第2話 掃除と書類とキャンペーン
ふと思ったことを口に出したのは授業中のことだった。ロン毛のおじさん先生がチラッとこちらを見て通り過ぎて行く。この先生は注意などはしない放任主義のタイプだから、つい気が抜けて授業とは関係ないことを考えてしまう。まあ、いつも授業はボーッとしてるけど。時間が過ぎるのを待つ時って何故か思想的なことが頭にスラスラと書き出されるんだよな。
妄想が捗るというか…考えが広がるというか…。とにかく、人にわざわざ伝えないようなことを考えがちだ。ただの時間つぶし。でも、本音であることにも違いない。自意識を置いてきた先の隠れた本音。
あ、また頭の中で自分語り始めちゃってたよ。でも、旅に出たい気持ちは結構あるな。旅っていうのは大げさか。旅行に行きたいな…国内の綺麗な景色が見えるとこで元気をチャージしたい。なんだか考えてる事が仕事に疲れた会社員みたいになってる。
そんなことを考えてるうちに時間が経ち昼休みになった。筆箱の中に、出していた文房具をしまっていると弁当を手に持った誰かが来た。目線を上げて見るとそこには最近一緒に昼飯を共にしている見慣れた顔の友人がいた。
「1人で食べるの可哀想だから一緒に食べてあげるよ」
そう言って自分の席から持ってきた椅子を机を挟んだ向かい側に置き着席した。
「よく言うよ。俺以外に行動を共にする人まだ出来ないてないくせに」
「僕は時間かけて友達増やしていくタイプなんだよ。学校に通ってれば交流の場が設けられて自然と仲良くなっていくし。入学してまだ1ヶ月なんだから焦ることないって。それに弁当を一緒に食べるまでは行かなくても話は普通にするよ」
「いいんだぞ。気を使って俺と無理に関わらなくても。そうすれば、すぐ誘われるぞ弁当でも何でも」
「気を使うような仲じゃないだろ。まだ知り合って1ヶ月だけどね」
そう言いながら彼は微笑んでみせた。
俺、寸間
時は遡って登校初日。誰にでもフランクに接してきた俺は、教室に入るや否や目の合った人にすぐさま話しかけに行った。それを全員にしたのだ。中学校が同じだった人同士で固まって話してるやつにも1人でいるやつにも、とりあえずは声をかけてまわった。俺は、見知った顔の人間が同じ学校にいなかったからみんなと友達になろうと思ったんだ。
その結果…引かれてしまった。いきなり意気揚々と声をかけられたのに不信感を覚えて何となくクラスの雰囲気が俺を避ける方向へと流れてしまったのだ。たしかに学校は自然と友達が出来る場ではあるが同時に協調性がおかしな方向へ行き自然と友達がいなくなる場でもある。だからこんな小さい枠の中にいるのは嫌なんだ。と、さっきの授業中も不貞腐れていたのだ。
でも、目の前で軽快に箸を動かし弁当を食べている彼、練拉化
だが孤立してしまったのは自業自得でもあると思っている。間違った行為をしたとは思ってないが、だからといって彼を巻き込んだままにしておくのも悪いと思ってしまう。良い人間は報われるべきだ。
盗み聞きをするつもりは無かったが彼は、俺の事を悪く言っていた人間に関わらない方が良いと、お前にも友達が出来ないと忠告されたにも関わらず拒否している場面に遭遇した。これで確信した。1人になっている人間を放っておかない優しさの塊だと。
しかし、その優しさに頼ってしまうのは甘えだ。
他のクラスメイトだって小さい枠の中で集団心理に甘えて流されている。それを否定している俺は決して甘えてはいけない。そう思っていた。
「おーい。聞いてるか?」
目の前で小さく手を振られ思考状態から帰ってきた。
「悪い。ボーッとしてた」
「部活は決めたかって話だよ!」
「適当な部に入ってバイトしようと思ってる」
「やっぱりそうするんだ。明日が入部届の締め切りだから忘れずにね!」
