9.騙されて和らぐ心

数週間後の8月半ばを過ぎたある日、

「順二くん、会社辞めて海外の企業に行ったらしいわよ」

母さんの、どこよりも速くて正確なニュースが届く。オバサンネットワーク情報だ。

 やっぱり順二は、スーパースターだった。自分の心配など必要としない。自分には見えない先の、はるか遠くに飛んで行った。順二が突き進んでいたまっすぐな道は、果てしなく広がる大空となった。

 秋の気配を感じさせる、心地よい風と共に、一機の心は一気に和らぐのだっだ。

「今度は逆に順二に騙されたよ~。それも、かっこよく騙された~」

一機は、誰にも通じない一人ジョークを飛ばした。果てしなく広がる大空へと……。

 


そして、今頃、遥ちゃんはどんな風を感じているのだろうか……オレンジ色に輝く夕焼けの空に、いつか『遥ドラちゃん』に会えることを願うのだった。


一機は、心のコンパスの針が動いたような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未来塾 せきぼー @ken515saku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る