第2対話
神父「お次は漫画ときたか。残念ながら未読だよ。名前は知っているけど。対話の相手としては物足りないかな」
緋衣「いや問題ない。さてこの『フルーツバスケット』なんだが、登場人物中に、厄介な名前を持つ者が複数出てくるのさ」
神父「そうなのかい」
緋衣「ああ。草摩
神父「見慣れない漢字を使っているようだけど、厄介というのがよく判らないね。どういうことだい?」
緋衣「【夾】・【潑】・【慊】・【杞】……これらはいずれも人名には使えない漢字なのさ。少なくとも、現行の我が国においてはね」
神父「なるほど」
緋衣「もちろんニックネームとしてなら何ら問題ないよ。ただ、これが正式名称であれば大問題だ。まず役所が受理しない」
神父「たまに親御さんが裁判起こして、見事人名漢字に昇格するケースがあるじゃないか」
緋衣「ああ、最近では2015年に【巫】の字が追加されたね。さっき挙げた四文字も、将来的には人名漢字として使用できるようになるかもしれない。けれども今はまだ駄目だ。というわけで、フルーツバスケットの世界は〈当該四名が全員本名でない、ニックネームを使っている現実世界〉か、〈件の四文字を人名漢字に登録済みの未来、あるいは現実そっくりなパラレルワールドが舞台〉なのか、このどちらかでなければならない。本名かつ現実世界という、都合のいい解釈はありえないんだ。そして四人が四人とも愛称を用いている確たる証拠が見つからない以上、フルーツバスケットの舞台は、僕らがこうして語り合っている、そしてそれを読者が目にしている、この現実と地続きでは決してありえないということだよ」
神父「やっと判った。その人名に使えない四つの漢字というのが、現実世界における厄介な夾雑物というやつなのだね」
緋衣「そういうことさ。今ここにいるはずがない名前を持つ者が存在してしまう、不合理を生じさせるものとしての夾雑物」
神父「少し前に君が言及していた〈翻訳〉で、その不確定な世界を救うことはできないだろうか」
緋衣「君は救い主の到来を待ちわびているようだね。しかし哀しいかな、待ち人来たらずだよ。如何に漫画空間と現実世界を〈翻訳〉という名刀で両断しえたとしても、翻訳者が属するのはこれら悪夢の四文字を名付けに使えない、現代日本という現実サイドなのだからね。あの漫画の舞台を現実に引き戻すには、かの呪われし四者を常用平易な漢字に改名させるしかない」
神父「やれやれ、僕はとんだサタニストに捕まってしまったらしい。こう言っちゃなんだが、君の言説も結構な野暮じゃないかい。あまり物語を楽しんでいるふうには見えないのだけど」
緋衣「とんでもない、大いに楽しんでいるよ。ただ、楽しみ方は人それぞれだからね」
神父「そういうものかね……それにしても、この
緋衣「本当にね。どこで何をしているのだか。ガリレイさながらの鼎談になるかと思いきや、結局君と僕の二人だけで対話が終わってしまった」
神父「ガリレイ? それってあの、ガリレオ・ガリレイのことかい」
緋衣「むろんさ。僕らの名前だってそうだろう」
神父「僕らの名前?」
緋衣「何を今更。僕らの名前が皆ガリレイの著作の登場人物に
神父「リチオ? 誰の名前だいそれは」
緋衣「おいおいどうしたんだ。気は確かか? 君はアリストテレス=プトレマイオス的世界観の代弁者にして〈頭の単純な人〉を意味するシンプリチオをもじって、〈神父の
神父「……僕の名前なのか」
緋衣「そうさ。僕の〈緋衣〉にしたって、同じ対話に出てくるサルヴィアチ→植物のサルビア→和名の
家主「……とまあこんな感じで終わる予定だったんだけど、本名と戸籍名称は別でもいいだろJKみたいな毒電波をパラレルワールドから受信しちゃって、マジで? ってなって〈本名 戸籍名称〉でググってみたのよ、したらやっぱ〈今いるこの通常の世界〉だと本名ってのは戸籍に登録された名前のことで、オラバウトにも、"私たちにとっては戸籍の名前だけが本名です。別の名前を作って使うことも場合によっては認められていますが、それは本名ではありません" ってあるし(https://allabout.co.jp/gm/gc/460947/ てかオラバウト久々に見たわ〜)
これ以上異世界の干渉受けるのも煩わしいから※欄閉じたわ←嘘。んじゃそーゆーことでアディオス☆」
「「お前いたんかい」」
(了)
異世界対話 空っ手 @discordance
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます