第一章6 『遊戯1』
──じゃ、じゃあ最初はゆっくり……ね?
──ん、んん…………あっ……あぁん。
──そのまま……まっすぐ…………ゆっくりと。
──あっ、だっダメっ!そんな……激しッ……!
──あっ、もっと……!おさえてっ……!
──あぁ……だいぶ……なじんできたかも。
──じゃあ……もうちょっとはやくしても……あっ!そっそんないきなりは……ダメ、だってっ……!
──キ、キタっ…………いっ、イクっ!このまま……ぁイクゥッ!!
…………どうしてこーなった?
☆ ☆ ☆
五分ほど道端で抱擁をかました僕たち二人。
その後は特に何事もなく、無事我が家へと到着した。
玄関を開けるなり、すぐにお母さん──着替えを済ませていた──が出迎えてくれたのだが、僕たちの、主に僕の異常事態に気づいた。
僕はあまり自覚していなかったのだが、どうやら背中の傷はかなり酷かったらしく、制服の下に着ていたシャツと体操服の両方に血が染みており、はたから見ても一瞬で大怪我だと察してしまうレベルだった。
急いで服を脱ぎ、風呂場で大方の血を流したのち止血をして、最後に創傷被覆材を貼って傷を覆いながら保湿し、剥がれないように多少の固定をしておいた。
幸い、あまり深い傷は無さそうだったので縫う必要もなさそうだ。
ただ、きっとさっきはアドレナリンが出ていて問題なかったのだと思うが、今はか〜な〜り痛い。少なくとも、ここ最近では一番の痛みだ。打ち身プラス擦り傷で背中が地獄のように感じる。
そもそも、服を三枚着ていたのにもかかわらず、こんなに怪我するもんかね?別に僕はそんなに不幸体質とかじゃないと思ってたんだけど。
史織も治療の様子をずっと見ていて、その最中に何度も心配してくれたり謝ってくれたのだが、
「いや、史織は何にも悪くないし、むしろ被害者だよ。それと、史織はそんな心配してる顔よりも、笑ってる顔の方が似合ってるよ。だから、笑ってて」
などと返す度に安心したように笑ってくれた。
それと同時にお母さんに背中を叩かれた。
「あんた、小学生のくせに生意気よ」と何度も言われたのだが、どこが生意気だったのだろうか。いたって普通の事を言っただけだと思っていたのだが。そして患部の背中を叩くのはやめてもらいたい。めっちゃ痛い。
そして、ようやく一段落したところで、お目当てのモノをするためにリビングへと移動し、今に至る。
……え?僕の部屋じゃないのかって?
……何を勘違いしているんだ?
僕たちはただ"
──そりゃ僕も驚いたよ。なんでわざわざ僕の家に来てゲームをやるのかってね。史織ん家には無いのかってすぐに疑問に思った。
でもそれには事情があったのさ。
何かと言うと、どうやら史織のお父さんがとても厳しいらしく、史織は小さい頃からそういった遊び道具とは無縁だったのだと。
でも、幼稚園でできた友達からゲームという存在を知ってしまい、そんな面白そうな物があるのか、とゲームに興味が湧いてしまったらしい。
それからというもの、事あるごとにゲームをやってみたい!と煩いものだから、お父さんを怒らせてしまったんだって。
だから、より一層ゲームを手に入れにくい状況になってしまったそうで。
それだとあまりにも史織が可哀想だ、と同情した冬川さんが、もし僕の家にそれがあるのなら是非それをやらせてあげて欲しいと頼んできた、という流れだ。
まぁ、フタを開けてみればよくある家庭事情だ。
僕の場合はお母さんが厳しいので、ゲームも普通は買ってくれない。
でも諦めきれなかった僕は、「幼稚園のマラソン大会で一位になったらゲームを買って!」とお母さんと約束をした。
お母さんも、僕があまり運動ができない事を知っていたから、まさかと思いながら約束してくれた。
でもそれは慢心だった。いや、僕が慢心にさせた。
約束したその日から毎日みっちりと特訓をして、本番当日見事一位に輝いたのだ。
お母さんも驚きはしたが、とても喜んでくれて、約束もちゃんと守ってくれた。
そうして、僕の家には一台の家庭用据え置き型のゲームがあるわけだが、まさかここでこんな形で役に立つとはな。
あの時一位を取れてなかったら、今こうして史織を連れてこれ…………はしただろうが、冬川さんの依頼には答えられなかった。
これも何かの因果だろうし、今日は思いっきり楽しませてあげるぞ!と、意気込んでいたのだが。
──あァッ!……んんんん!
もう一度言おう、どうしてこーなった?
問:令嬢を花嫁とする為には。 夜月霞楓 @mimusu1634
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