ゲーミング葬式 難易度SSS

ちびまるフォイ

葬式を無事終えることはできるのか

「それでは参列者の方はこちらにご記名を」


親父が死んで葬式がしめやかに行われた。

記名帳はなぜか冒険の書をモチーフにされていた。


「あの、これ……」


「ああ死者を冒涜しているわけではないんです。

 これも依頼者からのご意向に沿ったものなのです

 生前、ゲームがすごく好きだったので葬式もゲームぽくしたいと」


「そうだったんですね」


ゲームをモチーフにした葬式か。

謎解きとか脱出とか遊びに満ちたものなのだろうか。親父らしいな。


会場に入ると、中央にモニターが置いてあり、棺にコントローラが繋がれていた。


モニターには『Push START』と表示されている。


「ゲームぽい葬式ってこういうことかよ!?」


「生前、どうしても息子様にプレイしていただきたいと」


「俺!?」


親父の棺の前に用意されたパイプ椅子に腰掛けると、

棺からのびるコントローラを手にゲームを開始する。



『 たかしの挑戦状 』



「うわもう……ホントやめたくなるタイトル……」


俺の名前をゲーム名にしているから、俺を指名したのだろう。

生前の親父のムカつく笑顔が脳裏に浮かぶ。


「どうせ極端に難しいクソゲーだろ……ん?」


モニターには高品質なグラフィックと爽快なアクション。

市販されても遜色ないほどのゲームに仕上がっていた。


「こ、これすごいですね!?」


「生前、葬式のゲーム開発はゲーム会社様に協力頂きました」


「金のかけ方おかしいだろ!!」


湧いて出てくる親父を主人公の「たかし」がやっつけていく。

葬式で親父を殺すゲームをプレイする気持ちも少しは考えてほしい。


「あ、危ないですよ!」

「え?」


油断していると、湧いてきた親父にボコボコにされてやられてしまう。

ゲーム会社監修とあってゲームバランスも上手くできている。


画面には


『 I am DIED 』


とデカデカと表示され、親父の遺影がぼやっと浮かび上がる。

悪ふざけしている感じがいちいちイラつく。


「もう! なんでこんなのやらなくちゃいけないんだよ!」


「どうしてもということでしたので……。

 それにクリアすると、香典返しをするように仰せつかっております」


「……わかったよ! やるよ!」


しかたなくゲームを再開した。

親父の出現パターンはだいたい把握してきてからは順調に進んできた。


ちょいちょい登場する「上司」などの中ボスに苦戦しながらも

葬式参列者の指示もありゲームを進めていく。


「あれ? ここどこかで……」


新しいマップに移動したときどこか既視感を感じた。

同じことを感じ取った母親が画面を指差した。


「あ、ここ、お父さんと初めてあった公園だわ!

 たかしが小さい頃によく3人でゲームしに来たわ」


「そうなの!?」


思えば、これまでの道のりもどこか見覚えのある場所があった。

マップに配置されているギミックも、かつて親父の部屋にあったものもあった。


「このゲーム、まさか……」


「お気づきになられましたか。実は、依頼者の人生を体現したゲームなんです。

 思い出の場所やお世話になった人を参列者の方にも忘れてほしくない、と

 こうしてゲームの中に登場させているんです」


「上司が中ボスってことは……」


「生前、ぶっ殺したかったんでしょうな」

「そんなゲーム息子にやらせるなよ!」


「早く先に進めて! お父さんの思い出が見たいわ!」


「わかったって」


母親に急かされてゲームを進めていく。

ゲームが先へ進行するごとに親父の思い出が映し出され

しだいに参列者は故人を思い出して涙を流し始めた。


「そうだったわ……たかしがまだ小さい頃

 さっきのトラップみたいに急に車にひかれそうになったのよ」


「さっきの取引先のように怒られたとき、先輩に助けられました」


ついにゲームも終盤にさしかかると、ラスボスこと親父が姿を表した。

今度は親父の肉声とともにセリフが表示される。


「よくぞここまでやってきたな、たかしよ。

 息子は父親を超えるもの。はたしてお前は私を倒せるかな!?」


「親父……!」


「親父パーンチ!!!」



『 I am DIED 』



「えっ強っ……」


おそらく最終ボスだけ親父が作ったのであろう凶悪な強さ。

理不尽という言葉の意味を学習させるツールとしてはうってつけだ。


画面に浮かぶ遺影の親父が勝ち誇った顔でこちらを見ている。


「おのれ親父めぇ……!」


「必殺! 父親の威厳!」

「あれ!? 操作できねぇ! なんだこの糞攻撃!?」


『 I am DIED 』



「親父ブレス!!」

「即死かよ!?」


『 I am DIED 』



「親父チャンネル変え!!」

「まだ見てたのに!!」


『 I am DIED 』


 ・

 ・

 ・


何度リトライしたかわからない。

あまりに何度もやられるので参列者がホワイトボードを出して作戦会議。


動きを打ち合わせして、対策をねって、何度も何度も挑戦する。


参列者が一眼となってゲームの行方を見守り、

攻撃が当たれば歓声をやられればため息が出る。


「もう少し……! もう少しで親父を死なせられる……!」


「がんばれー!」

「油断するな!」

「あとちょっと!!」


トイレで新聞を読み始めた親父に一発食らわせると、

ついにすべての体力を削り切ることができた。


「ぬわーーーーっ!!」


親父の肉声絶叫とともに親父は倒された。

画面は暗転しエンドロールが流れていく。


「これ……スタッフの名前じゃない……参列者の名前だ」


スタッフロールかと思った名前の羅列は葬式参列者のもの。

自分のために集まってくれたことへの感謝を伝えていた。


「親父……!」


「生前、故人は葬式に疑問をお持ちでした。

 死んだときにだけ都合よく集まり、ただ飲み食いして帰るなら意味はないと。

 そこでゲーム形式にして遺族みんなでひとつになってもらたいとのことでした」


最初こそ軽く会釈するだけだった俺たち遺族も、

親父の用意した「親父ゲーム」で自然とまとまっていった。


こんなにも家族のつながりを感じたことはなかっただろう。


参列者の名前が終わると真っ黒い画面に文字が表示された。



『 My Life is FIN 』



参列者は拍手とともに涙を流した。

忘れていた親父との思い出を頭に浮かばせながら。


「親父……ありがとう……!!」


俺も自然と涙が出て止まらなかった。

他人を思って自分の人生すべてを捧げる親父らしかった。


「ではこちら、クリアによる香典返しになります」


「親父……」


親父の筆跡で「クリアおめでとう」と書かれた封筒が渡された。

封筒を開くと1枚のディスクが出てきた。



『 たかしの挑戦状 Ⅱ ~そして火葬へ~ 』



俺はディスクを叩き割った。

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