友情は斯くも容易く崩れ去り ②

《前回のあらすじ!》

ジョンがカードゲームを持ってきたよ!面白そうだから遊ぶことにしたよ!

そうしたら手札に田中ばっかり来たよ! ポーカーなら絶対勝ってたよ!

デッキからドローしたら山本が来たよ! 田中と合体(意味深)させたよ!

以上あらすじ終わり!





くそっ! とんでもねえ事になっちまった! 気軽にカードゲームをしていたら、いつの間にかBLの片棒を担がされていた! なんてこった!


もうこうなったら、犠牲になってくれた田中と山本のためにも、絶対にユッキーに勝つしかない! 僕はやるぞ!


手札の田中を守備表示で召喚! そしてターンを終了する!


「ターンエンドね。それじゃあ次は私のターンか。ドロー! ……私は手札から2体目の『バーサーカー西野』を召喚!」


くっ! 2体目の狂戦士が現われやがった! 状況は悪くなる一方だ! 


しかしこのターンは、田中と山本の犠牲のおかげで、ユッキーに攻撃されることはない! ありがとう!純情を捨てた田中と山本! 


「ふん、仕方ないから私はこれでターンエンドよ。どうマコト? 男二人の純情を犠牲に生き残った気分は?」


うるせえ黙れ! 嫌味なこと聞いてくるんじゃねえよ!


それよりターンエンドなんだな⁉ じゃあ次は僕の番だ! 今度こそ強力なカードを引いてやる! 来いっ! ドロー!


『タイムマシン:前のターンに使用したカード効果をもう一度使用できる』


な、なんだこれ……? どういうことだ?


「お、やっとまともなカードを引けたなマコト。それは効果カードだ。カードに書かれている効果を使用できる。今なら使えるが、使っとくか?」


もちろんだ! 使えるもんは遠慮なく使う! 犠牲になってくれた二人のためにもな! 何をしてでも生き残るんだ! それで、使える効果は何だ⁉


「そうだな。この場合、前のターンに使った効果を再利用できるから……もう一回『一夜の過ち』が発動するな」


ぬおおおおおおおおい! 何をやってるんだああああ! 何で一夜の過ちを再び犯そうとしてるんだあああ! 二夜目に突入しちゃってんだぁぁぁぁ⁉ 

これ以上田中と山本にトラウマを植え付けるんじゃねえよぉぉぉぉ!


ていうか『タイムマシン』ってそういうことかよ⁉ 時間逆行して、二人にもう一回過ちを犯させるって事かよ! 罪深すぎるだろ⁉


「じゃあ使用するのをやめるか? だがそうすると次のターン、ユッキーの攻撃を耐えられる保障はないぞ?」


ぐっ……そ、そうか。確かに今、僕の手札には田中が2枚しかない。

もしそのうちの一枚を守備表示で召喚したとしても、僕のフィールドには、さっきのターン召喚しておいた田中とこのターンに召喚する田中の、合わせて二人しか肉壁がいないわけだ。


それに対してユッキーのフィールドには、すでにバーサーカー西野が2体。もし次のターン、ユッキーが攻撃力3000以上のカードの召喚に成功したら、その時点で僕の負けが確定してしまう。


つまり、安全を考慮するならば僕は、このターンも『一夜の過ち』を発動するべきなのか……。


いや、しかしそれは果たして許されるのか⁉ 僕が助かるために、純情な二人を犠牲にするなんて、そんなことあって良いのか⁉


「気にするなマコト。さっきも言ったが、所詮はゲームだ。遠慮なく田中と山本を供物として捧げろ。二人もそれを望んでいるはずだ」


ジョンはまるで悪魔がささやくように、僕にそう言った。

……うん、そうだよな。これは所詮ゲーム。気に病んだってしょうがない。


田中と山本の二人には申し訳ないが、ここは僕のために再び過ちを犯して貰うことにしよう!タイムマシン発動! 田中と山本は再び、一夜の過ちを犯す!



「ふふ、これで私は次のターンも攻撃できないというわけね。なかなか楽しませてくれるじゃない」


ユッキー! テメエなに田中と山本の悲劇楽しんでんだよ⁉ 全然面白くねえからな! 全然笑えねえぞ僕は! むしろ泣きたい気分だコンチクショウ! やらなきゃ良かったこんなゲーム! もう遅いけど!


「それじゃあ私のターン! ドロー! ……ふふふ、ついにコイツを召喚するときが来たわね」


な、なんだ⁉ なにをするつもりだユッキー⁉


「私は手札の『バーサーカー西野』と『ドラゴンソウル上野』を墓地に送り、特殊カードを発動するわ! そしてその効果でデッキからカードを特殊召喚する! いでよ! 最強の竜使い『インフィニティ西野』!」


『インフィニティ西野 ATK4000 DEF4000』


な、なにいいいいいい⁉ バ、バカな⁉ 攻撃力4000だと⁉ 

プレイヤーの体力は3000が上限なのに、完全にオーバーキルじゃねえか! 


