10

     †


 アラームが僕をたたき起こす。クラウドに接続されたリマインダ機能は、昨日の僕の記憶からその日の予定を算出し、適切な起床時間までに覚醒を促す。脳内物質が心地よい覚醒に導くと、僕はいつものモーニングルーティーンに入った。

 歯を磨き、顔を洗い、髭を剃り、身支度をし、外に出る。道中のコンビニで菓子パンを買って、それをかじりながら大学へ。


 校門の前で、僕がよく知る女性が一人立っていた。アヤコだった。

「このあと戯曲の講義でしょ」

「ああ、そうだけど。待ってたの?」

「心配だったから。もう別れたし、あなたのことなんてもう忘れたいけど。でも、心配だったから。二日酔い、大丈夫?」

「僕なら何ともないよ。昨日のことならごめん。君にフられて、ちょっと気が動転してただけだ。でも、もう大丈夫。君も僕も、もうお互いのことに折り合いをつけた。そうだろ?」

「そうって……。ねえ、ごめん、私ってば言い過ぎたと思って、それを謝りたくて――」

「もういいよ。僕もなんとも思ってないから。アヤコがなんとも思ってないのと同じで。僕ら、別れても同じ学部の友人だろ?」

 僕はそれだけ言うと、彼女の隣を通って、学部棟に向かった。エスカレーターを駆け下り、戯曲の講義がある大講義室へ。

 だけど、僕はそのまま講義室には入らず、そのわき道をそれたところにあるトイレに向かった。ここは人目に付かないから、滅多に学生が寄りつかない場所でもあった。

 誰もいない廊下。

 だけど、そこには彼女がいた。

 黒いボブカットの髪に、首元にシルバーを光らせて。小脇に僕と同じ紙のノートブックを抱えた女性。僕が胸ポケットに挿した万年筆を取り上げると、彼女も同じようにペンを握った。

「やあ、また会ったね」

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そして僕は君をフィクションにする 機乃遙 @jehuty1120

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