生活魔法一周年記念特別ストーリー

(今日、私は世界樹様の前に用意された特別な式場で結婚式を挙げる。相手がゼノさんじゃないのはとっても残念だけど、彼も誠実で私にはもったいないくらい優しいヒト)


 サンカイオーで、ここエルフの国シュトロハーゲンを旅立ってからも、仲間達と一致団結し艱難辛苦を乗り越えてきたゼノ一行。

 互いに信頼しあい、最高の仲間だと言えるまでになった人達。

 しかしミラは、ゼノの難攻不落の要塞のように強固な自己評価を覆せずに、結ばれないまま始まる事すらせずに終わってしまった。


(ゼノさん、式には参列してくれるかな、どんな感じで来るんだろう。私の幸せだって喜んで祝福してくれるのかな? それとも実は私の事が好きで諦めきれないけど義理で参加して複雑そうな表情になったりしてくれるのかな。それにしてもゼノさん遅いな、もう宣誓目前なんですよ?)


 新郎とミラの目の前には怒りを押し殺して不機嫌そうな顔のラケル。

 彼女は神父の代わりに壇上に立ち、新たな夫婦となる二人に向けて誓いの問いを投げかける役目を買って出ている。


「やっと来ましたか。ここまで怒りを覚えたのはいつ以来でしょうか、旅の間はわりと喜怒哀楽をはっきりと感じて表していましたね」

「はい? ラケル様、一体何を……」


 ヒューーーーーーーーーーーー……ドーン!


 ミラがラケルに問いかけている途中から風切り音のようなものが聞こえ、音の方向へと振り向く直前に激しい地響きと振動が伝わってきた。


「きゃっ、何っ!?」

「その結婚、ちょーっと待ったーーーーーー!!」

「っ、この声、ゼノさん!」


 バージンロードの向こう側には、世界樹の繊維から作られた世界最高の普段着姿に、黄金の輝きを身に纏ったゼノが立っていた。


「ミラ、遅れてすまない、今更ながら俺は自分の本当の気持に気付いたんだ。……ミラ、君が好きだ愛してる、俺と結婚してくれ!」

「はいっゼノさん、私も愛してます」


「いやー、ゼノさんが来てくれて助かりましたー、ここままじゃ私、ミラちゃんの旦那様になっちゃうところでしたからー」

「ドッキリ結婚式、ヘタレのあいつに発破をかけよう大作戦は成功したようですね」


 声のした方を見ると、魔法の変装を解いた新郎服のジュディスがゼノとミラに手を振って挨拶している。

 この瞬間、ミラは悟った。


(催眠魔法か何かで私を騙していたのも、いつまでたっても宣誓が始まらなかったのも、二人が私のために、ゼノさんをその気にさせるため取った作戦だったんだ)


「さあゼノ、ミラ。私の前で永遠を誓いなさい」

「ああ」

「はいっ!」


 そして宣誓が終わり新郎ゼノと新婦ミラの、誓いの口付けが。


「はっ……ここは、はぁ……夢だったのー、もう、何であと5秒10秒目覚めるのを待ってくれなかったのよ、私の体!!」


 なされる前に夢から目覚め、非常に、それはもう非常に残念がるミラだった。


「いいもん、今度は現実で最初からゼノさんが新郎として結婚式をするんだから!」


 この日、自分がゼノからミスリルの指輪を貰う事になるなんて、知る由もないミラであった。

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生活魔法 〜材料を元に生活に必要な物を作り出す魔法〜 天神 運徳 @amezingdragon831

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