第3話◇◆アリスを探して

 はぁ……そうは言っても何とかしなきゃいけない現実。

 まずは、アリスのことを周りに説明しなきゃいけない。


 僕は、父の親友の(日本に住んでいる外国人。だから、日本語ももちろん話せるわけだ)昔から親しくしている、その一家の娘さんを事情があって、数日預かることになった、という苦しい言い訳を何とか考えついた。


 その父の親友はルイス・キャロルの「アリス」ファンで、色々なアリスの本を収集している。

 それで、娘にアリスという名前をつけて、服装も”それらしい”物を着せている。


 うん。強引でもこれで乗り切ろう。


 アリスにもしっかり言い聞かせて説明をしておく。

 下手すると、このままじゃ幼女誘拐犯にされてしまう。

 せっかく始まった念願の一人暮らし&大学生活をこんなことで失ったら、泣いても泣ききれない。


 うーむ、しかし、待てよ。

 その前に念の為に、アリスの言う事が本当なのか、情報収集をしてみなくては。

 この年頃の女の子は空想と現実がよくわかっていないということも有り得る。

(それにしても登場の仕方は説明できないけど。言葉はさて置き、ボロとはいえ、鍵の掛かった部屋に突然、土足で、だもんなぁ)


 さすがにため息が出る。

 と、とにかく、まずは今日の新聞に目を通してみる。


 誘拐事件とか、は無さそうだけど、公開捜査になってないとわからないだろうし。


 そんな僕の気持ちも知らず、いつの間にか目を覚ましたアリスは、好奇心ではち切れそうだ。

「ねぇねぇ、この小さい板は、なぁに?」


 僕が手に持っていたスマホを目を真ん丸にして見ている。

「わぁ!何か光ってる!絵が動くの?これ!」


 そうだ、話す言葉はわかるようだし、日本語は喋れるみたいだけど、読めるのかな?

 ひらがな、カタカナ、などと紙に書いて見せてみてわかったんだけど、読むに関しても、何となく意味がわかる様になっているみたいだ。

 どうも話し言葉と一緒で、何らかの不思議な力?(そうとでも言うしかない)が働いているように思う。


 僕はルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」も「鏡の国のアリス」も読んだことはあったはずなのに、薄らとしか覚えていなかった。

 どんな物語だったかな。

 まずは、あらすじだけでも、おさらいしておこう。


 えーと『不思議の国のアリス』は……


 Wikipediaセンセイによると、

『少女アリスが白ウサギを追いかけて不思議の国に迷い込み、しゃべる動物や動くトランプなどさまざまなキャラクターたちと出会いながらその世界を冒険するさまを描いている』


 ふむふむ、これは記憶通りだな。

 アニメや映画化もされてきているから、かなりお馴染みでもある。

 で、『鏡の国のアリス』こっちはどんな話だったっけ。


 同じくWikipediaセンセイより、

『前作では不思議の国を冒険した少女アリスが、今作では鏡を通り抜けて異世界に迷い込む。前作と同様、文中には様々な言葉遊びやパロディがちりばめられているが、即興で作られた話がもととなっている前作とは異なり、はじめから出版を意図して作られた今作の物語はより知的な構成がとられており、アリスをはじめとする登場人物たちはチェスのルールに従って、桝目で区切られた鏡の国の中を行き来する』


 そうそう、アリスの挿絵といえば、ジョン・テニエルが有名で、僕もこの挿絵がすぐに頭に浮かぶ。

 そういえば、目の前にいるアリスも、この絵に似ている気がする。


 アリスが帰る為の本を探すにしても、『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』をもう一度、読み返してみることも必要だろうなぁ。


 すぐに本が見つかれば言うことないんだろうけど、アリスが最初に此処に来た時のことを考えても(何しろ、有栖川有栖ありすがわありす繋がりとかだもんなぁ)かなり、苦労しそうな嫌な予感しかない。


 難しい顔をして考え込んでいたら、いつの間にか昼になろうとしていた。


 さっき少し寝たからか、完全に眠気が覚めたらしいアリスは、元気いっぱいで

「お腹空いたよー」


 そう言えば、この騒動で朝飯も食べてなかった。


 それにアリスがどのくらい此処にいることになるかはわからないけど、着替えの事も考えておかないといけないだろう。


 まぁ、まずはとにかく腹ごしらえしてからだな。


 §


 上京して初めての夏休み、今回、バイトも忙しかったので帰省はしないと伝えていた。

 それで心配した両親が、ジュースやゼリー、あとはレトルトカレーやシチュー類などを宅急便で送ってくれたのが 昨日届いたところだった。

 それと新しいTシャツ数枚も。


 僕はとりあえず、100%のオレンジジュースをコップについで、レトルトのホワイトシチューを温めてお皿に移した。

 同じようにもう一組それを作ってから、折りたたみテーブルを出して、その上にスプーンと一緒に置いた。


「そこに座って。まずは食べてから考えよう」

 アリスは素直に頷くと、オレンジジュースを飲んで、シチューを食べだした。


「あのね、食べながらでいいから、聞いてくれるかな。えーと、キミの名前はアリスでいいのかな?」

 アリスは食べながら、こっくりと頷く。

「僕の名前は月野つきの けい。ケイって呼んでくれてかまわないよ」


 色々、考えたり、動き出さなきゃいけないけど、とにかくアリスのことを、もっと知らなきゃ。

 この状況を何とかする為にも。


(続)

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扉を開けて!アリス つきの @K-Tukino

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