二人はフェチーネ&クラッシュ
「魔王さんが死んだって本当?」
塔の袂で忍者と争っていたゴリラが親指に仕込んだライターで葉巻に火を付けながら、腰掛けた岩の上、彼の隣で正座している忍者に訊ねた。
忍者は口を利かないが、代わりに手にした短冊に筆を走らせるとそれをゴリラに見せる。
“その通り 二人の侵入者 殿を討つ”
短冊を受け取ったゴリラはそれに目を通すが、彼は侵入者が居たとは気付いていない。
故にまず侵入者が居たことに彼は驚き、いつ侵入したのかと忍者に訊ねた。
しかし忍者は応えず、覆面と龍の彫られた鉢金の間から覗く両目で遠くを眺めるばかり。
その様子を見てゴリラは溜め息を吐く。だがそれは呆れのものではなく諦めに近いものであって、葉巻の煙を口いっぱいに頬張りそれを鼻から抜いてそして言った。
「ま、死んじまったならしゃあないわな。……これからどうすっかなぁ」
二人は遠くを見詰めていた。
食い扶持が潰えたのである。
とは言え、困ったなと言いながらも二人は内心何とでもなるだろうとも思っていて、故にその言葉に危機感のようなものは薄かった。
取り敢えずは、今後は涼しい場所で仕事をしようかなどと忍者とゴリラの考えが図らずも一致した頃、忍者が見ているものにゴリラも気が付いた。
目を遣るのは塔の出入り口。喧嘩が一段落した時に開けっぱなしに気が付いた出入り口であった。そしてそこから出てくる男女の二人組。
そこで忍者もゴリラもアレが侵入者であることに気付くが、済んでしまったことだとどうする気にもならないようだった。
「……んかよぉ~死ぬ度に高まってる気がすんだよなぁ、性欲。そう言う副作用ってあるの? 少なくとも俺は聞いてなかったケド」
「何も聞いておらんかったじゃろ、どうせ。あの時のお主は眠そうだったからのう」
「しゃーねーだろ、朝まで四十八手耐久セックスの後だったんだから。ありゃあ伝説になるぜ。俺もお前も、んで耐久セックスも」
「確かにな。確かに、テクノブレイクが実在すると言うことを証明したお主は伝説になるじゃろうて……」
呆れた溜め息の後、クラッシュが腹上死した時のことを皮肉って言うフェチーネ。
一先ず、フェチーネの報復という目的と、クラッシュの勇者らしい行いという目的の両方が今日、達成された。実はそんな目的が二人にはあったのである。
この後は金鉱の都カルフォリニアに戻り魔王討伐の報告をするだけ。
そして金を受け取り、それからは?
それを話し合おうとフェチーネはクラッシュに何度も提案しているのだが、性欲の権化のようなクラッシュは甦ってからもう我慢出来ないとして彼女と寝たいとしか言わない。無論、死ぬ度甦る度に性欲が増すなどと言う副作用は無い。クラッシュは天性のセックスマシーンなのだ。
よもやそんな者を勇者ともてはやした時代があったのかとフェチーネは考えると、考えた頭が痛くなった。
「なぁ~? 俺のこと愛してるなら良いだろ!? こんな天気良いんだし、青空の下で男と女がすることと言えばただ一つだぜ」
「ピクニックじゃな」
「青姦だよ!! またの名をセックスピクニック!! 分かってんじゃねえ――がッ!?」
直後にクラッシュの頭部上半分が吹き飛び、気管から赤い泡ぶくを吹いて残った下顎では舌がピロピロと上下していた。
血で溺れ、脳を無くした彼の体はビクビクと痙攣を繰り返すが、程なくして頭部が復元されるとその時の記憶が無いクラッシュは不思議そうに周囲を見渡し、「あれ、俺死んだ? なんで??」 と首を傾げる。
そしてフェチーネが既に離れた所に居ることに気が付いたクラッシュは慌てて彼女を追い掛けながら「俺もお前のこと愛してるんだぜ!? お前とのセックスは最高だからな!!」そう叫ぶ。
