第2話 誤解だらけでカラオケに

 カラオケの部屋に入り、ドリンクを注文してから



「話を聞きましょう」



 と鴨巣かもす君に言ったら、私が帽子をかぶせたままの格好かっこう行儀ぎょぎよく椅子いすに座り、低いテンションで返事をした。



「言い訳はありません。

 初めて会ったその日に、ちょっと早いバレンタインチョコをもらった時点で、何か変だと気付くべきでした」



なんて、なんて返せば良いの?!

私は誰かの相談にのるとか苦手なのよ!!



「……そうなんだ。

チョコもらったら嬉しいよね」



 鴨巣君はさわやか王子様ふうだけど、ハニートラップには引っ掛かりそうにないのにだまされたぐらいだから、そうとう演技力の高い子なのだろうなと思った。



「そうなんです……"偶然チョコもってた"と言われ、何か運命を感じてしまいました……」



切なそうにそう言うと突然、鴨巣君はぎゅっとこぶしにぎりしめていきおいよく言いはなった。



 「寿比ことい先輩! おろかな僕を存分ぞんぶんしかって下さい!!」



 突然のマゾ発言!



「鴨巣君は変態なの?!」



 しまった! 思わず聞き返してしまった!!

 と思ったら鴨巣君は青い顔をしていた。



「寿比先輩は、僕にお説教するためにここに連れてきたのではないですか?!」


「え?!何で私がお説教するの?!」


「寿比先輩の行く先をふさいで、邪魔をしたからです。

 "私が歩くのを邪魔したばかりか、醜態しゅうたいをさらすなんて会社のはじさらし"と僕にお説教をするつもりで、カラオケに連れてきたのでしょう?」



 泣きそうになる鴨巣君。

誤解ごかいにもほどがある。

 いったい鴨巣君の中で私はどうなっているのか?

 私は慌てて、うったえた。



「違うわよ!

 鴨巣君が何故かついてくるから、話を聞いてほしいのだと思ったのよ」


「えぇ..!

 あの時の話の流れと、先輩の背中が

 "ついてこい!"と言ってるように見えたから自然な流れで着いてきました..」


「どこの格闘漫画のキャラよ!」


「だって『邪魔!』と言いはなったあの迫力はくりょくは、その場にいた全員の時を止めましたよ?!」



 青ざめながらも必死にうったえてくる鴨巣君。

 私はもうなげかずにはいられない。



「勇気を出して言ったのよ~!!

 "部外者が口を出すなと言われたらどうしよう"って思ってたのよ!!」



 私はえきれず両手で顔をおおい、うつむいた。



 なんという誤解!

 私は鴨巣君の中で鬼のような先輩らしい。

 となると、会社の人達にも誤解されてる予感がする。


 明日会社で普通でいられるだろうか?

 誤解されてるか気になって、仕事が手につかなさそう……



鴨巣君はうなだれた。



「はぁ……僕はカッコ悪いですね。

運命だと思った相手に振られる所を見られ、寿比先輩の事を変に誤解して……恥ずかしいです……恥ずかしすぎる」



え? そこで鴨巣君が落ち込むの?!

鴨巣君が泣きそうになってふさぎこむので、思わずさけんでしまった。




「カッコ悪くはないでござる!!」


「.......え?...ござ..る?」



驚きを隠せない鴨巣君。私は構わず続けた。



「よいでござるか?

失恋はたんなる人生経験であって、恥ずかしい事ではないでござる!

ただ"合わなかった"それだけでござる。

拙者せっしゃの事を誤解してしまったのも、拙者の口数が少ないのでしょうがないのでござる。

誰にだって、ずかしいことの1つや2つあるでござる。

拙者は本音を話すとき、ござる口調になるので、普段はそれを必死にかくしているでござる。

お互いに恥ずかしい事をさらしたので、鴨巣殿と拙者はこれで対等でござる 」



ぐぬぬ……強烈過ぎたかしら? 引かれるかしら?

でも、高校生の時オタク仲間とふざけてたら、興奮したら"ござる口調"っていうのが予想外に馴染なじんでしまって、これは本当の話なのよ――――!!!!



心の中でなげく私。


 鴨巣君はしばらくほうけた後、突然ニコっと笑って言った。



「僕、スーツ着て女性もののチューリップがた帽子ぼうしかぶってたんですね。

ははは。変なかっこう。

先輩は変なしゃべり方。僕と先輩は対等なんですね」



強がって笑っているようにも、

ふとわれに返ったようにも見える。



「 先輩!

ござる口調……僕を気遣ってくれて、ありがとうございます」


「ドウイタシマシテ」



 恥ずかしながらもいちおう返事した。



「寿比先輩。ちょっと言いにくいのですが..

 僕、彼女と同棲してたので……今日帰る所が無いんです。

 先輩……泊めていただけませんか?」


「え……いいですけど、廊下で寝て下さいね」






これが私と彼のつき合い始めるきっかけ。

出合いって本当に不思議。

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部下を拾った月曜日 葉桜 笛 @hazakura-fue

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