繋がらなければよかった

夏木

地獄の出会い

『連日お伝えしております、連続殺人事件についてです。警察は――』


 テレビのニュース番組では、毎日同じニュースを伝えていた。

 テレビだけではなく、ラジオ、新聞、インターネット……あらゆるメディアが同じニュースを話題にしている。

『連続バラバラ殺人事件』と呼ばれるこの事件は終わりが見えない。


 この事件の被害者は、頭だったり、手だったりと、体の一部分がないのが特徴である。

 また、事件が起きた現場はどこも近く、密集しているのも特徴だ。

 なのに警察は犯人を捕まえることが出来ずにいた。

 なぜなら――。


「また出たのかよ。り方パクってんじゃねえよなぁ」


 事件を起こしたのは俺である。

 地下室に作った俺専用の展示室。ホルマリンに漬け、ガラスに閉じ込めたいくつもの『手』。

 男女問わず、気になる手は欲しくなる。

 人殺しをしたい訳じゃない。手がほしいだけ。

 だから殺さずに手だけを盗んできた。


 なのになんだ?

 ニュースでは、手がなくて、頭もない死体が見つかったとか。

 最初は手と頭がない死体。

 その次は手と頭と足。

 次々に体の一部パーツがなくなってんじゃねえか。



 ――ブブッ。


 スマホが振動した。

 何かのアプリの通知だろう。


『いやー怖いですねー。また事件だとか。白玉さんの住んでいるところは大丈夫ですかー?』


「白玉さん」というのは俺のことだ。

 匿名のSNSではこの名前で通している。

 俺と同じように、特殊な性癖を持った仲間がほしくて始めたものだ。

 初めてからすぐに仲間を見つけた。

 表じゃ決して口に出せないことを、匿名をいいことに言いあい、仲良くなってから何年も経っている。


『こっちは大丈夫ですヨー☆ 皆さんはどうですカー?』


 俺を含めてたった三人のグループ。

 数少ない仲間の安否が気になる。


『ポポポは生存していますよー』

『カマキリもです』


 よかった。ポポポさんもカマキリさんも、いつも通り元気だ。


『いやー本当に怖い。僕たちみたいな特殊な性癖を持っている人は、静かにしているのに、こんな事件があると立場が悪いですね』

『早く犯人、捕まってほしいですヨー』

『本当ですねー』


 自分たちが特殊な性癖であることはわかっている。

 俺は手を、ポポポさんは足。カマキリさんは頭だったかな。

 ん、待てよ……? これは……?


