第3話 珈琲とサイズと燃えカス

「いや、掃除ロッカーから出てきた人にそんなカッコいいセリフ言われても首は縦に振れないですよ」

「仕方ないじゃろ。観察するために取り付けてた機械を回収しにきたら入ってくるんだもん」

「たしかに隠れるところはそこしかないですけど…。ていうか、なに学校に盗撮機付けてるんですか!先生に知らせてきます!」

 走って教室を出ようとしたが…

「そんな事しても、わしは捕まらんぞ」

 無視していけば良かったのだが何故かその言葉には妙な説得力があった。

「どういうことですか?」

「もし…」

「何ですか?急に黙って。言い訳を考えてるなら俺、行きますよ」

 おじいちゃんは顔をうつむかせて話を途切れさせたまま黙っていた。何かを言おうとしているが躊躇っているのが見て取れる。

「何もないのであれば俺、帰ります」

「待ってくれ。もし君が良ければ、わしについてきて欲しいんだ」

 決意した真剣な表情で、そう言った。

「いくら何でも怪しいでしょ」

「ロッカーから出て行くのは想定外じゃった。しかし、お前さんにすぐにでも手を伸ばしてやりたくなってしまったんじゃ。失敗に挫けず頑張ってるお前さんに」

「いや、頑張ってなんて無いですよ」

「でも、学校には逃げずに毎日来とるじゃろ」

「それは…この学校で唯一の友達を見捨てるなんてできないから」

「頑張ってるじゃないか。しかも友のためにな」

 ズルイと思う。人が弱っている時にそんな言葉をかけられたら、その人に倒れたくなってしまう。

「優しい言葉をかけてもダメですよ。変な人には、ついて行けません。小学校で習いましたから」

「いや、そうなんだけどさぁ。違うのよ。本当は、みんな一気に連れ去るつもりだったよ!でもさぁ、流石に良くないかなぁって思ったんじゃん!」

「思ったんじゃん!って知りませんよ!そんなの!みんなって何ですか。クラス全員って事ですか!?」

「いいや、力を得る資格がある3人をじゃよ」

「え、俺以外にも…ですか?」

「うむ。お前さんとお前さんの唯一の友達と、さっき話した女の子じゃ」

「え?あの2人も!?」

「悩める人間だけが前へ進める。それが善い悩みなら能力を与えて己の枠を超えて課題を乗り越える手助けをしたいんじゃ」

「ちょっと待ってください…能力?なに言ってるんですかボケちゃったんですかおじいちゃん」

「失礼な!わしは本当の事を言ってるんだぞ」

「無いです。やっぱりオカシイんで先生に通報します」

 次こそ教室を出ようとした瞬間

「止むを得ん。空間転移ファンクションを頼む」

 そう誰かに告げると

「ぶおっ!…痛ったぁ!なんでぇ!」

 教室のドアは開いているはずなのに出れなくなっていた。もちろん出れると思っていた俺は透明な壁に衝突していた。早く先生のところへ行くために勢いよく進んでいたせいで、強く全身を打ってダメージを負ってしまった。

「あぁ!すまない。もう本物を見せた方が早いと思ってな。大丈夫かい?」

 そう言いながら駆け寄ったおじいちゃんは俺の体を起こした。ぶつけた額をさすっていた俺は顔を上げ、痛みで閉じていた目を開けた。

「あれ?ここどこ!?」

 ぶつけた痛みを一瞬で忘れるほど仰天した。なぜなら、さっきまでいた教室では無い景色が目の前にあったのだから

「驚いたかい。これがわしの持ってる技術だ」

「え、ええ。これは驚きましたよマジで…」

 大きい鉄板のような壁と床に囲まれた正方形の何も無い部屋で座り込んで唖然とする俺と、したり顔をするおじいちゃん。少し悔しい気もするが、それよりワクワクする気持ちの方が大きかった。

「他のメンバーは書類整理や掃除と新しい仲間を迎える準備やキャンペーンで慌ただしいが…」

 部屋の自動ドアが開き、おじいちゃんは俺に手を差し伸べて言った

「悩める少年よ。我が旅団の基地へようこそ」





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