GEAR DIGGING AKIHABARA
@htomine
第1話 『地下室-1』
未来、『アキハバラ』と呼ばれるエリアで。
地上からの光が突き刺す深い縦坑の底に、<ジャリ・ジャリ>、単調な足音がひびく。
唐突な光に思わず顔を上げるが、高い天井が急に帰りの辛さを思い起こさせ、嫌なものを見た思いでため息が出てしまう。
「あの、そろそろ引き上げません?こんなとこまで……。」
そう前を行く背中に投げかけるが、どうせ無駄だろうなとも思っている。
「何いってんの、むしろこれからってときに!ようやく『地下室』らしくなってきたところじゃない。」
前を行く人影はバイザーに爛々とした眼だけを浮かび上がらせ、振り向きもせずに話す。
「まだこのあたりまで『掘り』に来たやつはいないはずよ。きっといい『ギア』が眠ってる。私に掘り出されるのをまってるってわけ……。」
無線は荒い吐息だけを拾っているが、それでも声の主がニヤリとした気配が伝わってきた。
「なんにもないから誰も来てないだけですって……。入り口からひたすらこうじゃないですか。だいたいこんな『アキハバラ』の奥深く、『マンガ』も『ゲームソフト』も『掘れ』たって話きいたことないですよ。」
「うるさいわね、あんたが連れてけっていうから連れてきてやったんでしょ。それにそういう話がないからこそ、価値ある『ギア』が眠ってるとは思わないの?」
「そんな屁理屈を……。だってもっと『アキハバラ』のそばなら、『ヨド遺跡』とか『マンダラケタワー』とか、バカでかくて有名な『ポイント』があるじゃないですか。あそこなら誰だって『ギア』のひとつやふたつ、持ち帰れるって聞きましたよ」
前の方から嘲笑うような気配が返ってくる。
「いっまさらそんなとこ、それこそ『掘り』尽くされてるわよ。だいたいそんなとこで取れる『ギア』には興味ないの。『アキハバラ』のこの辺こそ、マニアックなレア物が多いエリアなのよ。昔から私達の間ではこう言うの、『スエヒロで当ててこそ一人前』ってね。あんたらが知らないだけよ。』
<ジャリ・ジャリ>、足音は単調に続く。少し前から、足元は砂利のようなものでいっぱいになっていた。
古臭いが確かな効果がある厳ついブーツは、しっかりと地面をとらえてはいる。
「だからってこんな遠くまで……。ここまで三日かかったんですよ!どんな大遺跡があるのかとおもったら……。」
「派手な外見だけが価値じゃないだろ?そんなことだから『掘り師』なんか目指す羽目になるんだよ。この『地下室』の入口は最近ようやく見つけたんだ。あるって噂だけは聞いてたけどね。」
「ここがそんなにすごいものだって、どこ見ればそう思えるってんですか。ただただ単調な一本道でこんな深さまできちゃって――」
今度ははっきりと、無線から大きなため息が聞こえた。
「ったく、気づいてないの?センスないわねえ、先が思いやられるわ。」
「えっ?」
前の人影は立ち止まらず、手振りだけで足元を指差す。
「足元、すくってみな」
足元…って、砂利がなにか……大きめのはてなを浮かべながら立ち止まり、ブーツにまけないぐらい厳ついグローブで足元の砂利をすくう。先ほどの光の指す場所でオフにしたままだったバイザーの暗視モードをつけると、イメージと違うものが手のひらにのっていた。
「あれっ、これって……ネジ……?」
慌てて床に膝を付き、両手でまわりの砂利だと思っていたものをかき集め手のひらですくった。長さや径は様々だが、たしかに大量のネジだ。まさに砂利のように敷き詰められていて気が付かなかった。一転して周りの景色が異様なものに思え、背筋がスッと冷える感覚を覚える。
「だから『これからだ』って言ったろ。『地下室』には大量のネジが散らばるフロアがある……この先で何かを見たってやつの話を聞いたんだ。」
無線の声は近くに聞こえるが、ふと見ると前の人影はだいぶ先にいた。
急に心細くなり、慌てて前を追いかける。<ジャッ・ジャッ・ジャッ>
「ちょ、ちょっとまって…!おいてかないで……いや、何かってなんなんですか!」
「それは私も知らないさ。けどそいつの話じゃ逃げ帰ってきたそうだから、つまり、『ギア』はまだ残ってるってことよね。」
「に、逃げ……?それってどういう――」
<ジャリッ>。前を行く足音が急に止まった。
「しっ、なにか聞こえる……。」
「ひいっ」
奥の暗闇から、前の人影とは別の、2つの光――明らかに「眼」だ。しかもこれは――
「で、でか…っ!」
ズンッ、という腹に響く振動とともに姿をあらわした「それ」は、とぎれとぎれになにかつぶやいているようだった。
「……ギィ……ギィ…ホ…」
「ちょ、先輩、これッ!」
「しっ!大きな声ださないで。それとそいつはどうでもいい、問題はあっちよ。」
先輩と呼ばれた人影が指差すのは、その「黄色い」巨体のさらに奥、さっきとは別の日差しにかすかに照らされた、明らかに人工的な形状の…
「『ギア』?!」
「そう。あいつ、あれを守ってるのかもね。……なんとかしてあれを持って帰るのよ。」
「でっ、でもでもでも、これって危なくないんですか、攻撃してこないんですか?!」
「わかんないわよ、見たことないし。」
「そんな無責任な!!!」
小声で叫びながら『先輩』を見ると、バイザーの奥で爛々と輝く眼が笑っている。
心底楽しそうなその顔を見て、束の間、引き込まれるような、見惚れるような感覚に陥った――
「行くわよ!!ついてきなさい!」
「はっ…いや、行くって?!ちょ、待ってーーーー」
TO BE CONTINUED...
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