第6話(3)

 8年後、エメラルドの瞳を持つ金髪の美少女はエメラルドの瞳を持つ金髪の美女となって、俺の隣で紅茶を啜っている。

「ははは、レイネさんは学生の時からふてぶてしいんですね」

「高貴と言いたまえ、メリカ」

「16歳のレイネさんかー、かわいかったんでしょうね、シンさん?」

「ああ、あの時はかわいかった。痛い!」

 隣に座るレイネに足のつま先を踏まれた。それもヒールのかかとで。

「シン。クラークの御曹司との戦闘について話なさい」

「クラークの御曹司? 戦闘?」

「忘れたのか、私と出会った翌日のことだぞ」

「あっ、あー、そんなこともあったな。でも、なんでこの話を聞きたいんだ?」

「あのクラークの御曹司が得意の戦闘魔法で負けるのを見て胸がすっきりしたのだ。今でも覚えているぞ」

 レイネというお嬢様は〈学院〉生の頃から腹が黒かったようだ。

「あまりおもしろい話とは思わないだけどな。

 えっと、確かレイネと出会った翌日に招待・・・というか、決闘の申し込みをされたんだ」



 金髪の少女と出会った翌日のことだった。

「読書の最中に申し訳ございません」

 いつもの閲覧室で本を読んでいる時だった。本から少し視線を上げると、四人の男子学生が俺の座っている席を囲んでいた。

「なんだい?」

「アマースト・シン先輩ですか?」

 リーダー格というか、最初に話しかけた男子学生が俺の横に近づいた。

「そうだけど」

「少しお話をしてもよろしいですか?」

「見ての通り俺は読書に忙しいんだ」

「なら手短にお話いたしますね」

 後日に改めないのか。だからと言って話を聞くつもりはないが。

「クラーク家の三男、ナイゲル・クラークと言います。私は魔術力向上のために、さまざまな人々とお手合わせをお願いしております」

「そうかい、それは良かったな」

「おい、先輩とはいえクラーク家の嫡男に失礼だぞ! 戦闘魔術の名家出身であるナイゲル様がわざわざ鍛錬を申し込んでいるんだぞ!」

 リーダー格の横にいた男子学生が声をあげた。セリフから察するに彼の取り巻きの一人だろう。

「お手合わせ? 鍛錬?」

 何のことかさっぱり解らない。

「ポイルくん、そのようなセリフは先輩に対して失礼にあたりますよ。」

 ナイゲルは俺に向き直った。

「アマースト先輩、聞くところによりますと、先日留学からお戻りになり、〈学院〉に編入なさりましたね?」

「まあ、そうだな」

 どこでその話を聞いたのか大いに気になるが。

「〈学院〉には戦闘魔術を鍛えるための〈鍛錬場〉があります。そこでは、自由に攻撃性あのある魔術の練習ができます。そして、もちろん対人魔術もできます。ただ、このような魔術は一人で行うとあまり練習になりません。そこで、多くの〈学院〉生はより実践的な魔術練習に励みます。実践練習とは、ずばり模擬戦闘です。」

「へー、そんな施設があるのか」

 これは初耳だった。機会があったら行ってみよう。

「ご興味いただけましたか! そこで、アマースト先輩にはぜひお手合わせをお願いしたいのです。」

「お手合わせ、模戦の練習相手になってもらいたいということか」

「練習相手だなんて、そんな先輩に対して恐れ多いことは申しません。ただ少しばかりお相手をお願いしたいのです。」

「ふーん、そうか。」

「ところで、アマースト先輩、レイネ・ゾルドアートという女の子はご存知ですか?」

「誰だ、そいつ?」

「あら、不思議ですね、先輩が昨日お会いした方だと聞いておりますが」

 一体どこからそんな情報を聞いたんだ。

「あー」

 昨日は午前中に講義を受けて、午後はこの閲覧室で本を読んでいた。そういえば、読書の途中にいじめのような状況に置かれた女の子を助けたな。

「心当たりがありませね。」

 ナイゲルは俺の肩に手を乗せた。

「あの女の子美人で可愛いでしょ。なかなかいじりがいのある女の子なんですよ。それで、他人にちょっかいを出されると萎えてしまうのですよ」

 なんとなく状況が読めてきた。昨日、金髪の女の子を囲っていた女子生徒たちと、このナイゲルをはじめとする男子生徒たちは裏で繋がっているようだ。

「俺に何をして欲しいんだ?」

「いいえ、何も。ただ、決闘を申し込みたいと」

「勝ったほうは相手の言うことを聞く、ってことか」

「お分かりが良くて助かります」

 だんだんとこのナイゲルという男子生徒に腹が立ってきた。

「まぁ、軽い手合わせくらいなら問題ないだろう」

「『軽い』と申しますと?」

 俺は肩に乗せられたナイゲルの手を払い除けて、彼と直接視線を合わせる。

「単刀直入に行こう。お前は俺に何を要求しているんだ?」

「分かりました。では、ずばりお答えいたします。ゾルドアートに近寄らないでください」

「そんなんで良いのか?」

「ひとまず今回はこれで。私たちも大事にはしたくありませんから」

「そうか」

 俺は右手をナイゲルに差し出した。

「正式な決闘の方法は知らん」

「そうですか、」

 ナイゲルは俺の手を握った。

「決闘成立ですね。

 さて、場所は〈鍛錬場〉にて、日時は来週にいたしましょうか?」

「今からでも良いぞ」

「場所の確保に数日を要します。こればかりは〈学院〉の規則もありますので仕方がありません。それに告知も必要です」

「告知?」

「決闘には観客が必要でしょ?」

 理由はよくわからないが、まあいいだろう。

「問題無い。ただ、あまり先延ばしにすると忘れるぞ」

「そうですね。明後日ではいかがでしょうか?」

「よかろう」

 明後日の昼間に俺とナイゲルの決闘が執り行われることとなった。

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謀略の魔術列車 青木ヤギ @yagiyagirou

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