扉を開けて!アリス

つきの

第1話◇◆僕と不思議な少女アリス

 これは、平凡な大学生である僕が巻き込まれた、世にも不思議な冒険!? の物語だ。


 今でも思い出すと、あの日々は夢だったんじゃないか、なんて思ったりもする。


 だけど、確かにあれは夢じゃなかったし、

 あの子は此処にいたんだ。

 おしゃまでちょっぴり生意気な、でもとびきり可愛らしい、あの『アリス』というオンナノコは。



 §



 ──それはまったく唐突に始まった。


 僕は18歳、名前は月野つきの けいという。

 彼女ナシ歴=年齢の男子だ。

 これでも、それなりに(片想いだけど)恋はしたし、女友達ガールフレンドはいるけど、あくまで ”友達” 。

 よくある『すごく優しいし良い人なんだけどねぇ。でも彼氏って感じじゃない』ってタイプらしい。


けいはさぁ、こう、なんていうか、色々親身に相談に乗ってくれたりするし、でも異性を感じさせなくて話しやすくて、本当に友達としては最高だよ!ただ、うーん、ドキドキの対象じゃないのよねぇ」

 これは、高校時代の女友達ガールフレンドのセリフ。

 悪気なく言われたけど、紛うことなき恋愛対象外宣告に変わりはなく。

 さすがにガックリ_| ̄|○ il||liしたもんだよ。


 まぁ、確かに押しは弱いし、確かにこの平凡すぎる外見じゃトキメキからは遠いよな。

 清潔だったらいいだろうっていうオシャレとは言い難い短髪と大抵はTシャツに履き古したジーンズ、ひょろっとして眼鏡をかけていて、アダ名が『のび太』だったのを思うと、納得してしまう自分が悲しい。



 しかし、そんな僕も無事に志望大学合格を決め、地方から上京して、諸々の夢に胸を膨らませて、念願の一人暮らしを始めたところだった。


 やっと探して借りる事ができた築年数も古いアパートの部屋は、お世辞にも綺麗とは言えない昔ながらの六畳一間。

 それでもこの予算で、トイレだけでもついているのは、ほとんど奇跡に近かったと思う。

 共同風呂はあるし、何なら風呂は近くの銭湯を利用すれば良いしね。


 とにかく僕にとっては初めての自分の城だ。大変なことも多かったけど、それでも嬉しかった。


 あいかわらずのオシャレとか恋とは縁遠い生活だったけど、友達も出来て、僕にしては、なかなかに順調な大学生活の滑り出しだった。

 早速、バイトも初めて、少しずつだけど部屋を整えたりしていくのも楽しかったしね。



 そう、あれは例年にも増して早々と凶暴な暑さか続いていた、夏のある朝のこと。


 夏休みに入り、連日のバイト疲れ(無理を言ってこっちの大学にきた分、仕送りはギリギリ。あるだけ有難いともいえるけどね)から暑さをものともせず?僕はグッスリ眠っていた。

 すると『ポン!』と変な音がして、不意にお腹の上に何かに乗られた感覚が!!


 思わず

「ぐぇっ!」という、カエルが潰れたような声を出して僕は目を覚ました。


 不意打ちだったから驚いたけど、重みというほどは無くて柔らかくて、微かなバニラの様な匂いがする。


 そして、しっかりと目を開いて、慌てて側に置いていた眼鏡をかけて……一番最初に目に入ったのは……

 金髪に青い目の外国人らしき小さな女の子……が僕のお腹の上に乗っかっていた。


「何なに? 金髪? 青い目? お、おんなのこぉ〜~!?」

 僕は思わず叫んだ。


「うわわわわわっ!!! キミ誰っ!」

 僕が跳ね起きたので、その女の子は危うく後ろに転がりそうになりながら


「あたし、アリスよ!」

 と、怒った様に、ちょっと唇を尖らせながら答えた。


 青いドレスに白いエプロンに青い靴。

 歳の頃は7、8歳くらいだろうか。


 金髪に青い目に、このお馴染みの服装ときたら、これじゃまるで有名な? アリスそのものじゃないか!


 おいおい、何処から来たんだ? 迷子? いやそれにしても靴、履いてるし、ここ部屋の中だぞ……。さっきの『ポン!』っていうヘンテコな音は何だ?

 まだ混乱する頭の中では色々な事がグルグルグルグル……。


 そして何故か思わず僕は今更ながら、おマヌケにも叫んでいた。

「それにしても、キミ何で日本語がわかるの?!」


「ニホンゴ? なにそれ? とにかく、あなたの話してることはわかるわ。わたしの言ってることも、わかるんでしょ?」


 アリスは、小首を傾げながら、ちょっとツンとして答えた。サラリとした金髪が揺れる。長い睫毛まつげに大きな瞳、何とも愛らしい。


 いやいやいや、そんな事でボーッとしてる場合じゃないぞ!


 混乱する僕をよそにアリスは物珍しそうに周りを見渡しては立ち上がり、恐る恐るテレビに触れてみたりしている。

 扇風機の緩く回っている(今どきエアコンもついていない)1K、6畳の狭い部屋は、そんなに見るべきものも無く、それに疲れているのもあるんだろう、すぐに退屈したようでまた座り込んだ。

 小さくアクビをして目をこすっているオンナノコ。



 §



 そう、これが僕と不思議な少女『アリス』の出逢いだった。


(続)

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