腰を振りながらクラッシュを置いて荒野を行くフェチーネえあったが、背中に降り掛かったその言葉に彼女は振り返ると右手に持ったスミスを構え、引き金を絞る。
獅子が吼え、発射された弾丸はクラッシュの右足の太ももを吹き飛ばし彼は悲鳴と共に転倒。何をするのかと叫ぶクラッシュにフェチーネは更に発砲を繰り返しながら言った。
「体だけか!? お主が愛しておるのは妾の体だけなのか!? 答えるのじゃ、お馬鹿者!!」
右手が千切れ、左腕が潰れ、頭を吹き飛ばされて脳みそをばらまきながら、それでも必死にフェチーネに追い縋るクラッシュは待ったを繰り返しながら彼女が望む通りに答えを返す。
「こ、声っ!! 声もイイ!! すんげえエロい声で鳴くから!!」
「死ね! 死んでしまえ!! このバカクラッシュ!! せめて妾の手で殺してくれるわあっ!!」
ぐえぇぇっ!! というクラッシュの悲鳴が響き渡り、空を銃声が導いた首長鳥たちが埋め尽くす。今日はご馳走。クラッシュの手足がこれでもかと転がるのだから。
その後弾切れを起こしたスミスを乱暴な動作でホルダーに戻したフェチーネの足元に転がるのは四肢を無くした半裸のクラッシュであった。
むっちりした太ももと扇情的なホットパンツ、そしてジャケットの下から覗く南半球。浅黒い肌はそれらに底知れぬエロチックを与え、見上げるクラッシュの鼻の下を伸ばした。
フェチーネはそんな彼の顔面を硬いブーツの足底で踏み付けると、それで鼻を潰され「痛い痛い」と情け無く鳴く彼に言った。
「取り敢えずカルフォリニアに戻り金を受け取る。仕方がないからのう、その後のことはカルフォリニアで考えることにする。良いな!?」
「……セックスしてくれるなら……」
ガォンッ!!
今度は左のウェッソンが火を噴いた。
フェチーネは再び荒野を行きながら「そうして頭を冷やすが良い!!」 と顔面を吹き飛ばされ首長鳥たちに群がられているクラッシュへと吐き捨てる。
甦生はすぐで、もはやブーメランと化したジーンズを腰に巻いただけの裸のクラッシュは跳び起き、鳥に突かれながらフェチーネを追い掛ける。
そんな二人の姿を見ていたゴリラはついと咥えていた葉巻を落としてしまいながら、「なんだいありゃあ」と呆然と呟く。
だが彼の前を横切り、忍者が先の二人の後を追うように歩き出した。
ゴリラは何してると忍者に訊ね、そして忍者は振り返りながら短冊をば一つ、手裏剣の如くゴリラに投げ渡した。
それをメカアームで受け止めたゴリラはなになにと目を通す。そこに書かれていたのは――
“あの二人 追えば手に
詠んで、ゴリラはなるほどと厚ぼったい唇をつり上げ金歯の覗く歯を剥いて笑う。
「なるへそ!! ヤツらが受け取る金を分捕るわけだ。イイねえ。やっぱ人生こうでなくちゃな。涼しい場所はそれからだ!!」
――こうして人の世に争いは絶えない。
エルフもドワーフもオークも、そんな人間たちの色になんだかんだ染まって行く。
闘争こそが生ける証。生物が持つ本質。知能を持とうが持つまいが、それ以前から生き物たちの世界はそんなもの。人の傲りとはこのことなのかもしれない。
善いとか悪いとか、そんなことは後回しにして、今日も星は回る。
誰が何をどう呼ぼうが呼ばれようが危惧しようが、それらを乗せる星はもしかしたら何にも考えちゃあいないのかもしれないし、憂いもしていないかもしれない。
楽しめば良い、こんな世の中でも。
元魔王フェチーネと元勇者クラッシュの旅はまだ続く。
行く先々に波乱を巻き起こしながら。色々な人を巻き込みながら。いつか世界が終わるその日が来るまで。
~END~
BRAVE&DEVIL こたろうくん @kotaro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます