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 落日の光は血煙のように足元を移ろぎ、螺旋を描く回廊の先に澱んでいる。二人が石床を踏む響きは魔道士の衣摺れの音に紛れ、風に煽られ塔の外壁を打つ雨に隠れて霞んだ。

 聖女の戦装束より覗く、膝まで結い紐が届く編み靴は、戦靴いくさぐつ様式に調えられている。膝上に加えられた組み紐飾りは、踏み出した先に影を置く巫呪ふじゅに染められていたが、その組み方は遺失して久しい。聖女の歩みを進めた先に現れている、赤陽せきようの澱みが、染み出す影にはらわれて消えた。


――然もあらば、符印を宵闇のしるべへ。塔の外壁を越えて魔道を用いるお許しを頂き、深奥の秘術を使い影の鼠に変えて放てば、間断なく秘脈を伝い、道越えの門を開く支度は整いましょう。



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古き野篇 文川 @HUM

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