名もない職
春風月葉
名もない職
昔は看護師をしていた。
今の私の仕事は少し説明が難しい。
ある者は私を死神と呼び、ある者は私を天使と呼んだ。
私の仕事は簡単だった。
安楽死が認められてから生まれた私の仕事はいつも同じことの繰り返しなのだ。
死を望む者に死を与えること、ただそれだけ。
人を救うため看護師になった。
そうだったはずなのに、私は今、人を殺すための仕事をしている。
私の仕事は死者から感謝され、生者から恨まれることが多い。
死をもってしか救われない者達のため、私は自分を殺す。
私は果たして生者なのか、死者なのか、わかってはいても考えてしまう。
胸が熱い。
瞳の奥が痛い。
喉が渇きを訴えている。
呼吸の仕方さえも忘れてしまいそうだ。
プスッ、気の抜けた小さな音も私しかいない静かな部屋では大きく感じる。
私は右の手に持った注射器をゆっくりと押した。
私の仕事は…。
左腕からゆっくりと力が抜けていく。
私の視界は静かに幕を閉じた。
名もない職 春風月葉 @HarukazeTsukiha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます