マギア・アラカルト(番外編)
ヒロイック・ダメダコリャ
タワーマンションの一室、ヒロイックの部屋。通称、ヒロ宅。
そこで騒ぐのは、まさにはしゃぎたい盛りの少女たち。
「くらえ! 水の呼吸、一の型!」
「なんの! 俺は拳の呼吸だあ!」
「そして全てを斬り裂く、デザイア・ストラッシュ!」
「「それズルい!!」」
女三人寄れば
あやか、寧子、一間の女子中学生三人組(なお、一人は不登校児)は元気にはしゃいでいた。そんな彼女らをカウンターキッチンの向こう側でうっとりと眺めているのが。
(一間ちゃん、良かった⋯⋯ちゃんとお友達できたのね。あやかちゃんも寧子ちゃんも良い子で、心が安らぐ⋯⋯)
後方保護者面している神里の英雄。この部屋の主だ。
「ねえねえ、私も混ぜてもらっていいかしら?」
うずうずと女子中学生の集いに入ってくるヒロ。そんな彼女は御歳二十一である。
「それ、龍槌閃!」
しかし、そんな彼女に対して
「りゅ、え⋯⋯?」
「ぁ⋯⋯⋯⋯さ、さすがヒロさん! 格好良いです!」
「師匠、それほんとにジ○ンプ?」
(なんで『ダイ○大冒険』が通じて『るろ○に剣心』が通じないのよ⋯⋯)
絶賛リメイク放送中(※執筆時)だからである。みんなも観よう。
(『る○うに剣心』だって実写映画がヒットしたじゃない⋯⋯⋯⋯!)
しょんぼりと肩を落としたヒロは涙目でキッチンに戻っていった。
♪
「そんなことがあったの。つらいわ。もう限界」
「打たれ弱すぎだろこの英雄様」
夜のベランダでタダ飯を恵んでもらう代償に、みぃなは家主の愚痴に付き合わされていた。
「⋯⋯というか貴女さっきから何咥えてるの?」
「んー?」
口の端でぷらぷら揺れている棒状の物体は、煙こそ出てきていないが、アダルティな雰囲気のアレだった。つまりは、映画とかでマフィアのボスが咥えているような
「チョコ」
「嘘おっしゃい! 貴女まだ未成年でしょ!」
「まーねー、あんたと違って」
ヒロ、曇る。
「いや、私がキツく言える立場じゃないだろうけど、ね⋯⋯。もう少し待ってもいいんじゃない?」
「んー? だからチョコだって、マジで」
言いながらみぃなは器用にシガーを口の真ん中に運ぶ。そのままヒロに突き出して一言。
「んー!」
「んー⋯⋯」
訝しげに端っこを齧るヒロ。
「甘っ!? え、なにこれほんとだ! すごい!」
「だろー?」
ウイスキーの風味と蜂蜜の甘さが口いっぱいに広がる。喜ぶヒロにみぃなは得意顔を浮かべる。そしてヒロが齧った跡を指で押し込み、シガーチョコレートを噛み砕いた。横目で見ていたヒロの頬がほんのり赤い。
「⋯⋯というより、そんなものどこで調達してくるのよ。あ! 分かった! まぁた女の子引っ掛けて貢がせてきたんでしょう!!」
「⋯⋯人聞きの悪いこと言うなっての」
ポケットからもう一本取り出そうとして、やめた。このメンドクサイ相棒を刺激するのはよろしくない。
「大体ね! そんなことしなくても、行くトコないなら私のとこに来れば毎日ご飯も「ごちそっさん!」あ、ちょっと!?」
ヒラリとベランダから飛び降りるみぃな。地上十三階の高さだったが、彼女の身体能力ならば問題ないだろう。手を伸ばしたまま固まるヒロは、やがて奇妙な呻き声を上げてうずくまった。
♪
「――――ということがあったの!」
「そ、それはひどい話ですね⋯⋯」
頬を膨らませながら机を叩く神里の英雄に、真由美は若干引き気味だった。
「うぅ、そうなの⋯⋯⋯⋯みんな私を除け者にしてるの」
「いや、そんなことは「やっぱり真由美ちゃんだけよ! 真由美ちゃんほんと良い子!」えぇ⋯⋯」
ヒロが真由美に抱きつく。自分にはない暴力的な双峰の存在に戦々恐々しながらも、少女はどこか満更でもない表情だった。
「真由美ちゃん、本当に可愛いわ! どうしたらこんなに可愛くて良い子になっちゃうの!?」
「あ、いえ、その、ぅぅ⋯⋯」
赤くなって俯く小動物に、英雄の顔がだらしなく緩む。そのまま手を引いて愛くるしいお洋服(何故かサイズぴったり)への着せ替えタイムに突入。
やりたい放題である。
そんな微笑ましいやら悍ましいやらな光景を扉の隙間から覗いていた者が二人。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ふーん」
「どうしよう一間!? 真由美が! 真由美が! 俺の真由美が取られちゃうう!?」
「知らないよ。てかなんだいなんだいあの泥棒猫はそんなにお金持ちがいいのかね師匠はあのちんちくりんのどこがかわいいってんだ……」
「はっ! 英雄様の色じょー魔にも恐れ入ったモンだね!」
天井から颯爽と、どっちつかずのなんやらが追加。
そして、普通にこのタイミングで入室してきたマギア随一の常識人である寧子ちゃんが一言。
「ロクでもない女ばっか揃ってるゾ⋯⋯⋯⋯」
♪
所変わって、ジョーカーの家。通称、えん宅。
ハンモックに揺られるギョロ目の少女が静かに歌う。
「はーるかーはるかーはるはるかー♪ いえ、ちょっと、違うわね」
片手間で淹れたインスタントコーヒーで喉を潤す。
「はーるはーるはるかーはるっかー♪ はーるはーるはるかーはるっかー♪」
ハンモックに揺られながら、いっそ不気味なニヤけ顔が浮かぶ。
「うん!」
――――えんまちゃん、やめて。マジで、やめて。
そんな天の声にはもちろん気付かず、暁えんまは今日も元気だった。
メリト~Märchen richten Träumerei~ ビト @bito
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