第7話
警察の事情聴取から解放され三人で川べりを歩いていた。
「ここ、覚えてない?義君」
都の言葉に早川は都と唯の顔をじっと見る。
「もしかして、み~ちゃんと、ゆーちゃん?」
「本当に?義君?」
早川の言葉に唯も思い出したみたいだ。
「あの頃は、いっつも三人一緒に色んなところ駆けずり回ってたね。心配そうに義君と唯のおばあちゃんとおじいちゃんが様子見に来たりしてね」
「なつかしいね」
「あれから私達、成長したのかな」
「どうだろう」
都、唯、早川がゆっくりと川を見つめる。
「うわー」
その時、唯が足を滑らせなんとか都が手を伸ばし受け止める態勢を立て直したところで、今度は都が足を滑らし早川が手を伸ばすも早川の大きな体は都の身体では受け止められず二人で川べりを転げ落ちる。慌てて唯が追っかけ先回りし二人を止める。
気を失ってしまった二人を心配そうに見つめる唯だったが一分もしないうちに二人の意識が戻る。
目を開けた都は唯に抱き着く。
「あー、唯、生きてる。良かった」
「記憶が飛んじゃった?って、言うか都?身体戻ってるよ」
そう唯に抱き着いたのは心も都だが体も正真正銘、都だった。
唯に鏡を借りて確かめる。
「本当だ。いつもの地味顔の私だ。そういえば義君に外に出るときは化粧してって言いたかったんだよね」
「もう良いだろう、戻れたんだからさ」
「それより今回の騒動は何だったんだろね?」
《わし達がしたんじゃ》
聞き覚えのある声に三人が振り返るとそこには早川のお祖母ちゃん、唯のお爺ちゃん、そして見た事のないお爺ちゃんの、三人がいた。三人とも宙に浮いている。
「へっ、ええと幽霊?」
《そうとも言うが自分達で言うのも変じゃが守護霊じゃ》
「守護霊様が何でこんなことを?」
唯のお爺ちゃんが言う。
《唯が不憫で》
早川のおばあちゃんも言う。
《美夜が不憫で》
知らないお爺ちゃんが言う。
《ワシはお前の祖父じゃと言ってもお前は覚えておらんよの、お前の実の母の父じゃからあの男、信代が死んですぐ再婚してしまって、わしゃ心配での。死んでからはお前の守護霊をしておる。わしが守護霊になる前は随分、辛い思いをさせてしまっているようだったね》
そういえばある時を境に大きな災いには、巻き込まれにくくなったことを思い出した都である。
「おじいちゃんなの、じゃー、今回は何で?」
《もっとお前に人の痛みを知ってほしかった。唯ちゃんの事、大好きじゃろ? 唯ちゃんが辛いままではいかんと思ってな。ワシは二人を止めなかったよ》
「美夜が不憫て、どういうことだ」
早川も負けじと、おばあちゃんに詰め寄る。
《美夜、いや義和、思い出しなさい。あなたはみーちゃんとゆーちゃんに会うちょっと前まではオシャレが大好きだったね。クマのぬいぐるみもとっても大事にしていた。だけどある日、親子三人で車の中で義和の事で口論になり事故にあい、二人を亡くし、義和はその時留守番していたワシと二人きりになった。その時から義和はしゃべり方、仕草、すべてが男の子になった。そう義和が美夜を、作ったんじゃない。自分のせいで死んでしまった両親の為に、美夜が義和を作ったんじゃ。美夜、お前の事を分かってくれる子がこれからは居る。もちろん義和もいる。出ておいで》
「俺が俺じゃない、何言ってんだ。嫌だ嫌だそんなの知らない」
早川は川に飛び込もうとするが都と唯にしがみつか三人で川に落ちる。
川は浅く三人とも無傷だ。
「義君、私は義君が、義君でも美夜ちゃんでもどっちでもいいよ?」
「私もだよ。って、言うか私は唯君と呼ばれたいかな。本当は私って言うの嫌だったんだ。でもまだ俺とか僕って言うのも抵抗あるんだよね」
「唯も唯だよ、何でもいいよ」
「私も出てきても良いのかな」
早川から出た女言葉に都と唯は顔を見合わせ再び早川を見る。
「うん、もちろん。美夜ちゃん」
三人で川から上がり夕日を眺めた。凄く綺麗で心もすっきりしていることが分かった。
「帰ろっか」
都の声替えに二人が頷く。
「そういえば義君はどうしてるの?」
「自分が主人格じゃなかったショックで奥の方で眠ってる。でも私じゃ仕事は難しいから少しずつ入れ替わって二人で一緒に義和になるよ」
「うん、そうだね」
その後、また慌ただしい日々が始まった。
変わった事と言えば、
「都、肩髪の毛ついてるよ」
唯に触れられるとドキドキしてしまうことは唯にはまだ、内緒です。
入れ者と痛み やまくる実 @runnko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます