最終話 カクヨム カクカク

 今年の夏は少しきつかった。仕事のサイクルで忙しい時期を乗り切ったころにズコンと気分がふさぎ、そのあと徐々に回復してくるというパターンがいつもは出来上がっていた。ところが今年の夏はなかなか気持ちが上がってこなかった。梅雨が長かった、急に暑くなった、今日は気圧の変わり目だったから、ちょっとストレスきつかったから…。要因をいろいろ探るのも疲れてしまった。


 そういう時はどうしても思考が内側へとのめり込んでいって無限ループに陥ってしまう。なのでひさこは脳みそを何か別な事に使う方法を探すことにした。ブログはやったことがないけど、ちょうどカクヨムがあるからそこに文章を書くのはどうかなと思いついた。エッセイなんておこがましくて無理だし、新しい物語を考え出すなんてもっと無理。だけどひさこ自身をモデルにした小説なら書けるんじゃないかと考えた。いわゆる私小説ってやつである。


 題名、主人公の名前、ストーリーの大筋、ああだこうだ考えているとちょっと楽しくなった。カクヨムはいつもヨムばかりでカク方の機能は使ったことがなかった。だから純粋にその機能を使うのは興味深かった。新たな発見も多かった。今まで題名の左側にある色はどういう分類なんだろうと思っていた。ところがそれは作者自身が選ぶことのできるイメージカラーなんだと初めて知った。そんな感じで当初公開することは全く考えていなかったが、公開するとどうなるんだろうという好奇心から公開してみることにした。そうやってひさこの眠れぬ夜が華やいだ。


 ひさこはご贔屓の作家さんの作品にはしつこくハートマークを付ける。これは理由がある。長らく更新されなかった時に「もう二度と更新されないかも」ととても不安になったからだ。だから次回もお願いしますという願いを込めてクリックしている。いわばおねだりのようなものである。だけど、ひさこはプロフィールも作品も何も書いていない。だから作家さんからすればハートをつけた相手がどんな人だろうと覗いてみても、のっぺらぼうのままである。ストーカーみたいで不気味だろうなと実は少し気にやんでいた。なので当初は人様ひとさまに読まれる事を想定してなかったこの私小説が、ひさこの長い自己紹介みたいなものになればいいなとも考えるようになった。


 書き始めてみると意外に楽しかった。公開するとひさこのプロフィールから作品が見られるのでなんだかいっぱしの作品になった気がした。そういえば、PV表示というのも作品を書き始めて初めて知った。見ると焦るからこの表示を消す方法はないのかななどと思っていた。


 何話目かを投稿した次の朝、まだ薄暗いキッチンでひさこは思わず息をのんだ。ひさこの作品にレビューを書いてくださった方がいらしたのだ。しかもそのあと何人か読んだ形跡やハートスタンプがあり、レビューの威力を思い知った。ひさこの舌ったらずの文章にいきなり息吹を吹き込まれた気がした。


 ひさこの作品に布石を残してくださった方々のところに行ってみると、思わぬ素敵な作品に出合ったり、またその方がフォローしている作品がまた面白かったりだとか、カクヨムの中での世界もググっと広がった。


 ある夜などは急に恥ずかしくなって全てを削除したくなった事があった。だけど小説を削除したら布石を残してくださったレビューもハートもPVもみんないっしょに消えてしまう。それにはっと気付いて思いとどまった。


 そうやって楽しんできたカク側の作業だが、ひさこはそろそろおしまいにしようと思っている。一番端的な理由は「気が済んだから」だ。メンタルはまだ回復したとは言えない状態が続いているが、カク方の機能も大体わかったし長い自己紹介も済んだのでそろそろ潮時だと感じている。


 しばらくはヨム側に戻って少し広がったカクヨムの世界を散歩してみようとひさこは考えている。そしていつかある日、書きたいものが出てきたらまたカク側にひょっこりお邪魔するかも知れない。


 ここまで読んで下さった方々に感謝の気持ちを抱きつつ…。


 おしまい



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ひさこの場合 ただの、いちどくしゃ @junjunjunjun

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