第20話 望むは君との戀縁

運命の糸を繋ぐメイレベル=フュイカニーレン


 ブラックとビターの魂までを束縛する、決して逃れられない運命。たとえ何度生まれ変わっても、『物語』の中に行ったとしても、ぼくとの再会を決定付ける呪いのような魔法。

 たとえこの魂が擦り切れても、ぼくはきみたちに会いたいから。出会って、叶うならまた恋をしたいから。


「「ヒーロー?」」

「運命を繋ぐ魔法をかけたんだ。ごめんね、これでもう、きみたちはぼくとの再会が約束される、されてしまう。たとえ、どんな状況であったとしても。ごめんね、好きになってごめん、ひどい魔法を、かけてごめん」

「なんだよそれ、……最高じゃねえか」

「そうだよ、君とまた再会できるなら。それが僕達にとっての幸せだ」


 両側から、ぎゅっと抱きしめられて。3人で泣きながら笑いあった。それを、タンスに寄りかかっていたぬいぐるみたちが見ていた。悲しい、でも、ぼくたちは前に進まなきゃいけない。きっとこの恋は陛下が奪うだろう、ぼくがどうしようもなく悲しんでいると知ったらこの恋心を、ここにいた記憶を消し去ってしまうだろうから。

 ぼくは陛下の元へと帰り同胞を救わなければ、ブラックやビターはこのまま『物語』の中で登場人物にならなければいけない。

 もしかしたら、2人ともそこで奥さんや子どもができるかもしれない。ぼくたちの恋は終わるかもしれない。でも、それでも前に進んで、進んだ先でまた恋に落ちることができたらそれはきっと運命なんて陳腐なものじゃない、素敵な恋だから。


 だからそれまで、さようならをしよう。


『ねえ、大丈夫?』

『くっは、くはははははは』

『ぼくにひれ伏せ』


 夢を見た気がする。

 とても酷い結末を迎えるはずだった、ハッピーエンドの夢を。


「ん、んー」

「あ? あー、あ。はよ、ヒーロー。浴衣乱れてんぞ」

「うーん! おはようヒーロー! 僕達が直してあげるよ」

「ありがとー」

「おはよう潤! よく眠れたかしら? って……なにしてんのよ!? って潤の目元赤いし! なにしたのよ!」


 ぼくが猫みたいに伸びをしていると、先に目覚めたビターが、浴衣が崩れてることを指摘して。次に起きたブラックがビターと一緒に上半身を起こしてぼくの浴衣を直してくれているときにホワイトが入ってきた。

 その服はいつもと同じ制服だから今日も補習なのかな? と思っていると、すごい勢いで突っ込んできた。なにって……と3人で顔を見合わせる。浴衣直してもらってるだけだけど?

 その後ろを通りかかったお母さんが上品に口元に手を当てて笑ってた。


「あらあらあ、本当にお赤飯いるう?」

「いらねーよ!」

「いらないよ!」

「おせきはん?」

「潤大丈夫? 痛くなかった? 酷いことされたねー」

「「何もしてない!」」

「嘘つけ!!」


 顔を真っ赤にして怒鳴る勢いで返事したビターとブラックに、ぼくを抱きしめるホワイト。その3人が騒いでるのを見て、まあお別れまでは、こんな日常もいいかななんて。嬉しくてぼくは直してもらった浴衣で3人に抱きつきに行ったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

望むは君とのこいえにし 小雨路 あんづ @a1019a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