ていうか何だよ『インフィニティ西野』って⁉ 西野の一体なにが無限大なんだ⁉


「ま、まずいぞマコト。あれはこのゲームの中でも最高クラスの強さを誇るカードだ。あれが出てしまった以上、もう俺様達に残された希望は殆どない」

「そのとおりよ! インフィニティ西野の前では全ては無力! 例え幾万の田中が立ち塞がろうとも、行く手を阻むことは出来ない!」


『幾万の田中』って何だよ⁉ どんだけ居るんだよ田中は!


し、しかしヤバいぞ。このターンは二度目の『一夜の過ち』の効果で耐えられることが確定しているが、でも次のターンで逆転できなければ僕は間違いなく負ける!

こんなのどうしろって言うんだ!


「まだだ! まだ諦めるなマコト! キマサには諦めてはいけない理由があるはずだろう⁉ ここでキサマが諦めてしまったら、キサマのために犠牲になった田中や山本はどうなる⁉」


……! そうだ! 僕は負けるわけにはいかない! 犠牲になってくれた二人の為にも、何としても勝利をもぎ取らねばならないのだ! 


こうなったらもう、次のラストドローにかけるしかない! 頼む! この僕に逆転するためのカードをくれ!

どろおおおおおおおおおおおおおお!


『松本 ATK:300 DEF:300 備考:山本の彼女』


松本ォォォォォ! ここに来て松本かよぉぉぉぉぉ! そりゃあねえだろ! 

今更山本の彼女がしゃしゃり出ててんじゃねえええ! 

テメエの彼氏はもう遠い場所に行っちまったんだよこの野郎ォォォォ!


「ま、まてマコト! このカードは……一発逆転のカードだ!」


怒りのあまり松本を破り捨てようとした僕を、しかしジョンはそう叫び止めた。

な、なんだと⁉ この松本が、このピンチを救うカードなのか⁉ 松本如きが⁉ 


でもコイツ攻守300しかないんだぞ⁉ 彼氏の山本よりは強いが、しかしどう考えてもインフィニティ西野に勝てるわけがない! 山本を尻に敷くのが精々だ!


「確かに松本一人ではインフィニティ西野に敵うべくもない! だがそこに田中の力が加われば……!」


ど、どういうことだ⁉


「特殊カードだ!手札から松本と田中を捨てることで発動できる特殊カードがある!そしてそれを使えば、攻守がともに5000の最強カードを召喚できるのだ!」


攻守5000⁉ 嘘だろ⁉ それならユッキーのインフィニティ西野を容易く屠れるじゃないか!


「どうする⁉ 発動するか⁉」


当り前だ!ここまで来たらもう怖い物なんてない!

勝利のために何でもしてやらあ!


行くぞ! 手札から松本と田中を捨てて特殊カードを発動する! 頼むジョン!


「わかった行くぞ! 特殊カード『不倫』発動! デッキから『山本Jr.』を召喚する!」


『山本Jr. ATK:5000 DEF:5000 備考:法律上は山本の息子』


ちょっと待たんかい!

お、おまおまおまおまおま、お前! お前ええええ! 

お前これ、完全にそういうことじゃねえか! 


『不倫』って! 『法律上は息子』って! 完璧にそういうことじゃねえか!

田中と松本が不倫して出来た子供を、そうとも知らない山本が押しつけられちゃってるって事じゃねえか! カッコウの托卵じゃねえかこれ! 胸くそ悪すぎるわ! 

そして山本ォォォォォォ! お前はなにをやってるんだ山本ォ⁉ 

田中とヤッちゃったと思ったら、なに今度は彼女を田中に寝取られちゃってんだよ山本ォォ! 


お前の人生それで良いのか⁉ そんな場の流れに流されてばっかりで良いのか山本ぉぉぉぉ⁉


「ま、まさかそのカードを使うだなんて……私でさえ、あまりの胸くそ悪さから使うのをためらっていたというのに。恐るべき勝利への執念ね。ちょっと引くわ」


ユッキーはそう言うと、僕を蔑むように顔をしかめた。


そりゃそうだよ! そりゃ敵であるユッキーだって軽蔑するよ! こんなカード使っちゃあね! だいたい僕だって知っていたら使わなかったよ!


「まったくもってその通りだなユッキー。俺様もマコトには『これだけは使うな』と止めたんだが、コイツがどうしてもと言うから……」


ジョンは残念そうにそう言って、ため息をこぼす。


あっ! テメっジョン! なに『自分は関係ない』みたいな事言ってるんだよ⁉ 僕にこのカード使うように言ったのお前だろうが! 一番の悪人はお前だろうが!


「ナニイッテルカワカリマセーン」


この野郎! こういうときだけ外国人っぽく振る舞ってんじゃねえ! お前、母親はアメリカ人だけど、バリバリの日本育ち日本生まれの九州男児だろうが! 


男らしく自分の罪を認めやがれ! そして山本に誠心誠意謝罪しろ! 

それだけじゃ済まないだろうけど!


「まあそれはともかくとしてだ」


『ともかく』じゃねえだろ! どう考えてもこれが今一番の重要問題だろ!

