが頭を抱えながら苦しみ始める。


「に、ニホンジンの野郎!い、痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

「や、やめてくれ、ニホンジン!!」

「あああああああああああああああ!!」


 だがアオイはエルフに起きている現象に理解が出来なかった。

 続々とその場に居たエルフが順に泡を吹いたり、白目を向いたりして地面に倒れ始める。


「ど、どうした!グッ……な、何だ、この頭痛は………!?」


 するとアオイは金棒を地面に落とし、片手で頭を押さえる

 するとヴァイスは俺から何かを察したのか、必死に訴える。


「か、カズト様!落ち着いてくださいなのです!!」


 ハッ!落ち着けだと?

 俺は元から落ち着いている。

 アオイを殺さないといけないほどにな。

 ………待て待て!何で俺がアオイを殺さないといけないんだ?

 というか、俺に一体何が起きているんだ……。

 怖い怖い怖い怖い怖い、誰か助けてくれ。

 俺は段々と息苦しくなる、だがそれと同時に体の力が溢れていく。

 するとヴァイスは突然抱きついてくる。


「ヤ、ヤメロ!ハナセ、ヴァイス!!」

「離さないのです!!カズト様、早く元に戻ってなのです!!」


 ヴァイスが抱きついた途端、どうしてかは分からないが体の中から湧き出ていた邪気が少しずつ消えてゆく。

 というより、何故か心が安らぐ………。

 不思議な感触だ………。

 前から不思議に思っていたがヴァイスは一体何者なんだろうか。

 俺がそんな事を考えていると、突然首がぶっ飛んだはずのスラが腕を上に向け、持っていたナイフを投げる。

 そして近くに居たアオイの顔をナイフがかすり傷を作る。


「くっ………!」


 スラはゆっくりと立ち上がるが、彼女には首が無い。

 俺は冷静さを取り戻すどころか、何故こうなっているのか混乱する。

 だがスラは首が無くてもアオイが見えてるのか、アオイに向けてナイフを持ちながら構える。

 周りのエルフは気絶し、アオイも呼吸が荒くなるほど体力が削られている。

 それにしても俺には凄い力が隠されている事に驚いた。

 何だったんだ、あれは……。

 すると俺の後ろから発砲音が聞こえる。

 その瞬間、銃弾が俺の真横を通り抜け、アオイの方に飛んでいく。

 だが、アオイは金棒でその銃弾を跳ね返す。

 すると誰かが後ろから走ってくる。


「大丈夫ですか、ご主人様………」


 振り返ると、そこに居たのはボルトアクションのライフル銃を構えた獣人のマルクスだ。

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