第4話


 冷気で目が覚めた。

 窓が開いてるっぽい。顔を上げるとヒメちゃんが窓際に立っていた。


「目的が達成された」


 は。


「捜索対象は別次元の我が発見した。これより外宇宙へ移動する」


 いやいやいやいや。

 ベッドから転がり落ちる。えーと。なんだ? 別次元? 発見されたって……。どうなるんだっけ。


「君の知見は興味深いものがあった。礼を言う」

「待って。探し物ってなんだっけ。お姉ちゃんにも見せてほしいな」


 見てどうすんだって話だよ。ヒメちゃんのすぐにでも飛んで行きそうな気配が怖いってだけで。石ころだろうと核爆弾だろうと興味ないよ。


「物質的な物ではない。プログラムと呼ぶのが近い。事象発生のための鍵であるともいえる」


 あたしに説明するのもうまくなってるっぽい。はは。いやーしかし今はもうちょい難しくして会話を広げてほしいんだけ


「我を消滅させるための鍵だ」


 ど。


「生物の基準で言う所の『死』をもたらす。我は一時的に死が不可能な状態にあった。そのため速やかに奪取する必要があったのだが、並列同時存在する別次元の我から遂行の報告を受けた」


 ってさ。

 それってさ、ヒメちゃん、あんた、死にたいってこと?


「応」




 ど。


 う。


 し。


 て。




「あらゆる存在の到達点は無。つまり死だ。ただの真実に類するものだが、故に無視して存在し続けることは不可能に近い」


 分かったような分かんないような、でもそれはどうでもよくて、あたしが今すべきことはね、


「お別れだ」

「あー最後に、」


 息を吸って、


「死にたくなったらね、お姉ちゃんのとこにおいでよ。暇つぶしに付き合ってあげるから」


 吐いてー、


「それまでは、あたしいるからさ。また案内してあげる。もっと美味しいもん食べさせたっ、げ」


 や、なんだな。

 自分を棚に上げてさ、こいつ何考えてんだろうね。

 でも、ヒメ、あんたは、


「だ。が……、ら……っ」


 死にたいなんて言うな。

 あたしが悲しいから。

 あたしが泣くって、よっぽどなんだから。




     *




 制服に袖を通す。


 光になって夜空に飛んでいきやがった自称アンドロイドがさ、もしも死にたくなったら迎えてあげるんだから。生きなきゃならなくなったから。うんざりだよ、終わりは何十年か先延ばし。けっ。


 どうなるかーとか分かんないけどさ、まぁやるしかない。メンドイけどしゃーないわ。勇気はもうここにあるから。後は体を動かすだけだから。とりあえず学校行って、なんか話してみるわ。使えなきゃ切り捨てて卒業するだけ、簡単簡単。あたしって頭いいらしいしね。


 なんて意識を紛らわせつつ、あたしは久しぶりに、平日の学校へ向けて一歩を踏み出した。




     *




「何処へ行く」


 朝の日に溶け込みそうな幼い声。


「学校か。所属している可能性は残っていたが我との行動から考え低いと予想していた」


 悪かったな。あたしはサボり魔だよどうせよ。


「ていうか。なにしてんの」

「外宇宙への探索活動は同一宇宙内の別個体を生成し委託した。より正確に表現するならば平行世界間の時空断裂を基軸とした光殻理論を応用し、」

「……もうちょっと分かりやすく言ってくんないかな」


 ヒメちゃんは見上げた首をことんとかしげて、ぱちぱちぱちと三回きれいにまばたきしたのちに、




「おねえちゃん、だいすき」



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星のお姫様 ヒダマル @hidamaru

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