8.世間の風評
しかし……騙されてしまった……世間の風評に……。
「俺、会社辞めたんだ……」
何年ぶりか、駅でばったり会った順二から、まさか……信じられない言葉を聞いたのは、お互い社会人になってまだ4ヶ月しか経たない7月のある日だった。
「自分がどうなりたいのか、わからなくなってきちゃってね。なんか違うよなって…」
あんなに高いレベルをまっすぐに突き進んでいたように見えた順二だけど、今は進むべき道だけではなく、立っている地面すら消えかけているように思えた。
スーパースターだった順二。5年前、未来塾の神乃さんに言われた言葉の通りになってしまった。
『………世の中には、偏差値、学歴、地位、名誉など、他人の評価ばかりを重要視する風評があって、一所懸命になんとかそれらを勝ち取ることを目標にしてしまう人がたくさんいるんですね。これが違うんです。いざ我にかえったら時すでに遅し、自分自身の心の充実感や幸せが得られていないなんてことになっちゃうんです。世間の風評に騙されちゃうんです……』
一機も例外ではなかった。遥ちゃんも然りだ。二人とも未来塾に騙される可能性だってあったのだ。もし強い意志がなく、受け身の心だったら……。
未来塾に卒業の挨拶に行った時、神乃さんは、勧誘チラシの怪しい言葉『未来塾は決して騙しません』の真意を教えてくれた。入塾する前にそれを母親が見て心配していたという話をしたら、神乃さんは、
『騙される……。文字通り受け身の言葉です。人の心は、受けるだけでは騙される。受けたものを自分の心のレンズを通して、しっかりと自分の意志で能動的かつ主体的に見て、聞いて、感じて、考えて、判断したり、行動する。そうすれば、決して騙されたと思うことはありません。なぜなら、主体が自分になり、自分が自分の責任を負うからです。なりたい自分を決めるのは自分自身です。だから、未来塾に騙されたと思うことはないということなのです。ああ……でも、お母さんを不安にさせてしまったのは、申し訳ない。ごめんなさい』
このように話していたのを思い出す。
順二は……。
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