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 正面を見据えていた視線を僅かに巡らせ、魔道士の方へと顔を傾けて聖女が答えた。死人しにびとの爪にも似た鋭さを持つ薄金うすがねの、聖女の耳朶に下がる宝飾の飾りは左右で意匠が異なり、左は壮麗の民の歴史を象る紋様を打ち抜いた黄鋼板きはがねいたを、半ばで返して盛衰の螺旋として示し、右は折り畳まれた四対の蜘蛛の脚を枯土こどの黒礫より彫り起こしてこしらい、深奥の民の古宮こきゅうの代よりの栄耀を写している。そのいずれもは、聖女が魔道士へと視線を置く動きに、揺れることがなかった。


――枯土こどを離れれば、闇のものは影落ちへと成れ果てる。血肉けつにくを求め枯色こしょくの地に迷い出る前に、枯土こどの果て、宵闇のしるべが打たれた黒礫の西方さいほうにて構え、闇のものをいて聖柱みはしらの者たちに応じる。



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