第5話
あー誰でも良いから助けて!
頭の中で力いっぱい叫ぶ。
『もう、うるさいなー』
不思議なことに聞こえたのは頭の中からだ。
可愛い女の子の声が頭の中いっぱいに広がった。
何? 幽霊?
周りを見渡しても誰もおらず顔を真っ青にする都に再び声が届く。
『誰もいないよ。私はこの中だもん。というかこれ私の身体なのよ。まあ今の状態で出て行ってもらっても困るけど』
『へっ、どういうこと? これは早川の身体でしょ?』都も声に出すと変な人認定されてしまうので心の中で会話をする。
『私の身体でもあるのよ。二重人格って奴。義和は否定しているけどね。私の名前は美夜って言うの。よろしくね。どうせなら私があなたの身体に行きたかったなー』
「声が大きいちょっと黙って」
ガラっと病室の扉が開く。
「どうしました?」
思わず他の人には聞こえてないことを忘れて大きな声で声に出して話してしまった都に看護婦が廊下から声をかける。
「何でもないです、あ、あの電話していて」
「そうですか、病院ですのでお静かにお願いしますね」
にこやかに看護婦は扉を閉めた。遠ざかる足音にほっと息をつく。
『それで美夜ちゃんだっけ、あなたは本当に義和の中にいる人なの? でもどうしてそれなら一緒に入れ替わってないんだろう』
『私もわからないよ。私も、どうせなら女の子の身体に行きたかったもん』
『早川さんはあなたの事、否定してるって言ってたけど』
『いつも通り早川でいいよ。心の声、今まで全部聞こえてたから』
『じゃーずっと一緒に居たの?』
『居たよ』
『じゃーなんで、今?』
『義和は否定的って、言ったでしょ? 私の事もいなくなればいいと思ってる。あなたも似たような考えだったじゃない。最近は考え変わって来てるみたいだし良いかなって、思ってさ。私、ずっと一人だったんだよね、たまに私の意識になったとしても義和に迷惑かけるわけには行かないし、何より私がこの身体で外に出たくないのよ。だから家の中でこっそり化粧したり、木崎さん私達の事知ってるんだ。だから木崎さんにお願いして女物の服や化粧道具届けてもらっていたの。今度退院したら教えてあげる。私、ずっと女の友達欲しかったんだよね』
『そっか、じゃー私、美夜ちゃんの事も知らないうちに傷つけちゃってたかな』
『昔の都ちゃんならそうだったかもね、でも入れ替わってからの都ちゃんは違うみたいだったよ、だから私、ちっとも嫌じゃなかった』
『昔の私を知っているの?』
『あの店、義和もしょっちゅう行っていたし、都ちゃん声大きんだもん。嫌な言葉まで聞こえてきちゃうよ』
『そっか、ごめん』
『もう、いいよ。それよりこれからの事だよね。取りあえずあなたは退院したら取材陣に唯ちゃんの事はただの知り合いだと言いなさい。信じてもらえないだろうし唯ちゃんにも迷惑かけるだろうから距離もおいた方が良いわね』
『分かった』
納得しているつもりだったが心が全然納得できずにいた。
やっと唯といつでも会えるようになったと思っていたのに。
悔しくなったのと同時に唯の笑顔や横顔、うなじ、色々な所を思い出し頬が熱くなった。
思い出すと動機も激しくなる。
どういうことだ。身体が男になったから、心も男になったという事か?
いいや、違う。
唯が他の女性や男性と仲良くしているのを思い出し面白くない気持ちがよみがえる。
これからも唯の隣には私以外の人が居続けるという事か?
そんなの絶対嫌だ!
『やっと自覚したみたいね。どこまで鈍いのかしら』
『美夜ちゃん、どういう事?』
『もう分かるでしょ』
私、唯が好きなんだ。
その言葉が浮かぶと何かがストンと落ちたように、すっきりと色々なことが繋がった気がした。
自覚したと同時に様々な現実を思い出し、絶望した。唯は性同一性障害だと言っていた。心が男だと。
前の姿ならまだ可能性はあるものの、このままでは対象にも入らない。
それに今の現状ではまた逢うこともままならなくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます