最終話

 そこに書かれていたのは、父・光一からの息子への手紙だった。


 *


 これを読んでいるということは、念写術師やカメラの秘密を知ったということだな。

 マコト。お前には隠していたことがある。


 お前は、6歳の頃に死んだ。

 昔一軒家に住んでいた時、階段から落ちてしまった。

 救急車を呼ばないと。でも助からないかもしれない。

 そんなことを考えて、念写術師だった俺は思いついてしまった。


 念写を使えば、生き返るんじゃないか、って。


 念写はイメージだ。息子のことなら、俺が1番良く分かってる。出来るはずだって。

 だから術師協会に保管されてあったカメラを盗んだ。

 そして出来てしまった。だが俺は気付いた。これは過ちだったんだ。

 そもそも念写で生き物を出すのは禁忌だった。

 禁忌を犯し、盗みまでした俺は、「逃げなきゃ」と思った。


 今これを読んでいるお前からすれば、身勝手なことだろう。

 生き返らせたのも、何度も引っ越したのも、全部俺の都合だ。

 何より、俺は負い目からお前のことを見れなくなってしまった。

 念写で生き返らせたとき、自分に都合のいい正確にしてしまったんじゃないかって。そう考えると罪悪感で胸が苦しくなった。


 今はもう、ただマコトがこのまま生きていけるだけで十分だ。


 自分勝手な親で悪かった。

 でも最後に、勝手なことを言わせてほしい。

 俺は出来なかったことを、お前にやってほしい。


 写真になれ。


 *


「そういうことだったのか……」

 手紙を読み終えたマコトは、天井を見上げた。

「なあ、三船はこの事知ってたんだよな」

「……うん、一応。概要だけで、まさかクラスメイトがそうだとは知らなかったけど」

「そうか。そら写らねえよな。本当は死んでんだ」

「その……あんまり気を落とさないで?」

「いや、むしろスッキリした」

「え?」

 想定外の返答に、千鶴は思わず拍子抜けしてしまう。

「このカメラを使ってからずっと考えごとばっかしてたけどさ。この手紙でようやく全部解決したからな」

「そ、そう……」


「そういえば、手紙の最後に書いてある『写真になれ』ってどういう意味なの?」

「ああ、親父が昔言ってた言葉で、『正直に生きる』って事だ」

 マコトはその言葉を聞いたときの事を思い出した。いまならあの表情が理解できる気がする。

「……それじゃあ、正直に言わせてもらうかな。三船」

「……もしかして、決まったの」

「ああ」

 この手紙を読んで、決心がついた。


「残念だがやっぱりカメラは渡せない」

「……そう言うと思ったわ」

「ただ、絶対に使いはしない。親父の形見として側に置くだけだ。これでもいいか?」

 千鶴はしばし口を閉ざした。少しの逡巡のあと、決断した。

「それでいいわ。協会に連絡はしてないし。『カメラは結局見つからなかった』で終わり。使われないなら同じよ」

 ふふ、と口角を上げる千鶴。

 それを見てマコトも気持ちが緩んでしまう。つられて微笑みを返した。


 *


 親父は出来なかったと言ってたけれど、本当は違うはずだ。

 自分の心に正直になったから、俺を生き返らせた。


 俺の元になってる写真の場所は分からないから不安はあるが……生きていくだけだ、写真のように。

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