第126話 乙女ゲームのシナリオ3
「ゲームって大まかなあらすじがあるんでしょ。それを教えてよ」
「いいわよ。
ヒロインは異世界で事故に遭って、私たちが今いるこの世界に迷い込むの……。
目覚めると森の中にいるのよ。真っ暗だし、お腹すくし、のどもかわくし。
荷物もないからすごく困るの。それで水がないか歩き回るのよ。」
「暗い中歩くなんて危険すぎる!」
「エリー突っ込まないで。話が途切れるから」
「うー、わかった」
「それで水辺を見つけるんだけど、そこで狼に襲われるの。
だけどとっさに強力な魔法が使えて撃退するの。
それはそれは強力な魔法だから、森を管理する騎士は何が起こったか見に来るのよ。そして保護されるの。
その騎士の上司が男爵で彼女のものすごい魔力に眼を付けて養女にして王立魔法学院に入学させるの。」
「ストップ!」
「もう茶々入れないで」
「違うの。私、ドロスゼン、ディアーナ殿下、クライン様、ダイナー様は学院に通ってないよ。私たちエヴァンズだもん」
「ええっ?ダメよ!そんなの話が進まないじゃない」
「でもそうなんだもの」
それからモカと言い合いになってしまったが学校が違うのはしょうがないと落ち着いた。モカは気を取り直して話を続けた。
「それで学院の最高学年に編入して攻略対象と出会うの。
一番初めはあまりにも学校が立派だったものだからいろいろ見回っていたら遅刻しそうになって、教室に向かって走っているところを攻略対象とぶつかるの。
そこでお互い名乗り会って知り合いになり、側にいた別の攻略対象に紹介されるの。
それを悪役令嬢のローザリアがこっそり見ていて、休み時間に絡まれるの。
そこを助けるのもヒロインが選んだ攻略対象よ。
危ないから自分の側にいるように勧めるの。
ヒロインはこっちとは逆で身分のない世界から来るから、マナーとかダンスとかはあんまりなの。でも学力は高いし、魔力も強いの。
妬んだローザリアから挑戦を受けて対決バトルがあるの。
初めてのバトルは必ず勝つわ。ローザリアも邪魔しないから。
そのポイントで次のイベントへ向かうのよ。」
それからもモカの話はすごく長かった。1冊の小説を読み聞かされているようだった。
正直疲れた。
なのにモカはすごく楽しそうだ。すごくやり込んだって言ってたもんね。
クライン様とダイナー様の禁断の愛についても話された。そこにユリウス様も入れた三角関係が好きだという。
その話をよくよく聞くとゲーム内では出ていなくてモカが3人を好きすぎて妄想しているだけとわかった。
それが真実かはさておき、皆様の恋路のお邪魔にならないように気を付けて接すればいいんだよね。
「そういえばなんでクライン様だけ悪役令嬢がいないか聞いてない」
「それはね、リカルドの天から授かった使命が『王を選任すること』だからなの」
それすごくない?