『あ、聞いて下さいよー。この前〇〇駅で、素敵な方を見かけましてー……もう一目ぼれです』

『その駅、カマキリも使ってます。どんな方ですか?』


 ポポポさんが一目ぼれか。確かに気になるな。


『それがそれが~! すらっーっとしてて、シュッと引き締まって、それでもってほどよい形で!』

『いいですね。カマキリもその駅で素敵な方を見ました』

『お、気になりますねー』

『なんというか、こう……撫で心地のいい形でした』

『〇〇駅、やっぱりいいですねー』


 ふむ。この駅はここから近い。

 俺も仕事に行くのによく使うし、さほど混み合うような駅でもないから人の観察にはもってこいの場所だ。


『白玉さんはいい人いました?』


 おっと、突然振られたな。

 返さないと。


『いますヨー☆しかも〇〇駅! よく見かけてて、見るたびいいなーっテ』

『おお! みんな同じ駅とは! なんたる奇遇! これも運命ですかね?』

『急にポポポさんがスピリチュアルに』

『いやいや、これを運命と言わずに何と言うんですか! そうだ、皆さんでオフ会しましょうよ! 〇〇駅集合で!』


 オフ会か……。

 この二人と仲良くなって、顔を会わせたことはない。

 SNS上の人と会ったことは一度もないしな。

 俺ももういい歳だ。成人してるし、何があっても自己責任。

 まあ、犯罪に巻き込まれるなんてことはないだろう。

 せっかく仲良くなったんだから、行こうか。


『いいですネー! 参加しまス』

『カマキリも行きます』

『決まりですね! じゃあいつにしましょうか――……』


 三人の意見が一致した。

 これで初めて仲間と会う。性別も年齢も知らないが、同じような性癖の仲間。

 会って何を話そうか。

 最近〇〇駅で見つけたあの気になる人がいいだろうか。

 好みについて語ろうか。

 とりあえず会えば話が尽きることはないだろう。

 都合のいい日を決め、その日は終わった。

 この約束はしなければよかったと、当日に思った。



 ☆



 ついにオフ会の日がやって来た。

 〇〇駅で、見かけた気になるあの人は最近も見かけている。

 運がよければ、今日も会えるだろう。

 この人の良さを語りたい。

 足早に駅に向かった。


 ポポポさんの目印は赤いキャップ……あ、あの人か?

 ん? あれは俺が気になっていた人じゃないか!

 間違いない。

 あのゴツゴツした手! 力強さを感じるその手を見間違えるはずがない!

 まさかポポポさんだったとは……。


「あの、ポポポさん……?」

「そうです! ポポポです! もしかして白玉さんですか?」

「はい」


 ポポポさんはSNS上と同じように明るかった。

 今まで手しか見てなかったから、顔を初めて見る。

 歳は……二十代後半ぐらいか?

 爽やかなイメージを与える彼が、異常な性癖を持っているとは到底思えない。

 普通にかっこいい人達の中に入るだろう。


「あとはカマキリさんですね。赤い服で来ると言ってましたが……」


 そう言って辺りを見るポポポさん。

 正直俺は、カマキリさんよりポポポさんが気になって仕方ない。


「ちょっと連絡とってみますね」


 ポポポさんは取り出したスマートフォンを操作する。

 SNSから連絡を取るのだろう。

 あんなにゴツゴツした手なのに、なめらかに指が動いている。


「あっ……! あ、あれですね!」


 そう指さした先に、真っ赤なワンピース姿の女性がいた。

 頭を下げながら近づいてくる。


「すみません、遅くなってしまって。カマキリです」

「いえいえ、大丈夫ですよ! こちらが白玉さん。自分はポポポです」

「よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ」


 カマキリさんは内気なイメージだ。

 爽やかで眩しいポポポさんに目を向けられないのか、チラチラ俺と目があった。


「ここは人も多いですし、静かなところにでも行きませんが?」

「そうですね」

「そうしましょう」


 ポポポさんが先導し、どんどん人が少ない場所へ。

 そりゃ大勢人がいる中で、俺たちの性癖を語っていたらまずいしな。

 誰にも聞かれない、そんな場所がいいが……。


 駅から歩いて二十分は過ぎた。

 たどり着いたのは人がいない川。

 住宅街から離れていて、車も通らないし、歩行者はいない。

 真夏だったら困ったが、幸いにも気温がほどよい。

 外で会話し続けても、寒くも暑くもないそんな季節でよかった。


「あのっ……実は……」


 歩いている途中、カマキリさんは頷くだけだった。

 だが、ここに着いて初めて自分から話し始めたので耳をかたむける。


「私の気になってた人……白玉さんなんです」

「ええっ!?」


 カマキリさんは頭が好き……俺の頭、そんなよかったか?


「自分もいいですか? 悪くても言っちゃいますけど。自分の気になってた人は、カマキリさんです!」

「ほえっ!?」


 ポポポさんの言葉に、今度はカマキリさんが驚いた。


「みんな内輪で気になってたんですか……」

「ということは、白玉さんも?」

「はい、俺はポポポさんを……」


 仲間同士で気になってたとは、ポポポさんが言うとおり運命的としか言えないな。


「ねぇ、白玉さん。白玉さんの頭を下さいな」


 カマキリさんは鞄からノコギリを取り出した。


「じゃあ自分はカマキリさんの足をいただこうかな」


 ポポポさんもリュックから大きいノコギリを。


「俺もその手がほしいなぁ、ねえポポポさん」


 俺もいつも持っている小さめのノコギリを。

 手だから小さくていいんだよ。

 全員が手に持った刃で目標物を手に入れようと向かった。



 ☆



『連続殺人事件の容疑者とみられていた男女三人が、〇〇駅の近くを流れる河原で死亡しているのが発見されました。この事件は容疑者死亡で幕引きとなりました――……』

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繋がらなければよかった 夏木 @0_AR

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