坂と犬と桜の木
去年の夏のことだ。財布の中に小銭しか残っていなかった私は、帰りに近鉄バスを乗るのを諦めて、石切駅から定期券を持っている近鉄電車に乗ることにした。普段、定期券がないのにバスに乗っていたのは、石切駅に行くにはひどく急な坂を二十分くらい登るのに対し、バスなら逆方向に坂を下って五分ほどでバス停につくからだ。まあ、死ぬわけじゃないし、と思って登り始めたが、それは大きな間違いだった。私は日当たりが良すぎる坂を、汗を流しながら無心に歩くことになった。 このまま登り切れば悟りを開けるんじゃないと思ったとき、視線を感じた。顔を上げるとまだまだ坂の終わりが遠いことに眩暈を覚えた。坂道の両脇には桜の木が等間隔で植えてあり、春はとても綺麗なのだが、こうも距離感がわかりやすいと後の疲労感が予想できてつらい。その桜の木の後ろに、黒い犬が座っていた。大型犬だ。犬種は知らないが、耳がとんがっていた。じっと座って、涼しげな顔で私を見据えている。不気味に思いながらも、目をそらして両足を交互に前に運ぶ作業に戻った。
しばらく登って、ほっと息をついて顔を上げると斜め前の桜の下にまた同じ犬がいてこちらを見ている。ついて来ているのか、と背筋が寒くなった。しかし、おかしい。こんなに大きな犬に追い越されて気づかないものだろうか。私はさっきまでと違う汗がにじみ出てくるのを感じた。その時視界が揺れ、私は膝をつく。世界が回っているような感覚がする。犬がまっすぐ近づいてくるのはわかった。来るなと叫びたいが声が出ない。犬の鼻息がかかったその時、クラクションが聞こえた。「大丈夫ですか」と遠くから聞こえ、私は気を失った。冗談ではなく死ぬところだったらしい。地元の人が車で通りかかって道の真ん中で倒れている私を助けてくれたのだ。だが、そこには黒い犬はいなかったそうだ。私は熱中症と診断されたが、果たして本当にそうだったのか、少し疑っている。
【反省】これも特に修正はしていない。ただあの坂はやばいっていうのを、怪奇現象を含め紹介したかった。黒い犬のところをその地に関わる何かにすればよかったんだろうけど……それが思いつかないところが敗因かな。
東大阪市てのひら怪談投稿作品(改善済み 反省文付き) 久世 空気 @kuze-kuuki
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