「そっか。そーいえばそうだった。そっちは写真部に決めたのか?」
「うん。一生懸命頑張んなくても良い緩い部活みたいだし。頑張るのは散々だから」
「相変わらず自分の事は面倒くさがりだな」
「放っとけー」
そう笑顔で言いながらも少し複雑そうな気持ちが感じが取れた。
放課後になりクラスメイトたちは教室を後にしていて誰もいない状態だった。一度、帰路に着いたが忘れ物をして戻ってきた俺は、ソフトボールのグローブを手に持って入ってきた1人の少女に話しかけられていた。
「あれ?あなたも忘れ物とりに来たの?」
「えっ、あっ、お、おう。弁当箱忘れちゃってな」
「あー、明日弁当なしになっちゃうもんね」
いや、まさか話しかけてくるとは思ってなかったから驚いたぞ。めちゃめちゃ挙動不審になっちゃったよ恥ずかしい。
予期せぬ行動を起こしたこの張本人は、美形な顔立ちと整ったスタイルから入学早々に注目を浴びる程の存在感がある話題の人物。名前は宮
「もしかして話しかけられて驚いてるの?」
「そりゃそうだよ!もしかしなくても!普段は避けてるのにどういう風の吹き回しだ?」
「別に避けてるわけじゃないわ。初日にあなたが話しかけてきた時だって普通に会話したじゃない」
確かに彼女は俺の質問に対して返答してくれた。内容はグローブをバックから取り出していた彼女にソフトボール部に入るのかという会話だった。この学校のソフトボール部は、なかなかの強豪らしくスカウトされたと言っていた。
「あの時は、ちゃんと会話したがその後は見向きもしてないじゃないか」
「いいえ、見てはいたわ。あなたともう1人の彼が仲良くしてるところを。ただ関わろうとはしなかっただけ」
「どっちも変わらないんじゃないのか?」
「変わるわよ。認知しながら気の毒だと思って見てる。あなたのやり方は決して間違ってはいないと思うけど、そうゆう流れになってしまったんだから逆らえない。私だってみんなと同じように平穏で気楽な学校生活を送りたい。あなたたちとクラスメイトの橋渡しをするような茨の道をわざわざ行こうとは、悪いけど思えないわ」
「いいさ、別に救いを求めてるわけじゃない。あんたみたいな人気者は中心人物として上位に君臨してれば。でも、最後まで見て見ぬ振りをする気なんだったら声はかけないし気にもかけないと思うけどな」
俺自身なんでこんな事を彼女に言っているか分からないけど、なんだか苦しそうに見えたのだ。俺と話す顔と声がいつもの余裕そうな振る舞いとは違って見えたから。
「私、結構冷めてるのよ。みんなの前じゃ明るく振舞ってるけど」
「あんたの本音だとは思わないね。意外と鋭いんだぜ。伝えることは不器用だけど」
俺は楽しく自由にやれれば何でもいいと思ってるからこそ不自由に暮らしている人の違和感が感じ取れる。
「悪いけど、もう練習に行かないといけないから。君たちがクラスに馴染めること陰ながら応援してるわ」
そう言いながら涼しい顔をして教室を出て行った。
「はぁ〜。緊張したなぁ。てか、まともに話すの初めてなのにキツイこと言っちゃったな…。」
「わしもそう思うぞ。しばらく観察してたがお前さん日に日に捻くれてきてるのぉ」
「な、なになにだれだれだれだれぇ」
教室の後ろにあるロッカーから、のそっと出てきたおじいちゃんに一瞬唖然し、そのあと黒板に飛びつく勢いで逃げた。恥ずかしながらリアクションとしては完璧だったと思う。
「そんな身の狭さを感じてる若い人材を探してたんじゃ」
「良いリアクションする奴をスカウトしてるってこと?」
「違うわ」
驚きのあまり教室の隅で縮こまっていた俺におじいちゃんはこう言う。
「その燻ってる枠をぶち破りたい気持ち。力に変えてみないか?」
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