第2話◇◆金の鍵と本の扉
──そして
ひとしきりの騒動の後、やっと落ち着いて、アリスがポツリポツリと話した事をまとめると、こういうことになる。
§
アリスは不思議の国、鏡の国と、おかしな世界を行ったり来たりした帰り道に、何の拍子でか『
それは上から下まで、ぎっしりと本で詰まった本棚でいっぱいの果てしない図書館みたいな場所だった。
そこでは世界中の、ありとあらゆる本が管理されているようだった。
そして、その場所で出会ったのが、分厚い本を何冊も抱えて丸眼鏡をかけたクルクル巻き毛の妖精だったらしい。
「キミ、だあれ? どこから来たの?」
「あたし、アリスっていうの」
透明な羽を羽ばたかせながら、目をまん丸くして尋ねてきた妖精に、自分が ”不思議の国” と ”鏡の国” に迷い込んだ事を話して
「不思議の国から帰ってきて、少しした時に今度は同じように鏡の国に迷い込んじゃったのよ。それで、やっぱり大騒ぎに巻き込まれちゃって……。前は、そこで本の世界から帰れたのに、今度は途中で転んだと思ったら、穴に落っこちるみたいになって……気がついたら此処に来ちゃってたの」
アリスは、さすがにションボリと答えた。
「ねぇ、ここはなんていう所なの? あなた、帰り道知らない?」
尋ねたアリスに妖精は、ここは『
そして、うーん、と考え込んだ妖精は
「そうだねぇ……ボクは親切だから、教えてあげるけどね。まず、この金の鍵で(と首に下げていた金色の重そうな鍵をみせながら)ここにある本の扉(本をそのまま大きくしたような木の扉で表面にはBookと飾り文字が書かれていた)を開ける。ほら! この鍵穴だよ!」
ぼわーんと鍵穴が光ながら浮かび上がってくる。
「この本の通路は別の何処かの本に繋がっているから、ここの通路の先にある扉を開けて出た場所で最初に、おかしな世界に来るきっかけとなった不思議の国の本。それを見つける」
「あ、ただ気をつけないといけないんだけど、これっていつも同じ場所に繋がるとは限らないのが困りものなんだけどねぇ」
(うーん、大丈夫なのかなぁ)
アリスの不安そうな顔にも気づかない様子で
「あとね、これが肝心なんだけどね」
妖精はちょっと難しそうな顔をしてズリ下がってきた眼鏡を上げた。
「どの不思議の国の本でも、いいわけじゃないんだよ。この金の鍵を近づけてみて鍵穴がこんな風に浮かんでくる本じゃなきゃ駄目」
「見つかったら本の大きさが小さくても大丈夫だよ。鍵穴が浮かんできたら、この金の鍵を差し込めば、本の扉は開いて、キミをちゃんと、元いた世界に戻れる道へと送ってくれるはずだからね」
「とにかく、そうしないと、元いた世界には戻れないよ。
運が良ければ、この次の場所に着いてすぐに、キミの不思議の国の本が見つかるかもしれない」
「じゃあ、ボクは忙しいから、これで! まぁ頑張ってね!」
「ああ、特別に、この金の鍵は貸してあげるよ。ボクはほら、親切な妖精だからね!」
金の鍵をアリスに渡し、ニコニコと手を振り去っていく妖精。
「そうそう、その鍵はキミが元いた世界に無事に帰れたら、勝手に消えて、ここに戻ってくるようになってるから大丈夫だよ〜」
妖精の声が小さくなって、姿も本の彼方へと消えていく。
一方的な説明に呆気にとられ、お礼も言い忘れたままで、ガックリしたアリスだったが、メゲてばかりもいられない。
とにかく妖精から受け取った金の鍵で早速、『
§
「それで何で、僕のお腹の上に出ちゃうのかなぁ!」
訳ワカランとばかりに泣きそうな気分で僕が言うと、アリスは黙って僕のお腹の上に開いて伏せてあった単行本を指さした。
「あ……」
そうだった、昨日、
「え? もしかして、アリス繋がり? とかで??」
「何のこと? あたし、わかんない。ただ気がついたら、この本からここに出てきてたんだもん!」
「なんだそりゃ!」
結局、ダジャレじゃないか。本の妖精とやらも、まったく呆れてものが言えない
こんないい加減なことで大丈夫なのかな?
キョトンとした顔をしているアリスの胸元には存在感のある金の鍵が下げられている。
もしかして、これが妖精から受け取った金の鍵?そう言われたからか、不思議な輝きを放っているようにも見えるぞ……。
いやいやいや、いくら何でもまさか?!
まだまだ半信半疑な僕だったけど(そりゃそうだろう? こんなの急に信じろっていわれたって……)
だけどどっちにしても、アリスというこの少女が此処にいるのは現実なわけで。
いよいよ疲れて眠くなったのか、目を擦っていたアリスは今度は、ウツラウツラし始めた。
とりあえず寝かすための新しいタオルケットを用意しながら、先行き暗雲しか立ち込めてないような不安で、僕は天を仰いだのだった。
(続)
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