つまりこの国はクライン様の選ぶ王で運命が左右されるんだ。
「王の近習になることに決まっているとは聞いていたけど、王を選ぶなんてそんなにすごいの?」
「そう。クライン家には光の精霊王が祝福を与えているの。
というか本当は300年前までクライン家こそがこの国の王族だったの。
でもその中の1人が悪魔にそそのかされて魔王になったんだ」
「それは……」
知ってる。オーケストラの勇者たちの話だ。
「もちろん、その悪魔に染まった王は光の精霊の祝福は受けていなくてコンプレックスのせいで悪魔と契約しちゃうの。それで勇者を異世界から召喚して退治してもらうんだけどその時クライン家は王座を国に返上したの。
ただ別の家から王を決めるときに最高神ヴァルティスから光の精霊王の祝福持ちに選ばせよというお告げがあったの。
その称号があるのはクライン家の血筋だけだったから、全員処刑されずクライン家は残れたの。その感謝の念から王に絶対の忠誠を誓うようになったの。
その時の誓いがこうよ。
『我らクラインに名を連ねる者は
だからリカルドは騎士であり、文官であり、魔法士になるんだとモカは続けた。
「……なんかすごいね。私だったら重圧に苦しみそう」
「それにも負けないくらいのものすごい特訓を受けるの。でもだれも認めてくれない。出来て当たり前だから」
「モカ、すごく詳しいね。クライン様がモカの推しだったから?」
「それもあるけど、リカルドはものすごく悩むの。
だって自分を王にしてもいい訳じゃない?もともとは王族だったわけだし。
実際リカルドの持つ真実の眼ではこの国の王家に誰もふさわしい人がいなかったの。
でもエドワードを愛するヒロインのために、エドワードを王に選任するの。
そこが切ないところなのよ」
「ああ、その葛藤が細かく描写されてるのね」
「そういうこと。攻略対象の中でヒロインを誰よりも深く愛するのはリカルドなの。嫌われることも厭わず苦言も言うしね。
ヒロインがリカルド単独ルートに入ったら激甘溺愛コースだから。
リカルドは愛さなければものすごく嫌うの。馬鹿な女は大嫌いだからね。
だからその葛藤をずっと支えてくれるサミーに」
「その妄想部分、今日はいいから」
まだ悪役令嬢がいない話になってない。
「そうそう、だから誰かと結婚すると決めてしまうと相手の家が推してる人を王に選任させることになるじゃない?でもその人が不適合だったら?
だからクライン家は王が決まるまで結婚しないの」
「へぇ~、それは寂しいね」
「だからそれまでは恋人は作るのよ。結婚はしないけど。
あっ、これはリカルドのお父さんの話であってリカルドはそんなことしないよ」
「それって愛人ってこと?」
「ううん、王が決まったら上位貴族の女性で希望者を2、3人愛人にするの。その中に光の精霊王の祝福を持つ子供を産んだ人が正妻になって、社交界に君臨できるの。
リカルドは、光の精霊王の加護だけどね。
とにかく今のリカルドのお母さんがそうなの。リカルドは軽蔑してるよ」
「ちょっと待って。その前の恋人は?」
「王を決めた時点で別れたらしいわ。身分の低い方だったそうだから。
それもリカルドが父親と不仲な理由なの」
つまりクライン様のお父様は身分の低い女性を結婚できるまでは囲っていて、王様を決めたら捨てて、その後上位貴族の若い女性と2,3人と結婚して、クライン様のお母様が正妻になったってこと?
ちょっと待って!
もしかして今私は身分の低い恋人になる女だと思われているんだろうか?
私は落胆のあまり、床に座り込んでしまった。
「ああ~、この情報もっと早く欲しかったぁ」
「どうしたのよエリー。」
「クライン様ってそんなすごいヒトだったんだ。だから令嬢たちはあの人が私にちょっと声を掛けただけであんなに目くじら立てたんだ。
だって私は王の選出とは全く関係のない平民で恋の相手になっても問題はないから」
「恋の相手ってエリー、リカルドとそういう仲なの?」
「全く違う。クライン様と同じくらい勉強が出来る同級生なだけ。
でも私の性別は男の格好をしてようと女だから。
モカがクライン様とダイナー様の恋を妄想するように、あの方々も私とクライン様の恋を勝手に妄想して、私を排除しようとしてるの」
「何にもないんだったら、ただの逆恨みじゃない」
「そうなんだけど。こっちからはどうしようもない。でも過去を嘆いてもしょうがないね。あと4年半頑張るのみ」
「あたしたちも一緒にいるから」
モカが慰めるように抱きついてくると、ドラゴ君やミランダも抱きついてきた。
味方がちゃんといる。それだけでうれしかった。
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10万PV感謝記念SSを前後編アップしました。ありがとうございました。
ご興味のある方はどうぞご覧ください。
「Holy night」
前編)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054893085991
後編)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054893086337
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