ヒロインげーむ

佐野 外郎

第1話

漫画やラノベでは都合よく見る記憶喪失。

しかもそれはどれも都合よく物事は進んでいく。

だが、現実になるとそうはいかない。

誰かが心配して付きっきりでいてくれてるかと思ったのに、起きたら誰もいなく1人っきりの個室だった。


横にある机には花や果物が沢山置いてあった。

その横にはスマホが置いてあった。

覚えているのは自分の名前中津川なかつがわ 当麻とうまという事と、両親の顔だけだ。

自分のスマホか分からないが、いじってみると指紋認証で空いたので自分のスマホだと思う。

中身を色々見てみると、事故の前に書いたと思われるメモが残っていた。


『彼女のことを忘れるな』


と書かれてあった。

事故直後に書いたと思うとびっくりだ。

名前書いとけよ、誰かわからんだろ。

もう少し頑張れよ俺。

そんなふうに思いながらスマホをさわっているとドアをノックして医者が入ってきた。

そしてすぐに色々検査をして、医者に言われた。


「記憶喪失だね。事故によるものだ。何かしら思い出したり出来事があったら思い出すと思うよ。今日は念の為入院して明日退院しよう。両親には私から話しておこう」


そう言って部屋を出て行った。

特に何もすることがない。

俺の周りには花と果物とスマホだけ。スマホをいじる気分でもない。

自分が何者かもわからない。

俺は誰だ ?職業は ?学生か ?

そういったことを考えてるうちに、時間だけが過ぎて行く。


すると、またノック音が聞こえてきた。

入ってきたのは母親。心配そうにこちらを見ている。


「......当麻とうま?」


弱々しく声をかけてきた。

少しづつこちら側に近づいてくる。

俺の真横に座り込みむと、また話しかけてきた。


「......私のことは覚えてる?」


医者から聞いていると思うので正直に母に言った。


「ごめん顔しか覚えてないんだ」


その言葉を聞いた母は一瞬悲しそうな顔をしていた。

でも来た時より弱々しさはなくなり、明るい声で


「やっぱりそうかぁでも顔だけでも覚えててくれてよかった」


その後母と俺の事を細かく話してくれた。

俺は高校生だということ、そして一人暮らしをしていることなど、その他色々教えてくれた。

帰る頃には母は笑顔だった。


母が部屋を出て数分後、またドアがコンコンとノックした。

見てみると、そこに立っていたのは、一人の女性だった。

黒髪のショートカットが似合う、背が低めの美少女。

服装は制服で、手には花束が添えられている。

女性は少しうつむきながら、震わした声を絞り出し、


「.....中津川君。大丈夫なの.....?」


残念ながら大丈夫ではない。

俺は、自分が記憶喪失であることを伝えると、女性は顔色を変え、その場にへたり込んだ。


「.....嘘.....」


かなり落ち込んでいるその様子に、少し罪悪感を感じながらも、俺は一番気になっていることを聞いた。


「.....貴方は、誰?」


女性は涙を流し、顔を覆いながらも、細い声で俺に言った。


「.....君の......彼女です......」


俺は理解した。

なぜこの女性が、これほど悲しんでいるのか。

俺は、どうすればいいか分からなかった。

ただ、彼女をこのままにしておくわけにはいかい。

俺は、座り込んで泣いている彼女の方へ歩いて行った。

思うように体に力が入らないが、壁に少し力を借りながら、彼女元へ駆け寄り、力なく腰を下ろす。彼女はまだ震えている。


「.....今はまだ貴方のことは思い出せません。でも、必ず思い出すので、どうか泣かないでください」


俺がそう言うと、彼女は少しづつ落ち機を取り戻してきた。


「.....記憶がなくなっても、貴方は優しいね.....」


彼女は、まだ泣いていたが、同時に笑っていた。

俺はこんな可愛い彼女がいたのか。

俺って幸せなんだなぁ。


「.....また、学校で」


そう言って、彼女は出て行った。

少し元気を取り戻していたようで、俺も嬉しい気分だ。

俺は、ベッドに戻り寝始める。

さて、俺は何をすればいいだろう。

そう思ってスマホを開けようとした時、また誰かが入ってきた。今度は誰だ?


すると、今度もまた女性。

さっきの彼女とは違い、俺より長身で、ロングヘアーの金髪が似合う。

服は彼女とは違う制服を来ており、スカートが長い。

彼女はまた違ったタイプの美人。

言うなれば、彼女は可愛い系で、この女性は美人系と言ったところか。

その女性は、俺の方へ近寄り、かなり真剣な顔をしながら、焦った声で言う。


「.....記憶喪失というのは本当なのか?」


母親か医者から聞いたのかな ?と思い頷く。

すると、「.....チッ」と、舌打ちの声が聞こえた。

この人は誰なんだろう。

そんなことを呑気に考えていたら、


「じゃあ、私のことも覚えてないのか?」


と聞いてくる。

俺はまた頷く。

そして、さっきのように聞いた。


「.....貴方は、誰ですか?」


聞いてみると、女性は少し声を荒げて言った。



「......私はあんたの彼女だよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヒロインげーむ 佐野 外郎 @Willowsano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る