山本の人生で最大の問題だろ!


「だから落ち着け。そして見ろ、この盤面を。この短い間で、戦況は一気にひっくり返ったぞ。俺様達の圧倒的有利にな」


ジョンはそう言って、攻撃力5000という化け物が支配するフィールドを指さした。

確かにジョンの言うとおり、先ほどまでの劣勢から、僕たちはものの見事に逆転していた。


こちらのフィールドに仁王立ちする最強のカード『山本Jr.』。攻守共に5000というこの最強のカードが、僕を守る盾にも、ユッキーを攻める矛にもなっている。


……ていうかちょっと待て。なんで雑魚モンスターである田中と松本の遺伝子を受け継いだ山本Jr.が、こんな化け物モンスターなんだ⁉


「あれじゃない? 育ててくれた山本さんが実の父親じゃなくて、さらには自分の父親が実は母親の不倫相手だった事を知っちゃって、闇落ちしたとか」


そこも胸くそ悪いのかよ!もうイヤだよ!なんでこんなにも救いがないんだよ! 


というか、このカードゲームの製作者はなにを考えてこんな胸くそ悪くしたんだ⁉大丈夫⁉ カードゲームどころか、製作者の精神まで病んでたりしてない⁉


「ふっふっふ、しかしマコト。これは千載一遇のチャンスだぞ。この最強カード『山本Jr.』さえいれば、俺様達が負けることは決してない。山本Jr.の鉄拳で、ユッキーのフィールドを殲滅してやれ!」


ジョンはそう言うと、「焼き払え!」とか言いながら手を横にはらった。

お前は一体、どこの谷のナウシカに出てくる殿下だ? 

”クシャナ殿下”っつうよりも、”クソな殿下”だよお前は。


しかしジョンの言うとおり、倫理的には僕たちが完全に負けているが、ゲーム的には僕たちが勝っているのもたしかだ。


こんなゲーム一刻も早く終わらせたいので、ここらでいっちょ、ユッキーに火の七日間をお見舞いしてやるとしますか。


「その息だぞマコト! それでは行くぞ! 山本Jr.の攻撃! 食らえインフィニティ西野!」


ジョンはそう言って、山本Jr.でインフィニティ西野に攻撃した。


山本Jr.の攻撃力5000に対して、インフィニティ西野は攻撃力4000。このまま行けば、インフィニティ西野を破壊してさらに、ユッキーにも1000ダメージを与えることが出来る。一気に全体力の三分の一を奪えると言うことだ。

ユッキーにしてみれば、大ピンチだろう。


しかし、そんなピンチであるにも関わらず、ユッキーはなぜか「ふふふふ……」と笑い始めた。


「なんだ⁉ なぜここで笑うユッキー⁉ キサマが追い込まれていることはよくわかっているはずなのに、なぜそんな余裕が……!」

「ふふふ……ねえアンタ達。聞きたいんだけど、私がこうなる事を考えていなかったと思う?」

「なんだと⁉」

「私はね、アンタ達が『勝つためならば手段を選ばないゲス野郎』だと言うことをよく知っているのよ。臭いを嗅ぐだけでわかる、ゲロ以下のクソ野郎共だってね」


酷い言われようだ。


「それをわかっていた私が、アンタ達が山本Jr.を召喚すると予想していなかったと思う? アンタ達が山本さんを犠牲にしてでも、勝利をもぎ取ろうとする。そのことへの対策を怠っていたと思う?」

「……! ま、まさかキサマ⁉」


驚くジョンを見て、ユッキーはさらに笑みを深める。そして、手札から一枚のカードを発動した。


「私は手札のこのカードを発動! これは敵プレイヤーが山本Jr.で攻撃をしてきたときのみ使える効果カード! その名も『DNA鑑定』! その効果は、山本Jr.の攻撃力を0にした上で、さらには墓地の田中と松本をゲームから除外する『対山本Jr.』の専用カードよ!」

「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃ⁉」

「さあ、これで形勢は再び逆転する! 山本Jr.の攻撃力は0! 対してインフィニティ西野の攻撃力は4000! つまり、プレイヤーであるアンタ達には4000のダメージが入る! これで終わりだああああああああ!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア! こんな、こんなはずではあああああああ! お、俺様がこんなところでえええええええ! ぬあああああああああああああああああ!」


なんだその断末魔は。勇者にやられる魔王か。


まあいい。なんやかんやあったが、これでやっと、この胸くそ悪いゲームが終わる。不倫していた田中と松本も、除外と言う名の制裁を受けたし、勧善懲悪も完了だ。きっと山本も成仏してくれるだろう……


――――ドゴォォォォォン!


『マコト&ジョン』チーム、残り体力0。ユッキーの勝利。

こうして、悪は滅び去ったのだった。





この後、ジョンはこのカードゲームを質屋に売りに行ったらしい。

10円で売れたそうだ。


欲しいヤツいるのか、こんなゲーム?

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変態と中二病と百合娘のクズ三人は今日も我が道をゴーイング 鷹司鷹我 @taka1gou

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