魔剣の亡霊(5)
「そこまで!」
実験室に駆け込んだタチアナが保安部員たちを止めた。
「局長命令だ! この娘の身柄の確保は中止だ」
保安部員たちは再び銃を下ろした。
多くの隊員が内心、この剣の達人とやり合わずに済んでほっとしていた。
「如月琴さんだね。日本のさる筋から連絡を受けました。事情は知っています」
「では、満鉄刀も……」
「我々のミスです。お持ち帰りいただいて結構です」
琴はニコリと笑うと頭を下げ、満鉄刀の方に歩み寄った。
床から満鉄刀を引き抜くと懐の収めた布で丁寧に巻ていった。
翌日……
マニック・カースル城の門の前に如月琴が立っていた。
「此度は本当に有難うございました」
二本の刀を抱えた琴は神成とタチアナに深々と頭を下げた。
「ああ、いやいや、頭を上げてよ、琴さん。刀の件はこちらの落ち度なんだから」
神成はそう言って琴の肩に手を置いた。
「調べてみたら刀を購入するのに仲介した者に問題があったらしい。兵器開発部門のジョン・ディーは、それを承知の上で刀を手に入れたみたいだ」
「今、内務調査部が取り調べている」
隣りにいたタチアナが付け加えた。
「それにしても君、すごいよ。監視カメラの録画映像を見たけど、あのクラスの悪霊を退治するなんて並の腕じゃない。よかったら組織に入ってボクの相棒にならないかい?」
「ちょ、ちょっと! タチアナさん」
「せっかくのお言葉ありがたいのですが、私にはまだこの妖刀をもとの場所に収めて鎮める役目があります。ですので、そのお話はまたの機会に」
琴はやんわりと勧誘を断った。
もう一度頭を下げた琴は二本の刀を抱えて城の門へ向かって去っていった。
「礼儀正しい良い娘じゃないか」
「はい……」
「何だよ。神成。何か元気がなさそうだね。名残惜しいのかい?」
「な! そんなわけないじゃなですか! 俺には任務がありますし」
「二人でいる時は随分楽しそうだって聞いたぞ」
「そんな事、誰から……あっ、もしかしてハオさんからですか?」
「さあ」
「あんな人の言葉なんか信じないでくださいよ! 俺はタチアナ先輩一筋なんですから!」
「ば、ばか! どさくさに紛れて何を言って……」
「あれ? なんで顔を赤くしてるんですか? 風邪ですか?」
「ばかたれ!」
「あ? タチアナさん? タチアナさんてばーっ!」
城の中に戻るタチアナを慌てて追いかける神成だった。
二人での事件捜査はまだまだ続く。
魔剣の亡霊 おわり
黒髪の魔女は暗闇を恐れない。 ジップ @zip7894
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