第6話

 その時、唯からメールが届く。

 メールには、変な手紙が届いたと書いてあった。

 入っていた写真を添付するとあり、その写真には例の病院の中庭で笑っている写真だが唯の顔の部分が黒くマジックで塗りつぶされていた。

 


 唯の事が心配になった都は、早川にメールを送り、暫くまた会社を休み唯のボディガードをしてほしいと頼んだ。早川は快く引き受けてくれた。

 


 


 仕事に復帰し、元のと言っても入れ替わった後のだが生活に戻り、今日、明日は久々の休みだ。


 仕事道具を床に置きベッドにダイブする都。ダイブした時に首にチェーンでかけていたお気に入りのおもちゃの指輪が飛び出した。


 昔、唯にもらった物、お守りだった。


 入れ替わった後も早川がからかって中々返してくれなかったがなんとかひったくりお守り代わりにチェーンにつけて首から下げていた。

 


 これを大事に持っている辺りでどうして私、気づかないかな。

 おもちゃの指輪。

 入れ替わる前はお守りに入れてバックに持ち歩いていて、落ち込んだ時にはめていたんだよな。

 

 はめたら勇気が出る気がしたんだ。

 

 ベッドに腰かけ、指輪をチェーンから外し、無理と分かっていたが指にはめようとしたその時、外で大きな物音がしたのにびっくりし指輪を落としてしまった。

 指輪がベッドの下へと転がって行く。

 

 慌てて都は手を伸ばす。

 指輪はすぐに見つかったがその時、落ちた指輪の向こうに白いシンプルな箱があることに気が付いた。

 

 指輪を再び元通り首元に戻し、もう一度、ベッドの下にもぐり箱を取り出した。

 箱を開けると早川のファンレターと古いアルバムが入っていた。

『これ、義和と私の宝物、都ちゃんなら見ても良いよ』

『美夜ちゃん、ごめん勝手に開けて』


 美夜ちゃんの返事はなく私はアルバムを開く。そこには、幼い少年と年配の女性が写っていた。

 少年はどことなく早川に似ているが都はその少年に見覚えがあった。


「義君」

 アルバムに向かって呟いていた。

 三歳ぐらいの少年は都と唯の幼馴染だと分った。

 年配の女性は三人で遊んでいる公園に義君を迎えに来ていた義君のおばあちゃんだ。

『そう、思い出したね。まあ義和も覚えてないけどね。私は分かったよ。都ちゃんと唯ちゃんと私も遊びたかったもん。義和の意識が強くて無理だったけど』

 

 嫌なことまで思い出した。あの時家にいると義母に見えない所を叩かれるから良く家出をした。

 その時、行っていたのが唯の家と義君の家。義君はおばあちゃんと二人暮らしだった。

 あの時、義君は大きな家に住んでたんだよな。今は、おばあちゃんはもういないのかな?

 

 私はおばあちゃんがいないようなものだったというか、あった事がなかったから義君のおばあちゃん優しくて好きだったな。

 

 そうそう唯の家にはあの時お爺ちゃんが居たな。おばあちゃんは早くに亡くなったって言っていた。唯のお爺ちゃん優しくて面白かったな。


 唯のお爺ちゃんが亡くなる時、自分のお爺ちゃんが居なくなるみたいで大泣きしたんだよな。

 なつかしいな。




 その時、早川からメールが届く。

 メール内容は一言。

【しゃべるな】

と書いてあり早川からの着信が鳴りだした。

 

 都は声を潜め電話を取る。

 電話を出ても都の声と言うか、早川の声は聞こえず、狂ったような女の声が聞こえた。

「義和君は私のものよ。誰にも渡さない。あなた達、どうやって義和君をたぶらかしたの?」

 都は早川が助けを求めてきたことが分かった。もしかしたら傍には唯もつかまっているかもしれない。

 都は慌ててGPS機能を使って早川に許可を求めた。

 どうやって相手の女に見つからないように対応したか分からないが応答してくれた。


 これで早川がつかまっている場所が分かる。あの女はあなた達って言っていた。

 唯もつかまってるんだ。

 唯に何かあったらどうしよう。

 GPSをたどりつかまっているであろう場所まで急ぐ。

 

 そしてあることに都は気が付いた。

 GPSをしめしているその場所は例のいつも都と早川が通っている店だった。

 店に入ると客はおらず、入り口の傍で一人マスターが座っていた。


「マスター、久しぶり」

「ああ、義、随分店に来ていないじゃないか。ちょっと痩せたんじゃないか、顔色が悪いぞ」

 そう言いながらマスターは都の正しくは早川の身体の頬に触れた。

 

 都は悪寒が走りマスターから距離を置く。

 

 その時、二階から大きな物音がする。

 再び肩をつかもうとするマスターの手を振り払い、都はカウンターの中に滑り込み、二階の階段を駆け上がる。

 扉を開けると、縛られている二人と十歳ぐらいの女の子がいた。あの狂ったような声はあの子が出したという事か?

 少し頭がおかしくなりそうだったが少女にはカッターナイフが握られており、下手な事は言えない。

「ど、どうしたのかな」

 すごくぎこちない喋り方になってしまった。

 階段を上がってくる足音が後方から聞こえる。

 扉を開けたのはマスターだった。

「義子どうしたんだい、そんなことしたら警察に捕まってしまうよ」

 穏やかに話すマスターの声にこの緊迫した状況が分かっていないのかとマスターの頭を疑いたくなるが、義子ちゃんはカッターナイフを下に落とし泣き出した。

 マスターは優しく頭を撫でてから二人の縛られていた紐を外す。

 子供が縛ったからか縛り方は甘かったようだ。

 だから私に連絡が出来たわけか。


「唯、良かった」

 私は唯に駆け寄り無事を確かめホッとしていた。

 四人で下に降りていき、唯と早川が店を出て都も出ようとした時、マスターに引き寄せられ店の中に逆もどり鍵を閉められてしまった。


 マスターは後ろから、早川の姿をした都を抱きしめる。

「もう俺は我慢しない、義を他の女に渡さない。いつもの遊びと違うのは、義の笑顔で分かった。あんな笑顔見た事ない。義は俺のものだ」

 

 何とか逃げようともがく都だが腕が外れない。

 筋肉の差は変わらないが都は運動神経も鈍くもちろん護身術などならっていなかった。

 そう思っていたら肩からマスターの腕が外れ後ろから大きな音が。

 振り返ると唯がマスターを投げ飛ばした音だった。

 義子ちゃんは早川が捕まえている。

「二階の窓から入ったんだ。動けるようになればこっちのもんだよな。義子が怪我してもいけなかったしな」

 

 早川の説明にやっと助かったと分り足元が崩れる都を唯が支える。

 唯はこんなに力があったんだな百八十㎝の男を軽々と支えている。

 

 外からはパトカーの音もする。

 すぐに警察が侵入しマスターは捕まった。

 義子ちゃんを使ったのもマスターの作戦で私を呼び出したかったのだそうだ。


 捕まる時、早川はつらそうな表情を浮かべていた。

 義子ちゃんは早川の実の子で、今までも別で暮らしていたが、今回、訪ねて店に来ていた所をマスターに利用されたとの事だ。

 義子ちゃんは別れた奥さんの所に、警察が送っていくとの事だった。

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