第5話
「89%です」女の声がする。
「……残りの11%は何なんだ?」それに答える男の声も。
「わかりません。何しろ、我々にとっても初めての経験ですので」
男のため息が聞こえる。そしてコンコンと何かを叩く音。
「起きているのか?」
「いえ、まだ眠っています」
「まあ、今までで一番形になっているか」
「はい、これ以上は我々の力では―」
「わかった、もういい起動しろ。もう泊まり込みはうんざりだ」
途端に激痛が私の首のあたり走り、悲鳴をあげよう、としたのだが、喉にゲル状のものがまとわりついて呼吸ができない。
「生命維持スライム排出します」
私をまとっていた何かが流され、私も一緒に地面に投げ出された。
「おえええええええ」
胃の中がひっくり返されるようなおぞましい感覚で私は強制的に目を開けた。
光。
あまりの明るさに目が見えない。
私は恐怖で腕を前にだしながら、「おぶがだがえふぁがらふぇ」と言いいながら、周囲に何があるのか確かめようとした。
「なんだ、覚醒したんじゃないのか? これもダメか?」
「いえ感覚が戻ってないだけかと」
「頼むぞ、まったく。おい、耳は聞こえているのか?」
「おべべべっべべべ」
「なんだこれは?まともじゃないぞ。もう一度分解した方がいいんじゃないか?」
「いえ、もう少し様子を見ましょう」
私は命の危険を感じながら、なぜこいつらは私を助けてくれないんだと、イライラした。
「へっくしゅん」とくしゃみをして、喉の奥にへばりついていた塊がとれると、やっと目が周囲に慣れてきた。
白い無機質な部屋に、写真でしか見たことのないカイザル髭を生やした金髪の男がいた。その横には真っ赤な髪ををきれいに巻き上げた女がいた。
「赤。すっごい赤い」
今時、こんな髪の色をした女性がいるのだろうか、しかし不思議とその下にある顔と合っているように見えた。私は裸だった。緑色のぬるぬるが付いた裸だった。
「え、なんですか、これ」と私は言った。
「おお、会話ができそうだ。おい、耳は聞こえているか?」
「あの」私は股間を隠しながら立ち上がった。
「近づくな。ぬるぬるがつく」
「え」
「それにな、お前が『オーダー』を承諾しないかぎり、我々は触れることが許されないのだ」
「小田?」
「そうだ」
「小田原?」
「ん?」
「小田原ですか、ここ」
「違う、何言っているんだ、こいつは」
「混乱しているんです。大目に見なくては」
男はため息をついた。頬には色濃く疲労のあとが見て取れた。
「いいか読むぞ。汝は」
「えっと服…」
男がまた、ため息。
「だからお前がオーダーを受け入れない限り、我々はお前になにもできないのだ!」
「え、小田?」
男が奥歯を噛むギリっという音が私にも聞こえた。
「なあ、やっぱり」
「いえ、最後まで言い切ってみましょう」女が冷たいまなざしを私に向けたままいった。
「よし、言うぞ。黙ってきいてろ」
私は頷いた。とにかく服が着たかった。何でもいいから早く事が進行してほしかった。
「汝に、ドラゴンサーチャーに任命す」と男が言い、私はもう一度くしゃみをした。
私がさがしたネコ 一色 胴元 @kusatu94
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