最終回 新しい日常
夏休み明け。学校の陰キャコミュニティは騒然としていた。どうやら陰キャ総番長がヒロシの仇を取る決意を固めたらしい。ヤバすぎだろ。戦争だ。戦争が始まっちまう。くそっ、何かオレにできることはないのか!?
そんなオレを文芸部部長が呼び止めた。
「灯也、話がある」
「なんだ? いい話なんだろうな?」
「半々といったところだ。実はウチのラブリーラビリンス先生が新たな予言をした」
「マジか!! そいつはどんな予言なんだ?」
「『一人の陰キャが一人の陽キャと結ばれるとき、すべては一つになるだろう』そういう予言だ」
「マジか……」
しかしなんだ? すんげえイヤぁ~な予感がする……。
「今回、陰キャ副番長は陽キャとの全面戦争を回避するつもりらしい」
「そりゃそうだろうな。陰キャ副番長は総番長と違って、とても冷静な男だ」
「それで陰キャ副番長は戦争回避のためにこの予言にのっとり、一人の陰キャと一人の陽キャを結び合わせようとお考えだ」
「おい、ちょっと待てよ。まさか……?」
「そのまさかだ。陰キャ副番長はお前と碧川さんを結び合わせようとしている」
「やっぱりか~~~い!! な~~~に言ってんだあああああああ!!!?」
「逃げられないぞ。すでにお前を捕獲するための包囲網が完成している。陰キャの中の選りすぐりの武闘派を集めて『陰獣』が組織された」
「陰キャ副番長ッッ!!! オレは一言、モノ申しに行くぞ!!!」
オレは陰キャ副番長のもとに急行した。
陰キャ副番長は体育館の裏にいた。後ろに従えた十人の男女は、おそらく例の「陰獣」だ。ヤバすぎるオーラ。他のヤツならビビっちまうね。
「陰キャ副番長ッッ!!!」
「やあ、君の方から来てくれるとはね。探す手間が省けたよ」
「オレを人質に差し出して、それで和睦しようってのか!? そんなもん偽りの平和だ!! ヒロシは死んだんだぞ!!!」
「偽りの平和でも死人が出なきゃそれでいい。それが次につながっていくからね。大勢の人間の命には代えられない」
「んだと!!!?」
「それに今回、ルールを破ったのはヒロシ君の方だ。よりにもよって自分の彼女にアイドルと自分を天秤にかけさせるなんてね。だからヒロシ君はペナルティを受けたんだ」
「で、でもよ……!!」
「……灯也君、覚えているかい? トオル君の美少女フィギュアを折り砕いてトイレに捨てた陽キャ君がいたよね? その子が今、どうしてるか?」
そうだ……そいつは今、学校の裏山に埋まってる……。
「お互いにルールを守ること。それが過去の戦争を経て見出した僕たちの答えのはずだね?」
くっ……さすが陰キャ副番長っ。ロジックに隙がねえっ……!! 沈黙したオレを見て、陰キャ副番長は満足そうに笑った。
「わかってくれたようだね。ありがとう。それじゃあ、さっそく碧川さんとの結婚式をあげようか?」
「な、なに言ってんだぁ!? それとこれとは話が別だぁッ!!」
「別じゃないんだよ……」
ズズ……。
陰キャ副番長の雰囲気が変わった。なんつー禍々しいオーラだ。陰キャ副番長に煽られるように陰獣のメンバーも能力を解放していく。オレには見える。ヤツらの後ろに、巨大な悪魔の姿が。陰キャ副番長と陰獣による
「それじゃあ、迎えに行こうか灯也君。君の花嫁をね」
「なに言ってんだ!! こんな操作されて告白されて、嬉しい女がいるわけねえッ!!」
「それなら自分の意志で告白するかい? それなら操作するのはやめておいてあげよう」
詰んでるッ!! もうオレはこのくだらない戦争回避のために、操作されて告白するか、それとも自分の意志で告白するか。この二つに一つなんだ。それなら……せめてそれなら……ッッ!!!!
「……告白するッッ!!! オレは自分の意志でッッ!! 澪に告白するッッ!!!!」
「よく決心したね」
「う、うおおおおおああああああああああああああ!!!!!!!」
オレは駆け出した。
オレは階段を駆け上がった。まるで人生のつらい階段を駆け上ってるみたいだ。屋上に出た。グラウンドが見渡せる場所に来た。グラウンドにはオレのクラスの連中がいた。次の授業が体育だからだ。澪もいる。
空を見ると、灰色の雲が渦巻いている。これは凶兆なんだ。陰キャ総番長の念能力だ。どういう能力か誰も知らない。でも、ヤバすぎるってことはわかる。これが発動する前に決めるしかないんだ。
オレは叫んだ。
「みおおおおおおお!!!!!!!!!」
グラウンドにいた連中が一斉にオレを見る。指をさす。笑う。でもいいんだ。
「オレはああああああああ!!! 黒崎灯也はあああああああ!!!!! お前のことが好きだああああああああ!!!!! 好きなんだああああああああああ!!!!!」
そしてオレは屋上から飛び降りた。地上40メートルを一気に落下していく。怖いとは思えない。これが運命だったからだ。地表が迫った。オレはそれを冷静に見ていた。目を閉じない。それがオレの覚悟。
衝突する寸前にオレの能力を発動させる。オレの強化系念能力「
地面に衝突した。悲鳴が木霊する。クラスの連中がオレのところに駆けつけてくる。そしてオレは立ち上がった。澪を正面において、オレは言った。
「澪。オレは死なない。お前が好きだからだ。お前とこれからの人生を共にしたいと思ってるからだ。ずっと一緒にいてくれ。お前のいない人生は、もう考えられない」
「とう、やっ……!!」
澪がオレの胸に飛び込んでくる。熱い体だ。これが碧川澪なんだ。これでよかったんだ。クラスの輪の中心でオレたちは恋人同士になった。渦巻く灰色の雲が切れ、光が差し込んだ。そして陰キャと陽キャの戦争も始まる前に終わった。
そう、終わった。何もかも。オレの人生は終わったんだ。今日も澪はオレを起こしにオレの部屋に来る。特別、何かが変わったわけでもない。でも確実に何かが変わった。それが恋人って関係なんだ。そしてこの日々の先に、オレと澪の結婚する未来があるんだ。しょうがなかったんだ。これ以外の道はすべて閉ざされていたんだ。
おい、聞こえてきた。足音が、よ。階段を上ってきやがる。この足音をオレが聞き間違えるはずがない。今日も一日が始まるんだ……。
シンプル幼馴染み2000 ブル長 @brpn770
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