2話

先程、主任から配られた振り分け表を見ると、僕は、三班だった。

四班と合流しながら、拝殿へと向かう。


「あれ、はるかさんも拝殿?」


僕に話しかけてくれたのは、先輩の神使しんしである、すえさんです。


「はい…。でもまだ不慣れで…」

「だよねぇ。でも、おいらも最初の頃はそうだったよ。」

「はぁ…」


プロローグでもお話しましたが、少し、僕達…いや、神使しんしのお話をしましょう。

ほんの少し昔…と言っても、昭和半ばくらいの話です。

当時、家電という、革命的な製品が人々の生活で発展し、普及していきました。

その頃から、人々は、神様がもたらす奇跡よりも、科学がもたらす奇跡に、どんどん魅入っていくようになりました。

このままではマズいと、さすがに危機感を覚えた、神様の中でも特に偉い神様方が、対策を講じました。

そして、神使しんしという正規の機関が出来上がりました。


あ、神使しんし自体は、大昔から、ちゃんとあったんですよ。

有名どころで言うと…、京都の方だと狐さん、奈良の方だと鹿さんとか…。

だけど、当時の神使しんし達は、正規ではなく、今僕らが行ってる仕事を彼らのみで行ってたりといろいろやっていたんです。


狛犬さん二匹も、僕らが配属されるまでは、神社内にある池の鯉さんと、たまに来ていた野良猫さんと、リスさん達が、神使しんしとして、仕事をこなしてたみたいです。


具体的に、神使しんしは、どんなお仕事をするのかと言いますと、


皆さんは、神社に入る時、鳥居からくぐって入りますよね。

たまに鳥居の端から入る人もいらっしゃいますけど、とにかく、鳥居からくぐって入りますよね。

…実は、この時、鳥居の天井に存在する、普通の人には見えないセンサーが作動するんです。

そのセンサーは、入ってきた人を、どこの誰で、今まで何をして…という個人情報はもちろん、それまでの人生等を事細かく記された、プロフィールを特定します。


特定をするのは、なんと、皆さんご存知、狛犬さん2匹です。

普段、狛犬さんは警備をやるんですけど、最近はプロフィール特定を主としています。

なぜなら、人の姿に化けてやってくる魔の者たちが、増えてきたからです。

それらを特定して本殿に近づかせないようにするのも、狛犬さんは、プロフィール特定をやっています。


ちなみに、プロフィールというのは、皆さんが、この世に生まれた時から既に記録されているものなので、嘘偽りない経歴になります。

だから、このプロフィールが存在しない者、詐称の疑いがある者は、魔の者ということになります。

その後、特定した情報は、速やかに、特定に関わらなかった僕たちに送られます。


鳥居を超えて、次にやるのは、手水舎てみずやで手や口を清めますよね。

最近は、手だけをすすぐ人が多いようですけど、できれば、口もしていただいた方がいいです。


実はこの時、手や口には、本殿に入りたい一心で取り付いた魔の者かいるんです。

まぁ、入ろうとしても、狛犬さんや僕らが防ぐので大事には至りませんけど。


手や口を清めた後は、拝殿に向かってお祈りをすることでしょう。

二礼二拍手一礼を、行うところです。

拝殿で、皆さんお祈りをしますでしょう?


実は皆さんがお祈りをしてる時…

申し訳ありません。

大変、不躾なのですが、僕たち神使しんしは、心の中を覗いて、挨拶の人を含め、拝殿に来た全ての人のお祈りを、くまなく聞いてメモをしてます。

後にメモを取った内容を、願い書という、報告書を、本殿にいる神様に提出して、夜の2時…丑三つ時に会議をして、成就させるか否か、保留か別の部所に転送するかを決める。

『そんな事で決められては困る。』

そう仰る方も多いでしょう。

でも、これが僕たち神使しんしのお仕事なんです。


はるかさん。拝殿の勤務は、初心者だったら誰でも通る道だ。

販売店の店員が、レジ打ちするのと同じ。要は慣れなんだよ。

参拝者の身分の照らし忘れ・聞き逃し・書き逃し。こいつを忘れなきゃ大丈夫だ。

それに、ミスしたらすぐに主任に言えば対応してもらえる。

だから、肩の力抜いて、気楽に行けばいい。」


すえさんは、僕の肩を優しく叩いてくれた。


「はい!頑張ります!!」


僕は気合いを入れ直し、少しだけ堂々としながら、拝殿に向かった。

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本日付けで、僕は神使になります。 月香玖耶 @holle0810

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